固有名詞をどう読むか2017年10月12日 23時27分08秒

標記のことに関して、印象的な出来事があったので書きたいと思います。

外国のことについて書いたり話したりしていて、もっとも気を遣うのがこのことです。悩んだ経験のある方も、たくさんいらっしゃることでしょう。

大学に入って間もない頃、杉山好先生から、ドイツ語をきちんと読むことについて強烈な洗礼を受けました。その中に、固有名詞の発音をきちんとすること、というのも入っていました。カタカナで覚えている人名や地名と本場の発音が大いに違うというのは衝撃で、きちんと勉強し、きちんと表記しようと、心に誓ったわけでした。

杉山先生はドイツ語教育に関しては職業的な使命感をお持ちでしたから、そのカタカナ化は厳格で、バッハの世俗カンタータにおけるギリシャ神話の登場人物についても、ドイツ語ではこう発音する、と注釈をお書きになる念の入れようでした。ただ、古典ギリシャ語の長短を持ち込むのは行き過ぎだとおっしゃり(「ソークラテース」のように)、日本なら日本人の口(Volksmund)に合った修正があっていい、と言われていたことを覚えています。重要なご指摘です。

音楽の研究を始めてみると、この世界にも、発音の厳格化を志す先生が複数おられることがわかりました。私も基本的に、その方向で出発したわけです。でもやってみるとそれはひじょうに困難なことで、長所も短所もあり、私は少しずつ、折衷的なやり方をするようになりました。

先日、国際陸上の中継を見ていたら、とても珍しい名前のドイツ人がいたのですね。でも綴りを見ると、ごく普通の名前。読み方の問題であるわけです。しかし私がわかったのはドイツ人だったからで、どう読むのやら、判定しようのないものが圧倒的多数です。知っているものだけ正したくなるのも狭量、という気もしますが、それぞれ正し合わないと進歩しない、ということもあるでしょう。もちろん、世界中の選手が出てきたのでは、それぞれを現地発音でというわけにいかないのは当然です。ただ、違う読み方がそのまま定着してしまう困るケースも、あるかと思います。

簡単な前振りをしようと思って書き始めましたが、皆様お気づきのように、これは気が遠くなるほど複雑なことです。しかし体験談自体はシンプルなので、次回に。