心澄みわたる短編集2018年01月19日 22時30分24秒

女性の小説ばかり読んでいた昨今でしたが、男性のすばらしい本に出会いました。浅田次郎さんの『神坐す(います)山の物語』(双葉文庫)です。

登山小説かなと思ったら、さにあらず。御岳山の神官の家に育った著者が、伯母さんから聞いた昔話が連作形式で綴られています。

私は国木田独歩の『武蔵野』を読んだときに、明治の作家の文章はなんとすごいのだろう、と驚嘆したことがありますが、その記憶が蘇りました。私には出てこない、しかし存在したことは知っている美しい日本語の語彙が次から次へとあらわれ、かつての聖山での出来事が、神韻渺々と描き出されていくのですね。別世界に誘われ、心洗われる思いで読み進めました。私より若い著者にこういう日本語が伝えられていて、うれしかったです。

神社と言えば、殺人事件で参拝客が減っている神社のニュースが流れていましたよね。マイクを向けられた人の中に、「神様に責任はないわけだから」とおっしゃった方がいて、その洒落に脱帽。神様に責任があるかどうかを人間が決める時代になったんだなあ、としみじみした気持ちになりました。