ヨーロッパ通信2014(3)/アルクマールの幸せ2014年04月12日 14時39分29秒

11日(金)は、アムステルダムからバスで北に小一時間走り、チーズの本場として知られるアルクマールを訪れました。金曜日でチーズ市が開かれていますが、私は乳製品アウトなので、それには興味がありません。写真は立派なチーズ計量館。 

アルクマールで楽しみだったのは、聖ローレンス教会のオルガン・コンサートを聴けることでした。ただし大小どちらのオルガンを使うかはわからない、とアナウンスされていました。できれば、大オルガンを聴きたい。なぜならこの楽器はフランツ・カスパル・シュニットガーの名器で、ヘルムート・ヴァルヒャを始めとする代々の名オルガニストが、コンサートに、録音に使ってきたものだからです。 

じつに堂々たる構えの大教会でした。中は意外にガランとしているのは、アムステルダムの旧教会と似ています。しかし折悪しく、改装工事が進行中。コンサートが行われる様子はなく、大小どちらがいいどころの話ではありません。私のツキもここまでか、と萎れた心境になりました。

ところが、捨てる神あれば拾う神あり。専属オルガニストであるフランク・ファン・ヴァイクさんが、小・大2つのオルガンについて自ら説明し、演奏もしてくださるというのですね。長身のとても友好的なファン・ヴァイクさん、サイドにある小さい方のオルガンから、熱を込めて説明を始められました。1511年に設置されたこの楽器はミーントーン調律だというので、まず、音階上の和音の不揃いを実験。次にスウェーリンクの作品を3曲。ペダル付きのプレリュードと、エコー・ファンタジー、そして《いと高き神にのみ栄光あれ》による変奏曲。小さなグループなのに全力投球で演奏してくださるお人柄に、まず感銘。 

次に大オルガンです。外見の美しさといい、たたずまいの壮麗さといい、堂々たるオルガン。ファン・ヴァイクさんは、この楽器との出会いがオルガニストになったきっかけであり、世界のシュニットガー・オルガンの中でも最高のもののひとつだと誇り高くおっしゃり、バッハの作品を演奏してくれることになりました。パルティータ《ようこそ、慈悲深きイエスよ》とヘ長調のプレリュードBWV540という、すごい選曲。父アルプのオルガンほどの冴えは感じませんが、ゴシック建築の空間に反響するパイプの音が地上にやわらかく降り注ぐ雰囲気は、コンサートホールでは味わえないもの。そのパワーを総動員して演奏されたヘ長調プレリュードでは、バッハのオルガン音楽の巨人的なスケールを、あらためて実感しました。

 本当に嬉しい体験でした。不肖私の運気はますます上昇しているように思えてならないのですが、いかがでしょう(汗)。

ヨーロッパ通信2014(2)/リチャード・エガー、息を呑む《マタイ》初稿2014年04月11日 13時54分30秒

市内観光や美術鑑賞の話はいずれ補うとして、コンサート・イン・コンセルトヘボウの話に参ります。


最初の鑑賞は、10日(木)の《マタイ受難曲》、リチャード・エガー指揮、エンシェント室内管に予定されていました。ところが到着後、9日(水)に同じコンセルトヘボウで、トン・コープマンとアムステルダム・バロックによる《マタイ》があると聞いて、耳を疑いました。それがわかっていたら旅行の価値は倍増し、お客様もずっと増えていただろうにと、天を仰ぎました。

ガイドさんの協力でなんとか若干のチケットを入手し、希望される方に配布。私は美術館で疲れていたこともあり、飲食組に回りました。コープマンの《マタイ》はDVDがあり、よく使ってもいますから、おそらく想定範囲とも思われました。


どうなるか想像もつかなかったのが、エガー指揮、エンシェントの《マタイ》。興味はもっていましたが、結果への確信はもてないまま、聴きに行きました。そうしたら、エガー氏いきなりのスピーチで、初稿の話をします。つまりその日は、初稿による演奏だったのです。《マタイ》の初稿は実演でも何度か聴いたことがありますが、良かったと思ったことがありません。

ところが。音楽が始まったとたん、エガーの克明な指揮のもと、緊張感ただならぬ音が押し寄せてきてびっくり。初稿が研究し尽くされていて、改訂稿の存在をなつかしむゆとりを、聴き手に与えないのです。

デンポはじつに速く、史上最速かもしれません。なによりコラールが速く、ドラマにがっちり組み込まれている。外側から悠長に入ってくるのとは大違いです。結果として、コラールの民衆性といったものは吹き飛んでいるのですが、そこが小休止にならないので、聖書場面の緊迫感が、一貫して持続される。これにこたえるエンシェントの合唱がたいしたもので、小さい役を分担した男声の声は、皆ソリスト並みです。

こうして「エガー劇場」と呼びたいような迫力満点の演奏が展開されました。これに貢献したのが、エヴァンゲリストのジェームズ・ギルクリスト。美声を完璧にコントロールし、正確そのものの発音で、言葉を、センテンスを、会場のすみずみに語りかけるように歌う。私は日頃から「エヴァンゲリストの歌唱は閉じられたものであってはならず、ドラマに開かれていなくてはならない」と言っているのですが、まさにそれが実現されています。知りませんでしたね、こんなにすごい歌手だったとは。エヴァンゲリストとしては、パドモアと双璧でしょう。アリアを歌うテノールのトマス・ホッブスも際立った美声・感性の持ち主で、これから出てくること間違いなしです。

イエスはマシュー・ローズという歌手で、ありあまる声をもつバス・バリトン。その雷のようなVox Christiは《ヨハネ》ではともかく《マタイ》では疑問にも思いましたが、エヴァンゲリストとの声の対比が狙いのうちにあるとすれば、それはみごとに達成されていました。惜しむらくは、女声2人のソロが内容希薄に思われたこと。テンポについていくので精一杯だったのかもしれません。バスはモルトマンでした。

というわけで、この上なくエキサイティングかつクリエイティヴな《マタイ》。イギリス勢を代表して来演しただけのことはあります。それで気づいたのですが、もしコープマンのコンサートの存在を事前に把握していたら、どうだったでしょうか。3日連続を避けて、エガーをパスしたかもしれないと思うのです。結果オーライ、二重丸だったということは、私のツキはまだ持続しているようです(コメントの方々、おあいにくさまです)。


ヨーロッパ通信2014(1)/着きました、アムステルダム2014年04月09日 23時59分00秒

皆様、日本でお忙しいさなかに失礼します。不肖私、アムステルダムに到着いたしました。

万全を期して、前日は成田泊。ホテル(エクセル)の部屋に立派なマッサージチェアがあり、これが強力。もみ方が多種多様であるばかりか、指の入らない固いところもよくほぐしてくれて快適でした。ずいぶん進歩しているようですね。値段によっては、購入もありに思えました。

おかげで快適に眠れ、早めに空港へ。いつもネットがつながらないと大騒ぎをしますので、今回は事前に検討し、海外専用の携帯ルータを予約。それでつながったか、とおっしゃるんですか?つながらなかったら、あなたはこの文章を読んでいないはずです。スマホ、タブレットもつながり、日本の出来事も野球の結果も、知っております。1日1200円で借りられますから、ぜひお勧めします。

大枚を投じてビジネスクラスに搭乗した目的は、心理的なものです。座席の住み心地はとても良かったのですが、機内食がまことに期待を裏切るもので、あとで非ビジネスクラスの方に探りを入れてみても、どう違ったかはっきりしない。問題点はこのことと、ガイドブックを忘れてきたこと。ともあれ、無事にアムステルダムに着きました。オランダは30年ぶりで、ほとんど初めて同然です。

強風が吹き、空を雲が飛ぶ寒い日。天候がくるくる変わり、雹が降るかと思えば、陽が指します。これって、17世紀ロイスダールの描く風景と同じですね。いかにも風車が回りそう。早く着きましたので、「北の水の都」を散策しました。


ハイネッケンのビール、こちらで飲むと二倍おいしいですね。というわけで、まずまず順調に、旅行が始まりました。市立劇場(写真)の近くにホテルがあります。



成田からご挨拶2014年04月07日 22時25分49秒

成田のホテルに入りました。皆さんは日本で働いておられると思いますが、私は明日、オランダに発ちます。

今回はなぜか、劇的な出来事が起こるような気がしません。順調に、オランダ、ベルギー、ドイツあたりを旅行して参ります。国際用のルーターを借りましたので、順調ぶりをご報告できると思います。

日本でも、ここしばらく、いろいろな出来事がありました。目立つなあと思うのは、「逆ギレ」という現象です。3人ぐらいすぐ思い浮かびますが、共通点は、自分に甘く他人に厳しいという、精神構造。良くないですね。こういう世の中になると、バッハのカンタータのメッセージが光ってきます。そこでは繰り返し、まず自分自身を振り返れ、と教えているからです。

旅行前に仕事を済ませるため、緊張した数日間でした。このパターンだけは、変わりません。では、次はオランダから!

被災地訪問2014年04月05日 18時54分53秒

3月28日(木)に名取、30日(日)に南相馬と、被災地に行ってきました。「サントリー&ウィーン・フィル音楽復興祈念賞」の委員をしていなかったら得られない、貴重な機会でした。証拠写真をお目にかけます。南相馬の教育長さんに、ステージで盾を差し上げているところです。でもどうみても、私がもらっているようですね(笑)。


南相馬では、「ゆめはっとジュニア・ウィンド・オーケストラ」に元気をもらい、名取では、新実徳英さんの「つぶてソングの集い」に参加しました。震災のこと、その後の復興努力のことなどを現地の方から伺い、そこで音楽が果たしている役割を実地に体験して、とても勉強になりました。

「復興祈念賞」、まだまだ続きますので、ぜひ応募してください。サントリー芸術財団のホームページhttp://www.suntory.co.jp/sfa/fund/に説明があります。夢と希望を与える音楽企画であれば、被災地以外からも応募できます。

斬新かつチャレンジングな企画を用意されている方のためには、やはりサントリー芸術財団に、「佐治敬三賞」があります。http://www.suntory.co.jp/sfa/music/saji/index.html

第13回の今年は、「東京現音計画」と「東方綺譚」が受賞しました。応募が採択されますと、私を始めとする選考委員が、手分けをして聴きに行くことになっています。いい企画であれば、現代音楽にはかぎりません。ぜひ、ご応募いただければと思います。

希有の体験2014年04月01日 23時27分23秒

合唱団CANTUS ANIMAEといっしょに1年がかりで準備してきた《ロ短調ミサ曲》の公演が、3月29日(土)、渋谷のさくらホールで行われました。私は監修、当事者なので、客観的な報告にはならないかもしれませんが、感じたことを率直に報告させていただきます。まず、リハーサル風景から。


指揮者雨森文也さんと合唱団のお考えで、徹底的に勉強しようという前提で始まった企画。言い換えれば、研究と実践の共同ということになります。私のレクチャーは、延べ18時間に及んだとか。話せるだけのことを話しておき、あとは自由に発展していただこう、というのが、私の前提。しかしその後の猛練習(週に3回、4回、5回と有志が集まったとか)が研究成果にたえず立ち戻り、私の提言を確認し合って進められたということを教えられ、びっくりしました。もちろん、研究と実践の位相は違います。私の考えがすべて実践されたということではなく、私の考えが演奏者にも深く共有されて、真のコラボレーションが実現されたと考えています。こんなすばらしいことが、人生に何度もあるとは思えません。


何よりそれは、テキスト、すなわちラテン語典礼文の完璧な理解にあらわれていました。私は、これほどテキストの内容がよく把握され、演奏の方向がテキストに即して統一されていた《ロ短調ミサ曲》を、少なくとも身近では、聴いたことがありません。全曲を通じて演奏から感じられた豊かな情感と潤いは、テキスト理解のたまものです。こう書いていると身びいきもあるかなと思うわけですが、世界を聴き歩き、高い理解力をお持ちのtaiseiさんが、三本の指に入る、とまでおっしゃってくださいましたので、一定の客観性はあるかなと思います。テキストへの努力の垣間見える画像を、ひとつ。


私が心配していたことのひとつは、意欲と若さにあふれる合唱が独走し、ピリオド楽器の合奏を圧倒してしまうのではないかということでした。ところが、まったくそうではなかった。合唱はつねに抑制され、器楽に耳を傾けて、響きを共にする姿勢に貫かれていました。これは、合奏の側にも言えることです。結果として、落ち着いて柔らかい響きが確保され、ピリオド楽器ならではの陰影が、実現されていました。打ち上げで、客分の方々から「CAの平素の演奏とはまったく違う」「自分を聴かせるのではなく、バッハを聴かせる演奏になっていた」という感想が寄せられたのは、そのためでしょう。こういう風に生かせるのであれば、ピリオド楽器を使って、本当に良かったです。コンマスの大西律子さんが、適切な人選で、いいオーケストラを組んでくれました。


期待でもあり、懸念でもあったのは、私の手駒である若い声楽家が、コンチェルティストの大役を担ったこと。《ロ短調ミサ曲》の合唱を歌い、ソロも歌うほど困難なチャレンジは、ほかにありません。しかし合唱の練習に少し付き合ってくれれば、という期待を含めて依頼した5人が、合唱団に溶け込んだばかりか、パート練習まで積み重ねたという献身的な対応をしてくれたのにはびっくりし、感動しました。それによって、彼らも、大きな勉強をしたわけです。課題はもちろん残るにしても、大健闘だったと思います。その晴れやかな達成感があらわれた終了後の写真をどうぞ。左から、大野彰展君(テノール)、安田祥子さん(ソプラノ1)、川辺茜さん(ソプラノ2)、高橋幸恵さん(アルト)、小藤洋平君(バス)。


こんなありがたい体験をさせていただき、ツキを使い果たして、しばし放心状態になった私でした。《ロ短調ミサ曲》の偉大さに、身も心も奪われる体験でした。

4月のイベント2014年03月31日 09時10分18秒

ここ数日の多忙でご報告すべきこともありますが、年度も替わりますので、先に4月のご案内をしておきます。

4月2日(水)から、朝日カルチャー新宿校の新年度です。ワーグナー、バッハとも継続ですが、10:00からの《リング徹底研究》は、《ジークフリート》に入ります。2日と30日(水)で、第1幕を取り上げます。まずは、4作の始まり方の比較などやってみたいと思います。

13:00からの「《ヨハネ受難曲》徹底研究」、チラシ等では第2部の始めからとなっていますが、昨季のうちにもう少し進んでおり、第23曲の聖書場面から始めることになります。第24曲が、合唱との対話を含むバス・アリアです。4/30に2回目があります。

4日(金)は19:00から紀尾井ホールで、セレモア主催のコンサートです。久元祐子さんのピアノ、高関健さん指揮、新日フィルの出演で、オール・モーツァルト・プログラム(《魔笛》序曲、ピアノ協奏曲第20番、《ジュピター》)。司会で出演します。

6日(日)は14:00から、すざかバッハの会(須坂駅前シルキーホール)。《ヨハネ受難曲》講座を継続しますが、2月が雪で中止になりましたので、進度は新宿に抜かれました。こちらは、第2部の頭からです。

8日(火)から、オランダ旅行に出かけます。いつも同様少し残って、視察と研究に費やします。20日(日)までの予定。その結果、聖心女子大の授業が21日(月)からということになりました。今年はオーソドックスに、バッハの生涯と作品を取り上げます。

26日(土)は、朝日カルチャー横浜校の新年度です。「魂のエヴァンゲリスト」講座も、いよいよ最終段階。補章の演奏論をベースに、バッハ演奏の変化と発展を確かめます。

「楽しいクラシックの会」(立川錦町学習館)は、旅行のあおりで、29日(火)の9:30~11:30となりました。変則日程申し訳ありません。《リング》を終えましたので、《トリスタンとイゾルデ》に入ります。とりあえず、その第1幕です。

以上、よろしくお願いします。

「古楽の楽しみ」新年度2014年03月29日 10時09分12秒

NHK・FM朝6:00からの「古楽の楽しみ」が、6年目を迎えることになりました。長くて5年、という認識でやっていましたので、さらに続けられるとは思いませんでした。なにしろ渋い番組。テーマによってはよほどの通人しか知らない曲を毎朝1時間、ということもあるわけですから、こんなに時間をいただいて、ありがたいかぎりです。皆様のご支援と、番組スタッフの支えのおかげです。

新年度は華やかに迎えたいと思い、《ブランデンブルク協奏曲》のリレー演奏を取り上げました。4月7日(月)は第1番です。ホグウッド指揮で初稿、アバド指揮のモーツァルト管とカフェ・ツィンマーマン(ピリオド楽器)で通常稿と、3つを聴き比べます。くどいかなとも思いましたが、全然違いますので、初めて聴く方はびっくりなさるでしょう。

4/8(火)は、第2番と第3番です。第2番はベルリン古楽アカデミーの全曲を聴き、第3楽章を、ミュンヒンガーで聴き比べ。トランペットの違いがテーマになりますが、このミュンヒンガー1972には、ニコレやヴィンシャーマンが参加しています。

第3番は短いので、全曲を2種聴きます。フルトヴェングラー指揮、ベルリン・フィルの1930年ライヴと、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団。これまた、まったく違います。残った時間で、第1楽章の編曲を2つ流します。カンタータ第174番のシンフォニア(BCJ)と、スウィングル・シンガーズのスキャットです。

4/9(水)は、第4番と第6番。第4番はイ・ムジチ1984でまず全曲を聴き、その第2楽章を、ブッシュ1935とリヒター1967で聴き比べます。さらにフィナーレを、チェンバロ協奏曲への編曲版で。演奏はアポロ・アンサンブル(フランス・ピッチ使用)です。そのあと第6番をラ・プティト・バンドで聴いて、この日は終わります。

4/10(木)は、第5番。まずペライアのピアノ弾き振りで全曲を聴き、ピリオド2種で反復します。第1楽章がコープマン、第2・第3楽章が小林道夫~松本バッハ祝祭アンサンブルです。最後に第6番に第3楽章を、フライブルク・バロック・オーケストラの新録音(フランス・ピッチ使用)で聴いて特集を終わります。

14年度も趣向をこらしますので、早起きの方、どうぞよろしく。

今月のCD2014年03月27日 13時05分04秒

すごく評判になっているアンドレア・バッティストーニ指揮、東フィルによるレスピーギ/ローマ三部作の2013年ライヴ録音(サントリーホール)が、新譜として出てきました(デノン)。

確かにすばらしいですね。地中海の空と海を思わせるカラッとして明るい響きが沸き立っていて、日本の会場で日本のオーケストラが演奏しているとは思えない。こういう若手が出てきたのなら、これからのオーケストラ・コンサートは楽しみになりますね。

レスピーギのローマ三部作というとどうしても影が薄いのは《ローマの祭》ですが、今回はその躍動感が、とくにいいと思いました。叙景に歴史を加えた構想が、なかなか。歴史という点でいえば、《祭》における巡礼の歌や、何より《松》におけるグレゴリオ聖歌の引用に、歴史をしのばせるオーラが欲しかったと思います。それが、単なる旋律に聞こえますので。

モーツァルトのピアノ協奏曲第25番と第20番の、アルゲリッチとアバドによるルツェルン・ライヴ(グラモフォン)もさすがにいいですね。ジャケットの表紙に若い頃の写真が使われていたのにはびっくりしました。

自信が芽生える2014年03月25日 12時06分32秒

23日(日)に、29日にさくらホールで開かれる合唱団CANTUS ANIMAE《ロ短調ミサ曲》公演のオーケストラ合わせがありました。

猛練習で盛り上がっている、という情報はしきりに入っていましたが、じつのところ、不安もありました。ピリオド楽器のオーケストラと響きを融合させて歌うのは経験を要することで、張り切りすぎるとかえってダメ。1日かけてどのぐらい歩み寄れるか、というぐらいの意識で、練習場に出かけました。一般論として、合唱団にとって、オーケストラ合わせは鬼門なのです。

でも身びいきなしで、とてもいい練習でした。合唱団にはっきりした気持ちの備えがありましたし、指揮の雨森文也先生は、私の5回にわたるレクチャーの内容をすべて頭に入れた上で、オーケストラ・パートも詳細に勉強されていたのです。奏者は大西律子さんが集めてくださった方々で、なじみの顔もかなり。そのみんなが、合唱団といっしょの音楽作りに、熱心にまた謙虚に、入ってきてくれたのですね。そうそうないことだと思います。

うたい文句にしている「研究と実践の共同」が、器楽のレベルでも確保される見通しがつき、本番に向けて、一定の自信が出てきました。土曜日の18:30、さくらホールにぜひお出かけください。