真の多様性2017年11月22日 22時35分28秒

篠田節子さんの『長女たち』が文庫化されたので(新潮文庫)、さっそく読んでみました。直木賞受賞作の『女たちのジハード』と同様の三部作で、それぞれ「家守娘」「ミッション」「ファーストレディ」と題されています。

1と3は当節深刻な介護を委ねられた長女の話で、それらも面白いのですが、すごいなあと思ったのは、第2作の「ミッション」。後進国の劣悪な医療環境を改善するために派遣された、女医さんの話です。

女医・長女さんの献身的な活動が地域の伝統に阻まれ、思いがけぬ出来事が起こっていくストーリーについては、皆様でお読みください。大いに感動しながら私が考えたのは、標記の多様性についてです。

多様性が大切だ、というのは、マスコミで大々的に展開されている価値観ですよね。それには誰も反対できないわけですが、この小説を読むと、それがグローバリゼーションを当然の前提とし、その内部で主張されているに過ぎないのではないか、と感じられてきます。先進国ではこうなのに日本はまだこうだ、とか、日本はどこかの採点で何点しか取れなかった、というようにです。

でも真の多様性というのは、そうしたグローバリゼーションも相対化せざるを得ないような、広いもの、大きいものではないでしょうか。そうした思いへと読者を小説によって導く篠田さんの思想性、宗教性、また作家としての勇気には、尊敬あるのみです。