福岡で学会2014年11月11日 11時53分33秒

今年の日本音楽学会全国大会は、九州大学。私は選挙管理委員長でしたので6日の木曜日に入り、7日に開票と全国役員会。8日、9日とフルタイムで学会をこなし、暦が10日になってから(=深夜に)戻ってきました。たいへん疲れましたが、しっかり運営された、いい学会でした。

4つの教室で発表が進行し、さらに2つのシンポジウムが行われています。そんな重なり方でしたので、公平な概観はとうていできませんが、わずかの分母の中から、まったくの個人的感想を述べておきます。

最初から注目していたのは、「後期マッテゾンの音楽美学における宗教性」という、私がやっても不思議はないようなテーマを出された岡野宏さん(東京大学)の発表でした。幅広くテキストを読み、バランスのよい意味づけを与えたレベルの高い発表で、私が長いこと離れてしまっているマッテゾン研究の後継者を発見したような、嬉しい気持ちになりました。

中間発表を聞いたことがあったのが、京谷政樹さん(大阪音大)の「サーストン・ダートの音楽解釈」。その段階ではこの日の発表をまったく予想できず、驚かされました。なぜなら、京谷さんが研究した内容をすっかりわがものとし、自分のとらえ方、考え方を熱く語って、諸先達の評価を仰ごうとしていたからです。論文に集中することで若い人がいかに成長するかの好例に接し、さわやかな思いに誘われました。

選挙管理業務に奮戦した方の一人、神保夏子さん(東京藝大)の「マルグリット・ロンとフォーレ」。いい意味でとても面白く構成された発表で、展開に魅了された聴衆から、終わったとたんに拍手が湧き上がりました。普通は、質疑応答が終わったところで、拍手を差し上げるのです。

全体として、先輩から見たアドバイスというのももちろんありますが、それについては、稿を改めたいと思います。皆さん、お疲れさま。

雄渾な合唱2014年11月08日 08時06分02秒

「古楽の楽しみ」、今月はヘンデルのオラトリオを特集しました。

 昔の音楽史を読んでみると、ヘンデルはバッハと双璧に扱われ、その神髄はオラトリオ、と説明されています。でも、ヘンデル作品への関心はこのところオペラに移っていて、《メサイア》を別格とすれば、以前ほどオラトリオが演奏されないように思いますが、どうでしょう。

そこで、新しい録音のあるものを中心に、4作品を選びました。17日(月)が《サウル》で演奏はマクリーシュ。18日(火)は《エジプトのイスラエル人》で演奏はガーディナー(これだけ古い演奏)。19日(水)は《マカバイのユダ》(放送では《マカベウスのユダ》)で演奏はシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭のもの(ベック指揮)、20日(木)が《ベルシャザル》で、演奏はクリスティです。

すべて合唱オラトリオですから、4日間、壮麗でのびのびした合唱がスタジオからあふれました。広い音域が融通無碍に使われて、生命力絶大。やはり並外れた音楽だと実感しました。朝聴いていただければ、元気が出ると思います。いずれも甲乙つけがたい作品ですが、劇的構成に凝っているという点では《サウル》がよく、円熟味と演奏の魅力では《ベルシャザル》がお薦めかなと思います。

ヘンデルは今後も続けますが、12月はバッハのカンタータ、来年1月はチェンバロ音楽の特集を予定しています。よろしくどうぞ。

11月のイベント(いずみホール篇)2014年11月05日 07時41分44秒

いずみホールの今年の年間企画は、「モーツァルト~未来へ飛翔する精神 充溢/ウィーンⅠ」。プレイベント、スペシャル・コンサートと終わり、いよいよ本番です。年内に3回(今月2回)、年明けに2回あります。

まず12日(水)に、「学び深める弦楽四重奏の世界」。ハイドン・セットの2曲(ニ短調K.421と《不協和音》K.465)にハイドンの《皇帝》を加えて、ゲヴァントハウス弦楽四重奏団が演奏します。

次の水曜日、19日は、「友情のホルン」と題して、ホルン協奏曲2曲(第3番、第4番)と《リンツ交響曲》。ベルリン・フィルのシュテファン・ドールをソロに迎えます。指揮はクリスティアン・アルミンクで、オーケストラは、躍進著しい京都市交響楽団です。どちらも、19:00から。私も参ります。

来月6日(土)に、オールスター・キャストによる《フィガロの結婚》があります。これについては、またご案内します。全5回のコンサート、今年は出演者にいい顔ぶれが揃っているので、私も楽しみ。詳細はこちらで。 http://www.izumihall.co.jp/mozart2014/

なつかしの1日2014年11月02日 22時54分52秒

定年を迎えるということは、一つには職場のために使われていた時間が、別の目的のためになし崩しになっていく、ということです。結果として、お世話になった職場のことも、意識から薄らいでいく。まさにそうなりかかっていたところへ、国立音楽大学から出番をいただき、31日(リハーサル)、1日(本番)と、久々にお邪魔してきました。

1日は、ホームカミングデーというイベントの日。卒業生の方々を年に一度お招きし、学内見学とコンサートを楽しんでいただいたあとパーティで旧交を温めよう、という企画です。そのコンサートに、山梨県の合唱団「La Consòrte」といっしょに、私のプロデュースする「モーツァルトの二重唱~恋の味さまざま」を出品させていただきました。

これは、管楽器の伴奏するオペラという、国音オリジナルとして追究してきた企画シリーズです。各県の卒業生の方々と共催して、ずいぶん演奏旅行をさせていただきました。2012年には、いずみホールでも披露しています。

感覚が戻るかどうかちょっと危惧しましたが、その心配はありませんでした。レクチャーをしながらの本番で本当に驚かされたのは、正味45分ほどの内輪のコンサートに、出演者の全員が、文字通り全力投球してくださったことです。その真剣さが客席も巻き込み、熱い盛り上がりが作り出されたと申し上げて、身びいきではないと思います。アンサンブルを大切にする音楽への向かい合いと、そこに生まれる温かさ、失われていなかった信頼関係。国音っていいところだなあと、あらためて思いました。

熱気にあふれた楽屋での写真を公開します。残念ですが、歌い手だけ。編曲で貢献した足本憲治君も、その場にいれば良かったのですが。


左から、葛西健治君(テノール)、松原有奈さん(ソプラノ)、私をおいて澤畑恵美さん(ソプラノ、最多出場)、成田博之さん(バリトン)。この表情を見ると、楽しくて仕方がない、というお言葉もどうやら本当のようです。また、どこかで生かしたい企画です。

11月のイベント(個人篇)2014年10月30日 23時47分42秒

日本シリーズ、終わりましたね。私のスマホはdocomoですし、阪神対ソフトバンクとなると、遠いチーム同士の対決。その場合はパ・リーグ、という原則に従って、初めてソフトバンクを応援しました。秋山監督、衆目の一致する有終の美ですね。おめでとうございます。

などと言っているうちに、もう月末。来月のご案内をしますが、今日はまず、私個人のかかわるイベントをご紹介します。

11月1日(土)13:00から、国立音楽大学の「ホームカミングデイスペシャルコンサート」という同調会イベントに出演します。教員時代にやっていた「管楽器伴奏によるモーツァルトのオペラ・シリーズ」を、卒業生たちの集まる場で復活させようというアイデアです。タイトルは「モーツァルトの二重唱~恋の味さまざま」。澤畑恵美さんその他、大学の誇る方々が出演されます。大学でのイベント参加は、定年後初めてです。

5日(水)10:00からの朝日カルチャー新宿校/ワーグナー講座はすでにご案内しましたが、13:00からのバッハ/リレー演奏講座は、「イタリア協奏曲とフランス風序曲」がテーマです。この講座、予習をして来られる方がいるほど期待と熱気があるものですから、私もたくさんの資料を用意して臨んでいます。

6日に福岡に入り、九州大学で、日本音楽学会の全国大会です。今年は選挙管理委員長を仰せつかっているので、早出をし、業務をこなします。盛りだくさんのプログラムですから、一般の方もお出かけください。8日(土)、9日(日)が開催日です。

15日(土)10:00~12:00の「楽しいクラシックの会」(立川市錦地域学習館)、11月から《パルジファル》に入ります。この作品、すばらしい公演があったばかりで、日本語付きDVDも揃っていますので、いいタイミングです。終了後皆さんで毎回食事に行くのが、この会の大きな楽しみです。

朝日カルチャー横浜校の「新研究によるモーツァルトの生涯」、私の都合で12月分を事前消化しますので、今月は22日(土)、29日(土)の2回あります(13:00~15:00)。ちくま学芸文庫の拙著を音楽を鑑賞しながら読み進めようというのがベースになります。22日は「大人になるための克服期」、29日は「ウィーンでの大成期」で、ここまでで生涯の展望をまとめようという構想です。

23日(日)は、すざかバッハの会の《ヨハネ受難曲》講座。第2部の大詰め、ソプラノ・アリアから結びの合唱曲、コラールを取り上げます。14:00~16:30、須坂駅前のシルキーホールです。勉強成果をお届けします。

いずみホールのモーツァルト・シリーズ、放送「古楽の楽しみ」については別途ご紹介します。11月3日(月)、いずみホールの特別企画「フリーメーソンの神秘」が迫っていますので、よろしく。

《トリスタン》講座のご案内2014年10月28日 23時49分31秒

明日の29日で、長かった《リング》講座(朝日カルチャーセンター新宿校)が終わります。11月から、《トリスタンとイゾルデ》全7回です。隔週奇数水曜日の10:00~12:00ですが、11月は5日のみです(19日はいずみホールのコンサートがあるので、休みにしました)。

「トリスタン入門」と題したその第1回に、友人の音楽理論研究家、見上潤さんにご出演いただくことになりました。見上さんは和声とピアノの達人で縦横にトリスタン和声をお弾きになるので、まずその響きから入っていただこう、という試みです。1回受講もできますので、よろしければお出かけください。

今日は家で、《クリスマス・オラトリオ》の字幕作成と、明日のワーグナー講座(《リング》総集編)、およびバッハのリレー演奏講座(無伴奏チェロ組曲)を準備しました。相当盛りだくさんになりましたので、受講の方々、ご期待ください。

ジョンはヨハネ2014年10月27日 23時31分12秒

26日(日)は、一橋大学の兼松講堂(国立市、家から歩いて10分ちょっと)で、渡邊順生さんによるモンテヴェルディ《聖母マリアの夕べの祈り》の公演がありました。私はいわば閣外協力。解説と字幕を提供し、ナビゲーターを務めました。

この講堂、響きといい雰囲気といい、とてもいいですね。演奏も、クリアな音像が作り出されて緊張感が高く、本格的だったと思います。やはり、ジョン・エルウィスの存在が絶大。作品が完全に自分のものとなっていて、ラテン語のセンテンスが明瞭に聞こえてきました。全体としては、そこにやはり課題が残ったと思います。しかし演奏するから課題も生まれるわけで、出演させていただいた仲間たちも、さぞ勉強になったことでしょう。

ジョン(=ヨハネ)で思い出しました。最近よく受ける質問は、「ギリシャ語の勉強はまだされていますか」というものです。どうやら、礒山は三日坊主、という認識が世にあるようなのです。

やっていますよ。『ヨハネ福音書』第1章に続いて、第18章を暗記しました。受難曲のテキストでいうと、第2部、テノールのアリアの直前まで来ています。明日から、第19章をやります。

始めて良かった、の一言です。聖書を原語で読むことの意味が、本当によくわかるようになりました。ましてや暗記していますので、記述の関連とか、書き手の工夫とかが感じられ、興味が尽きません。慣れてみると、メッセージはけっしてソフィスティケートされたものではなく、いい意味で単純なものです。興味のある方はぜひ、挑戦してみてください。

今月の特選盤2014年10月25日 23時04分53秒

今日、25日から朝日カルチャー横浜校のモーツァルト講座が出発しました。いいスタートが切れてほっとしているところです。

で、今月のCD。私の特選は、ジャン=ギアン・ケラスとアレクサンドル・メルニコフによるベートーヴェンの「チェロ作品全集」です(ハルモニアムンディ)。5つのソナタと3つの変奏曲が入った2枚組です。

20世紀のチェロがロストロポーヴィチの時代だったとすれば、21世紀はケラスの時代。雄大、豪快な方向で存在感を高めたチェロが、今は小さい方向を向き直して、そこに優美と瀟洒を発見している。古楽の波と連動した出来事ですが、私がそれを支持するのは、作品に即した、緻密なコラボレーションがそれによって実現するからです。その意味で、メルニコフというパートナーの存在が大きい。初期作品の爽やかにして気品のある演奏は、とくに絶品です。

もう一点という向きには、管とピアノの五重奏曲を集めた「レ・ヴァン・フランセの真髄」(ワーナー、3枚組)を。こちらは、スターが腕前を競い合う伝統流。知られざる作品も、華やかなノリで手に汗を握るように聴かせてくれます。

女性誌でバッハを語る2014年10月24日 10時19分11秒

ご縁があり、「毎日が発見」というKADOKAWAの雑誌で、インタビューしていただきました。全8ページ(!)、カラフルな構成で、CD紹介やコラムも入っています。インタビュー記事はときおりやっていただきますが、ゆったりとした美麗な紙面での、これほどの大特集は記憶にありません。


サブタイトルが「100歳まで美しく、強く生きる」となっていることからわかるように、高年齢世代の女性が対象になっている雑誌のようです。単価680円、定期購読が基本とのことで、購入に関してはサイトhttp://www.mainichigahakken.net/をご覧ください。タイトルは「バッハの真髄を聴く」。副題に「60歳を過ぎてこそ心にしみる」とあります。いい時期にいただいた仕事でした。

今月の「古楽の楽しみ」2014年10月21日 14時15分06秒

すみません、うっかりしているうちに放送、2回分終わってしまいました。後追いですが、4日分ご案内します。(Tenor1966さん、ご指摘ありがとうございます。)

今月は、「バッハと楽器」という特集を組みました。バッハがその楽器のために書いた音楽を、声楽曲のオブリガートも含めて聴き、その楽器に対するバッハのイメージもつかめれば、という企画です。

20日(月)は、フルートです。まず、代表作のロ短調のフルート・ソナタBWV1030を、ハーツェルツェト&オッホの演奏で。この名曲を使うのは、初めてです。オブリガートとなると、なんといっても有名なのは《コーヒー・カンタータ》のソプラノ・アリアですね。これにはグリム&ハーツェルツェト&コープマンの演奏を使いました。宗教曲ではやはり、《マタイ》第2部のソプラノ・アリアでしょう。これは、手に入れたばかりのクイケン盤で(ソプラノはゼーマン、フルートはM.アンタイ)。その前の聖書場面を含めて出しました。締めは無伴奏パルティータ。これも初出しですが、ジェッド・ウェンツの演奏はなかなか面白いと思いました。

21日(火)は(今日でしたが)、オーボエ特集。オーボエとヴァイオリンのための協奏曲で入り(カフェ・ツィンマーマン演奏)、オブリガートの美しいカンタータ第32番を全曲聴きました(ガーディナー)。それから《マタイ》第1部のテノール・アリアを、ヤーコプス注目の新録音で。テノールはレートプーです。最後にオーボエ・ダモーレ協奏曲BWV1055の第1楽章をグッドウィンの演奏で聴き、締めとしました。

22日(水)は、ヴィオラ・ダ・ガンバです。まず、カンタータ第106番を、ガーディナーの最新録音で。ガーディナーの最近の演奏には、本当に「間」が出てきましたね。次に第1番ト長調のソナタを、ツィパーリング&バウアーの演奏で。ガンバが印象的なのは何と言っても受難曲ですから、《ヨハネ》のアルト・アリアと、《マタイ》のバス・アリアを聴き比べます。演奏は《ヨハネ》がスティーヴン・レイトンの新録音で、カウンターテナーはイェスティン・デイヴィーズ。《マタイ》には、定評あるレオンハルトのものを使いました。バスがメルテンス、ガンバはW.クイケンです。

23日(木)はリュートです。まず《フーガとアレグロ》を、最近手に入れたヨアヒム・ヘルトの演奏で。次にカンタータ第198番(選帝侯妃追悼頌歌)から、リュートの響きが印象的なアルトとテノールのアリアを、パロットの指揮で。やっぱりいい曲ですねえ。リュートは両受難曲にも、稿によりますが使われていることをご存じでしょう。《マタイ》の〈来たれ、甘き十字架〉のアリアは、初稿ではリュート伴奏でした。いい演奏があったら前日のガンバと比較できて面白い、と思って探したところ、ヤーコプスの新盤が、なんとリュートを使っていることが判明。この曲にはリュートがよく、ガンバへの変更はやむなく行ったのではないか、という考えがあるようです。かくして、比較が実現しました。バスはコンスタンティン・ヴォルフ。最後は、バッハのリュート曲の多くが想定していたとされるリュート・チェンバロで、組曲ホ短調BWV994を聴きます。演奏は渡邊順生さんです。

というわけで構成に凝った今月でしたが、ご案内を忘れてしまいました。申し訳ありません。