芸大ゼミ終わる2014年01月18日 21時33分11秒

16日(木)で、芸大のゼミが終了しました。これで、芸大も定年になります。そこで最後にもう一度、このゼミのことを。

発表者が二回りすると《ヨハネ受難曲》を(間を抜きながらも)最後まで勉強できたのですが、それは果たせませんでした。それでも、気持ちは満たされています。なぜなら、残り時間が迫る中、この日は3人の発表者が簡潔に、水も漏らさぬリレーで発表し、それぞれ1回目に比べて、格段の進歩を示してくれたからです。これなら、終わっても大丈夫です。

何度も申しましたが、とにかく、学生の勉強ぶりがすごかった。聖書の参照、テキストの読解、稿の比較、楽譜分析など多角的な研究を徹底してやってきて、何ページもの資料を配付し、週をまたぐとバージョンアップ。誰もが、真剣に取り組んでくれているのです。したがって私も、発表ごとに、賛辞を連発。私は、どんな場合も「ほめて育てる」ことがいいと思っているわけではなく、教育には厳しさが大切、信賞必罰を基本にしたい、という主義なのですが、今回は、ほめながら指導するという本当にいい形を取ることができました。

振り返ると、最初に当たった3年生2人のがんばりが大きく、次に大学院のエースが登場して、流れができたのです。駅伝で、各チームが1区、2区にこだわる理由がよくわかりました。これによってみんなの目の色が変わり、区間賞がいくつも出るようなリレーが実現しました。40年の教師経験で最高のゼミを最後の年に経験することができ、まことに幸せです。

学生たちへの感謝を込めて、打ち上げは、「ラ・ゴローザ」を貸し切りにして行うことにしました。いずれ写真入りでご紹介したいと思います。

神隠し2014年01月16日 11時17分09秒

朝、カルチャーに出かけるにあたり、《ヨハネ受難曲》のCDを2、3種持参しようと思いました。

ところが、玄関正面に設置されているCDの棚に、《ヨハネ受難曲》のCDがひとつもないのです。左側上からカンタータ、《ロ短調ミサ曲》、《マタイ受難曲》と来て、次の列の上に《ヨハネ受難曲》があるはずなのですが、《マタイ》の次が《クリスマス・オラトリオ》になっている。え~、なぜでしょう。

キツネにつままれたような気持ちになり、目を皿のようにして見直しましたが、BWV順に整理されたCD群の中で、《ヨハネ受難曲》だけが忽然と消えています。「神隠し」という言葉が、頭に浮かびました。最近《ヨハネ受難曲》を一番やっているので、神様がいったん、手の届かないところにもっていってしまったのか、と。

別室を探しても、妻に尋ねてもわかりません。そもそも、《ヨハネ受難曲》だけきれいにない、というのが、たまらなく不思議です。とりあえずどこかで買おうか、新しいのが出ているかもしれないな、とも、急ぐ中で考えました。

約10分後に解決。書斎の棚を整理し、一番よく使う《ヨハネ受難曲》のCDを、書斎の中にまとめて移動させたのです。大晦日に、そういえばやりました。まったく覚えていなかったということは、人生も後期だ、ということですね。

せっかくですから、写真をお見せします。玄関の正面にある棚の左3列がバッハで、空いたところがあるのは並べ替え中のため。増える分は、プラスチックのケースを捨てることで調整しています(バッハ以外は全部捨てている)。下に積んであるのは、間に入れるため順序に並べた予備軍。ほとんどは寝室にあり、DVD、バロックは書斎に置いています。







芸術と人生2014年01月14日 06時43分44秒

佐藤愛子さんの『血脈』、分厚い3巻本なので躊躇しつつ手に取り、第1巻を、休み休みですが読了しました。いや、たいへんな迫力です。

ストーリーの迫力もありますが、それ以上に、人間模様の迫力がすごい。「生きざま」という言葉はこういうことのためにあるのか、という感じです。主人公佐藤紅緑(父君)の男性像は、中でも圧巻です。

しかし小説家は、自分の家族のことをよくここまで書けるものですね。普通なら人に言いたくないこと、忘れてしまいたいことが、全部書いてあるわけですから。とうてい、まねができません。

サトウハチローさんは私が子供の頃よくラジオに出ておられた方で、私はその詩が大好きです。『血脈』にもたくさん引用されています。わずかの言葉に凝縮され、透明でやさしいその詩が、阿鼻叫喚の人間模様の中に出現するギャップをどうとらえたらいいか。あの詩からこの人生を読み取れる人はいるでしょうか。

しかしこれが芸術と人生の関係だ、という感じも強くします。おとなしく生きていたら、ああいう詩は生まれない、ということなのですね。

マウス型スキャナ2014年01月11日 23時24分50秒

私のプリンタは、A3印刷のできるブラザーの複合機です(MFC-6890CN)。安定した性能でトラブルも少なく、気に入っています。

機能選択のボタンは上から、ファクス、スキャン、コピー、デジカメプリントと並んでいる。圧倒的に使うのはスキャンです。プレゼンテーテョンの素材作りのために、何より譜例ファイルの作成のために使うのです。スコアの1ページをスキャンし、Irfanで特定部分を切り出し、保存して使っています。慣れては来ましたが、簡略化したい作業ではあります。

今日、一太郎新バージョンの案内を見ていたら、プレミアムには、スキャン機能付きのマウスが付く、というのですね。これはいいのではないかと思い、大阪で購入しました。あ、買ったのはマウスだけで、KING JIMのMSC10という機種です。定価の6割ほどで買えたのにはびっくりしました。

さっそく使い始めました。まだ要領がつかめていませんが、特定箇所のみをスキャンするためには、威力を発揮しそうです。ページごとにスキャンして切り出すやり方ですと、上下逆のページを回転させる必要がよく生まれますし、本とスクリーンのサイズが合わない場合が面倒。スキャンが終わるまで待ち、それから範囲指定して切り出し、保存するということになるので、小回りが利きません。使い込んでみます。

感動の仕事始め2014年01月08日 10時37分02秒

須坂のカンタータ/受難曲コンサートのリハーサルをしていた時のことです。アンサンブルは演奏者自身に作っていただき、私は説明したり、要望したり、助言したりしていたのですが、ちょっと力が入って、一瞬、指揮の身振りをしてしまいました。

そうしたら、弦楽器の音がワッと寄ってきてびっくり。鳥肌が立ちました。これが指揮かとも思いましたが、私は指揮という仕事がどんなに困難かよく知っていますので、自分で指揮棒を握りたいとは思いません。ただ、このように演奏家の方々と一緒に音楽を作っていく作業には、言い知れぬ魅力を感じます。その場合、遠慮しながらというのでは、かえってダメ。踏み込んで初めて、いい結果は出るものです。そのための必須の条件は、演奏者との信頼関係です。

そのモデルケースとも言えるようなコラボレーションが、目下進行中。合唱団「CANTUS ANIMAE」との《ロ短調ミサ曲》です。1月4日、朝10時から夕方17時までやった練習が、今年の仕事始めになりました。楽しい懇親会付きで、久々に二次会まで行きました。

この合唱団、全日本合唱コンクールの東京大会で、7人の審査員が全員1位をつけた金賞を取ったとか。常識ではとうてい考えられないことで(意見は必ず割れる)、実力の証明です。全国から集まってくる団員の熱意がものすごく、音楽への取り組み方が爽やか。指揮者、雨森文也さんの情熱、信望、探究心のたまものだと思います。

企画のご相談をいただいたときに、私からは、ピリオド楽器の使用、コンチェルティストの採用という2点を提案しました。4日の練習にはコンマス(大西律子さん)と通奏低音(西澤央子、櫻井茂、廣澤麻美の皆さん)も加わり、準備が進んできました。コンチェルティスト、と口で言うのは簡単ですが、なにぶん大曲ですから、合唱のリーダーとソロを兼ねる負担は、なみなみではありません。しかし安田祥子、川辺茜、高橋幸恵、大野彰展、小藤洋平のiBACH勢がパート練習まで司ってくれる熱心な取り組みで、成果があがりつつあります。

というわけで、自分としても大事なコンサートになりそうです。3月29日(土)、渋谷のさくらホールで公演しますので、ご予定いただけると嬉しいです。

今月のイベント2014年01月06日 23時28分02秒

恒例のご案内です。授業は今日から始まり、すでに立ち上がっております。

11日(土)はいずみホールのモーツァルト・シリーズ今年度の最終回。ライナー・キュッヒル以下ウィーンの人々を中心に、ニ長調のディヴェルティメントK.334、フルート四重奏曲、オーボエ四重奏曲を演奏します。題して「室内楽はのびやかに」。私も参ります。

12日(日)は立川楽しいクラシックの会の例会(錦町地域学習館、10:00~12:00)。《神々の黄昏》の第2幕にたどり着きました。

朝日カルチャー新宿校は、15日(水)、29日(水)の出講です。10:00~12:00のワーグナー講座「《ニーベルングの指環》徹底研究」は、《ワルキューレ》の第2幕を、2回かけてやります。13:00~15:00の《ヨハネ受難曲》講座は、第1部の終わり、「ペトロの否認」を扱います。

朝日カルチャー横浜校は、18日(土)13:00~15:00です。テーマは、《ロ短調ミサ曲》の、後半の後半です。

19日(日)に、甲府メサイア合唱団で、《ヨハネ受難曲》に関する講演をさせていただけることになりました。2/2との2回、13:30~16:30の予定。外部受講者も募集しているようですので、甲府方面の方々、お目にかかれれば幸いです。

26日(日)の14:00~16:15は、松本のハーモニーホールで、《ロ短調ミサ曲》についてお話しします。あれ、連続講座やってたんじゃないの、と思われるでしょうが、今回はホール主催の別企画なのです。連続講座を聴いてくださった方には、まとめとして役立つように工夫したいと思います。

以上、よろしくお願いします。

「音楽の旅」のご案内2014年01月04日 07時23分03秒

昨年はライプツィヒのバッハ祭へ、いい旅行をさせていただきました。今年はどうするか、朝日サンツァーズのスタッフといろいろ検討しましたが、「バッハ受難曲鑑賞オランダの旅8日間」という企画ができあがりました。

4月8日(火)に、成田または関西空港を発ちます。アムステルダムに着き、10日(木)まず《マタイ受難曲》。エガー指揮、エンシェント室内管の演奏です。11日(金)は昼にアルクマールの聖ローレンス教会(かつてヴァルヒャが録音に使っていたところ)のオルガン・コンサートを聴き、夜はヘレヴェッヘ指揮、コレギウム・ヴォカーレとコンセルトヘボウ管の《マタイ受難曲》です。

デン・ハーグを経てロッテルダムに移動し、13日(日)に、ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラによる《ヨハネ受難曲》を聴きます。15日(火)に成田または関空着。詳細はこちらで。http://www.asahiryoko.com/

古楽大国オランダで、復活祭を控えた時期に受難曲を聴き歩くという企画です。私としては、老境を迎えたブリュッヘンに注目しています。合間にさまざまな美術館を訪れる楽しみは、オランダならではです。お好きな方、どうぞご検討ください。

新年のご挨拶2014年01月02日 08時16分59秒

皆様、あけましておめでとうございます。2014年の皆様の健康とご多幸をお祈りします。何かにつまずいた場合には、不肖私の「ツキの理論」を思い出してください。私とも、変わらぬ御友誼をお願いいたします。

昨年は、人生でも一番まじめに仕事をしました。・・本当にそうかどうかはわかりませんが、ゲームをあまりやらなかったので、そんな気がします。今年もやるべき仕事が多岐にわたっており、新年早々緊張しています。ともあれ、「一つ一つの仕事を大事にする」という定年時に立てた原則だけは、貫いていくつもりです。

もう一つ、「なるべく新しいことを経験する」という原則を、念頭に置いてゆきます。むずかしいことではありません。いつもと違う道を歩く、入ったことのないお店に入る、食べたことのない料理を注文する、といった程度のことです。それだけでも、人生がずいぶん豊かになるように思います。

とりあえずクリアしたい目標は、筑摩書房から出すモーツァルト本です。既刊の文庫化という前提で準備し始めたのですが、作業を進めるうち、自分のモーツァルト観がある点で根本的に間違っていたのではないかと思うに至りました。目下、新しい視点に沿って、全面的に書き直しています。

もうひとつ、4月に、オランダにバッハの受難曲ツアーを行うという企画があります。別途、ご案内いたします。

総まとめ番外編2013年12月31日 09時56分32秒

「総まとめ番外編」(←ダヴィデヒデさんからのオファー)にふさわしいかどうかわかりませんが、12月22日に長野県須坂市シルキーホールで行われた「すざかバッハの会」年末コンサートの写真をお届けします。集めたスナップが質量とも限定されていて思うにまかせませんが、どうぞご覧ください(仕様でサイズが決まっているため、横の写真が小さく、縦の写真が大きくなってしまいます)。

このコンサートを、明2014年3月10日に立川の「たましんRISURUホール」で再現できることになりました。応援よろしくお願いします!

演奏者、スタッフの記念写真。私の右側が「すざかバッハの会」の大峡喜久代会長です。

塩嶋達美さん(トラヴェルソ)、尾崎温子さん(オーボエ)を中心とする練習風景。大野彰展(テノール)、小藤洋平(バス)お二人の進境は著しいものでした。

カンタータ第9番の合唱曲。各パート一人のリフキン方式を久々に実践しました。

迫間野百合(ヴァイオリン)、廣澤麻美(チェンバロ)、小林瑞葉(ヴィオラ)の皆さん。絵になる方々ですが下を向いている写真しかなく、申し訳ありません。

闘志満々にアンサンブルを牽引した山本徹さん(チェロ)、ここではじっと待機中。

オーボエ属を説明される尾崎温子さん。私の講座では欠かせない風景のひとつです。どうやって2本もっているんでしょう?

コンサートミストレス、須賀麻里江さん。興味のあるものは「調弦理論・囲碁」だそうです。見かけによらず、ボケがお上手。

ソプラノ、安田祥子さん。富士山に2回登られたそうです。勉強に勉強を重ねての、受難曲初挑戦でした。

アルト、高橋幸恵さん。ウィーン帰りのドイツ語で〈憐れみたまえ〉を熱唱。

熱心にお聴きくださったお客様、ありがとうございました。

2013年回顧2013年12月29日 22時31分06秒

28日(土)をもって、仕事納めとしました。そこで、少し早いですが、今年の総まとめをさせていただきます。その前提として、今年も皆様のおかげで健康なよい一年を過ごすことができたことを、感謝申し上げます。

今年の第一の出来事は何かと考えて頭に浮かぶのは、芸大で《ヨハネ受難曲》ゼミを開講したことです。優秀な人たちが真剣に勉強し、さまざまなノウハウを学んでくれていることに感激しています。今期が終わると、芸大の定年です。他に、聖心女子大、大阪音大、新たにICUでお世話になり、後進の指導を継続することができました。

第2に、自分に新しい方向性を与えてくれたという意味で、文化庁の仕事を挙げたいと思います。これによって今まで縁が遠かった分野の活動に目を向けることができました。訪れたことのない地域を訪れることができたのもそのおかげで、とりわけ富良野が印象に残っています。日本音楽学会の会長は3月に退任しましたが、藝術学関連学会連合、学術会議などの活動は継続しています。

第3は、NHKの「古楽の楽しみ」でしょうか。5年目を迎え、無伴奏ヴァイオリン、無伴奏チェロその他、企画の切り札をいくつか切りました。声をかけてくださる方がよくおられ、励みになります。

第4は、継続している市民講座の活動です。26年目を迎えた立川の「楽しいクラシックの会」、12年目になる「すざかバッハの会」に加え、今年は「まつもとバッハの会」にも再三出かけました。それぞれの会のご支援により、嬉しいコンサートを開くことができました。

第5は、いずみホールにおける企画やレクチャーの活動です。一連のモーツァルト企画、バッハのオルガン連続演奏会などが心に残ります。

サントリー芸術財団でもお世話になりましたが、おかげで、東北の被災地を訪れることができました。サントリーホールのブルーローズでモンテヴェルディのコンサートを開いたことを含めて、第6とさせていただきます。

第7は、合唱界とのかかわりです。今年は合唱指揮者協会における講演で始まり、合唱コンクールの審査も何度か行いましたが、それ以上に東京バロック・スコラーズ、CANTUS ANIMAEなどいくつかの合唱団と講演や企画参加などの形でお付き合いできたことが、楽しい思い出になりました。

講座・講演活動というと、中心になったのは朝日カルチャー・センターです。新宿でのバッハ/受難曲とワーグナー、横浜でのバッハと入門講座には、かなりの時間を費やして対応しました。これを第8としましょう。

著作も翻訳も出版できなかったのは、今年の大きな反省。原稿はいろいろ書きましたが、代表的なものを1つ挙げろ、と言われれば、日経新聞の日曜随想に書かせていただいた「価値観を育てる」に、指を屈します。自分の音楽とのかかわりを反省・熟考し、整理する機会となりましたし、思いのほか大きな反響をいただきました。これを第9とします。毎日新聞にも、お世話になりました。

第10は、朝日サンツァーズの企画でライプツィヒのバッハ音楽祭を訪れ、ヴォルフェンビュッテルの図書館を再訪するなど、ドイツを旅行したことです。友人が増えたことを含め、先につながる旅行だったと実感しています。

こうまとめてみて、大切な1年だったんだなあと改めて思いました。来年は、必ず著作を出します。