芸術と人生2014年01月14日 06時43分44秒

佐藤愛子さんの『血脈』、分厚い3巻本なので躊躇しつつ手に取り、第1巻を、休み休みですが読了しました。いや、たいへんな迫力です。

ストーリーの迫力もありますが、それ以上に、人間模様の迫力がすごい。「生きざま」という言葉はこういうことのためにあるのか、という感じです。主人公佐藤紅緑(父君)の男性像は、中でも圧巻です。

しかし小説家は、自分の家族のことをよくここまで書けるものですね。普通なら人に言いたくないこと、忘れてしまいたいことが、全部書いてあるわけですから。とうてい、まねができません。

サトウハチローさんは私が子供の頃よくラジオに出ておられた方で、私はその詩が大好きです。『血脈』にもたくさん引用されています。わずかの言葉に凝縮され、透明でやさしいその詩が、阿鼻叫喚の人間模様の中に出現するギャップをどうとらえたらいいか。あの詩からこの人生を読み取れる人はいるでしょうか。

しかしこれが芸術と人生の関係だ、という感じも強くします。おとなしく生きていたら、ああいう詩は生まれない、ということなのですね。

コメント

_ 波汝 ― 2014年01月17日 16時59分01秒

私もこの三巻本、出版されてすぐ読みました。ぐいぐいと引きつけられて、一気に読んでしまいました。
これを書いた当時、作者は、もう結構なお年になっていたと思いますが、「夕鶴」のヒロイン「つう」が、自分の体の羽を一枚一枚むしっていくように、身を削るような思いが伝わってきて、作家というのは、因果な商売だと思いました。
誰でも、一生に一冊は小説を書けると言いますが、やはりできないなと思います。

_ I招聘教授 ― 2014年01月18日 21時32分58秒

自分の身体の羽をむしっていくように、というのはみごとな形容ですね。そういうことをできる方が、作家になっていくわけですね。第2巻を求めようと思ったら本屋さんにそこだけ抜けていて、まだ進めないでおります。

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