井口先生のこと2014年10月06日 23時13分10秒

いい先生に恵まれることがいちばん必要なのは、中学生のときであるように思います。音楽の先生、担任の先生(体育)はどちらもすばらしい先生で、大きな影響を受けました。しかしお二人とも、すでに故人です。いま音信のある唯一の先生は、国語を教えていただいた、井口利夫先生です。

若々しく、まっすぐな気性であられた、井口先生。ある授業で私と友人が、非協力的な態度をとったことがあります。その時先生は、「この詩を書いた啄木の気持ちを考えろ」とおっしゃり、涙を流して、教室を出て行かれました。申し訳なかったですが、それ以来先生が大好きになり、いまでも年賀状を交わしています。お住まいは木曽。噴火は大丈夫だったのでしょうか。どう考えても、相当なご高齢のはずです。

その先生が、著書を書かれ、送ってくださったのです。題して、『われら在満小国民』。「ほおずき書房」という、長野の出版社から出ています。

変わったタイトルですが、書かれているのは、先生が子供の頃満州に渡られ、そこで戦時を経験して、命からがら帰国されるまでの話。よくもここまで、と思うほど克明に、異国でのさまざまな体験が語られています。

まったく知らないことだったので驚きましたが、本当に貴重な証言をまとめてくださったなあ、というのが、第一の感想。心痛む出来事も出てきますが、からりと明るく書かれているのが何よりで、ご両親が家族のためにいかに奮闘されたかの記述を含めて、愛のある本になっています。ここでご紹介させてください。本当によい先生に学べたこと、その先生が予想もつかない起伏ある人生を過ごされたことを、感動をもって受け止めました。