今月の「古楽の楽しみ」2015年11月08日 22時30分26秒

アインシュタインに『音楽における偉大さ』という本があります。その趣旨は、日本でも音楽室に並んでいる大作曲家のステイタスを検証すること。そこで疑われている一人が、グルックです。たしかに、一昔前「オペラ改革者」として有名だったグルックが、このところ、あまり聴かれていないように思います。

そこで、「古楽としてのグルック」という番組を作りました。モーツァルト、ハイドンに次ぐ企画ですが、グルックはC.P.E.バッハと同じ1714年生まれ、ハイドンより18歳も年長ですから、時代的には、そんなにおかしくありません。しかし作風は、明らかに古典派のものです。

スタート(16日、月)はやはり、《オルフェオとエウリディーチェ》から。ちょうどアルゼンチンのカウンターテナー、フランコ・ファジョーリがエキルベイと共演した最新盤が発売されましたので、それを使いました。ウィーン稿によっています。

1日ぐらい器楽を入れたかったのですが、あいにくグルックは、器楽がとても少ないのです。そこで17日(火)は、バレエ曲がいくつも挿入されている《オルフェオとエウリディーチェ》のフランス語版を、挿入曲を中心に取り上げることにしました。有名な〈メロディ〉は、ここに出てきます。演奏は、ミンコフスキ。余白に、バレエ音楽《ドン・ファン》の一部を、ヴァイルの演奏でプラスしました。

18日(水)は、ウィーンからパリに進出したグルックが大成功を収めた作品、《オーリドのイフィジェニー》です。この曲はフルトヴェングラーやクレンペラーが指揮した序曲で知られていますが、その《アウリスのイフィゲニア》は、ワーグナー編曲のドイツ語版。ロマン的に潤色されています。もちろん放送では、ガーディナーのフランス語版を使いました。

19日(木)は、最後期の作品で傑作の誉れ高い《トーリドのイフィジェニー》を、ミンコフスキの演奏で。まぎらわしいタイトルですが、《オーリド》の後日談です。神話的に古風な《オルフェオ》とは大きく異なる、緊迫感にあふれた作品になっています。

こうして集めてみると、なかなかすごいです。ディレクターがずいぶん感心していたので、間違いないと思います。ただ一点気がついたのは、グルックの旋律が、ほとんど順次進行であること。音階の連続が多いです。音を散らす人って、特別に才能があるんでしょうね。ヘンデルしかり、ワーグナーしかりです。