マスク2011年06月23日 23時40分52秒

少し前のことですが、学生さんが指導に、大きなマスクをかけてやってきました。きれいに見えましたので、私は「マスク、似合うねえ」と声をかけました。このように、ちょっとほめるだけで指導が円滑に進むことが、よくあるものなのです。

ところがその学生さんはムッとした態度を示し、「ほめてませんね」と言うではありませんか。皆さん、客観的に見て、どうでしょう。「似合う」というのはほめ言葉であるはずですが、この場合は、ほめたことにならないのでしょうか。

以来私は、マスクをしている女性を観察してみました。結果として理解したのは、マスクをしているのにきれいに見える人は、もともと相当きれいな人だ、ということです。やはり「似合う」はほめ言葉であると思います(筋通ってますかね)。

私は5年にいっぺんぐらいしか風邪を引かず、花粉症でもありませんので、マスクに慣れていません。しかるにこの数日は、ずっとマスクを着用していました。わかったのは、マスクが心理に相当影響を与える、ということです。

第1に、マスクは人を大胆にさせる。京王線の中で次々に営業電話をかけている人がいましたので、私は90度左を向き、その人の顔を、ずっと見続けていました。素顔では、ちょっとできません。

第2に、マスクは人を短気にする。酸素の供給が不足するためでしょうか、喧嘩っ早くなってしまうように思えます。職業上の喧嘩を、1つしました。

第3に、マスクは、音楽の感動を減殺する。なぜか、妙に批判的になってしまうのです。仕事のさいには、マスクをしないで聴くべきだと感じた次第です。明日の授業、どうなるでしょうか。

共催講座とその後2011年06月20日 22時05分08秒

19日(日)、読売新聞との共催講座完遂しました。読売新聞の多摩版をご購読の方は、詳しい記事をお読みになったかもしれません。

この企画は大学単位で進んできた教養講座であり、音楽ファンの方々を対象にしているわけでは、かならずしもありません。したがって、バッハがテーマというのは渋すぎるかなという懸念もありましたが、結果的にはたいへん多くのお客様に、熱心に受講していただきました。大学側のシミュレーション(バッハの回は200人ほどお客様が増えるのではないか、という推測)が裏書された格好で、ありがたいことです。

大学の音楽研究との取り組み、音楽研究所の歴史のようなことから話を始め、結婚カンタータの楽譜発見にまつわること、《ロ短調ミサ曲》の日本初演と今準備している「リベンジ公演」についてを、二本柱としてお話ししました。それにからめて、渡邊順生さんおよび「くにたちiBACHコレギウム」のメンバーによって、《ゴルトベルク変奏曲》のアリア、結婚カンタータの1部、《ロ短調ミサ曲》の一部を演奏したのが、何よりのアトラクション。連続講座としてのプレッシャーも少しは感じていましたから、ほっとしたところです。ご出演の方々、ありがとうございました。

終了後は行きつけのイタリアン、KISAKIを開けてもらって、打ち上げ。おいしく、楽しく、にぎやかだったのですが、進行するにつれ、体調の降下を感じ始めました。帰路はかなり調子が悪く、今朝には風邪の症状がはっきりあらわれて、休養。客観的に見て、忙しすぎたと思います。もらってきた薬でアレルギーが発生するなど思うに任せませんが、迷惑をおかけしないよう、早く治したいと思います。

つい人気投票2011年06月18日 23時57分27秒

今日は「たのくら」の日。須坂で出した「テノール昔と今」のネタを再使用し、テノール三昧の2時間となりました。

私は、テノールへの熱狂から音楽の道に入ったようなものです。講座では、テノールとは、という基礎論のあと、私が最初に熱中した2人のテノール歌手を扱い、その個性を対比した上で、それ以前のベル・カントの歌い手たちと、その後の有名どころとを比較する流れにしました。最初に熱中した2人というのは、NHKのイタリア歌劇団でセンセーションを巻き起こしていたデル・モナコと、イタリア民謡のレコードで人気を博していたディ・ステーファノです。

あと7人を加えて、「今日の9大テノール」としました。「今日の」というのは、お店のセールと同じで、使える音源なり映像なりが集まっていることなどを優先し、恒久的なランクではない、ということを示す意味があります。残りの7人は誰だ、とお訊きになりますよね。言いたくありません!これはどうした、あれはいないじゃないか、なぜこれが入るのだ、とクレームが殺到することが、眼に見えるからです。あ、がまんしてくださるのですか。それなら申し上げます(笑)。

「以前」からは、カルーソー、ジーリ、スキーパ。「以後」からは、ヴンダーリヒ、パヴァロッティ、ドミンゴ、フローレス。ドイツ系、北欧系のテノールは何人か頭をかすめましたが、イタリア系の人がずらりと並ぶとやはり入れるのに違和感があり、本場の人たちからも一目置かれているヴンダーリヒのみとしました。若手はフローレスを代表としましたが、とくに根拠はありません。

それぞれを2つぐらいの演奏で解説してゆくのですから、本当のところは、もちろんわかりません。それでも、アンコール1曲やりましょう、誰にしましょうか、という人気投票をやってしまうのが、私のダメなところです。選ぶ音源によって有利不利がありますし、私の紹介の仕方も心理的に影響しているはずなので、単なる遊びだと念を押した上で、結果をご紹介します。

須坂では、ディ・ステーファノとヴンダーリヒが同票でトップ。あとは票が分かれ、スキーパとフローレスがゼロ。立川ではジーリがトップ、2位がパヴァロッティで、ゼロはスキーパとデル・モナコ、ドミンゴ(!)でした。(ドミンゴは1981年の《アンドレア・シェニエ》を使いました。これ自体はすばらしいと思います。)

私自身はと言いますと、音量は必要最低限、むしろ音色と味わいを重視する、という最近の価値観から、メザ・ヴォーチェの表現を重んじる歌手に魅力を感じます。その意味で、昔のテノールの良さに目を開かれているわけですが、それには、下降音型に必ずかかるポルタメントに、慣れる必要があるように思います。昔の歌い手もいいけど、古めかしく思えて、と言う方がおられるのは、多分ここに原因があります。

終了後、知人のコンサートを覗き、帰宅後、明日の講演の準備をしました。演奏を楽しんでいただければと思います。

忠義2011年06月17日 23時33分40秒

最近のニュースでなかなか感動したのは、松木謙公民主党議員が内閣不信任案に賛成票を投じ、党を除名されたことでした。涙を流しながら筋を通し、けっして偉ぶらない松木さんのインタビューを見て、私ももらい泣きをしてしまいました。

こういう忠義の士が、昔はあちこちにいて、日本を動かしていたのでしょうね。政治的には批判もあることかも知れませんが、打算があってはできない行動で、感銘を受けました。

昔、職場で年長の方に教えていただいたのは、人間の価値は、苦しい時どのぐらい人が助けてくれるかで決まる、ということでした。以て肝に銘じていますが、そこで気づくのは、小沢一郎さんにはこうした部下がいる、ということです。小沢さんはいま本当に苦しい状況だと思いますが、こうした部下がいて、いわゆる軍団もまとまっていて、人が離れていっているわけではないように見えます。そう考えると、小沢さんという人の人間力も大きいのだろうな、という気がしてきました。権力の頂点にいても総スカン、という人もいるわけですし・・・(巻き返しは成功するのでしょうか)。

私だけネクタイ2011年06月16日 23時57分38秒

6月は、理事会のシーズンです。今日は、住友生命健康財団の理事会。事前に「クールビズでどうぞ」という案内が回ったのですが、夕方にコンサートの予定もあったので、いつも通り、スーツにネクタイででかけました。

そしたら、ネクタイ着用は私ひとり!「申し訳ありません」などというハメになりました(笑)。この理事会、いつも高名な方々と中身の濃いお話ができるので楽しみです。今日も、震災関連の貴重なお話を、たくさん伺いました。

私はどうしても、クールビズに抵抗があります。きちんとした服装で人前に立て、という教育を受けましたし、自分も、それが好きなのです。しかし今年は、職場でもクールビズの指導が強化されていますので、どこかのタイミングで、イメージを裏切ろうと思います。本当は、定年まで貫いてしまうつもりだったのですが。

午後は、新橋でマッサージ。このところの多忙でずいぶん凝っていましたが、αウェーブ河本さんの丁寧な施療で回復。終わって外に出るとリラックスして、幸福感がありました。秋葉原のヨドバシカメラでゲームを買い、8階の食堂街シーアンで、刀削麺の夕食。私は刀削麺大好きなのですが、私の行く中では、ここが一番おいしいと思います。汗をぬぐい、鼻をかみ、涙をぬぐっての食事です(←超辛い)。

知人のコンサートを覗いて帰宅しました。

増えてゆくツキ2011年06月15日 23時54分19秒

羽生善治名人の著書『大局観』(角川Oneテーマ21)に、ツキの話が出ていました。羽生さんによると、ツキには2種類があるというのです。1つは、私がいつも申し上げている、「総量は一定」というツキ。しかしそのほかに、どこまでの無限に増えていくツキが存在し、大きな仕事をするときにはそれが役割を演じるのだ、というのです。しかし最終的には、ツキを超越することが大事だ、とも書かれていました。

そうかも知れませんね。神様が味方する、というイメージでしょうか。総量一定は初期分配で、事後的に神様の加減する配りがあるのかも知れません。『大局観』、予想を超えるいい本です。ぎりぎりのところで真摯に生きている方の知恵が、たくさん詰まっています。

勝負の神が帰趨を左右する、野球。広島カープは見る影もなくなってしまいましたが、今日のロッテ=巨人戦はしびれました。ロッテ岡田の、ものすごいファインプレー3つ。もうダメだと思ったところで出た、伊志嶺の逆転ホームラン。これがあるから、野球は楽しいです。ジャイアンツ、借金6だそうです(笑)。

「古楽の楽しみ」6月2011年06月13日 23時36分02秒

6月の「古楽の楽しみ」は、20日から25日までの放送です。

「バロックの森」が「古楽の楽しみ」と改題された理由は、中世、ルネサンスを含めたい、ということでした。しかしドイツは当時まだ後進国でしたから、聴くべきものが少ない。そこでしばらくバロック・オンリーで続けていました。しかし満を持してようやく、バロック以前のシリーズを作りました。

20日(月)は、中世のミンネゼンガー特集です。これを、『ニーベルンゲンの歌』(13世紀)の朗誦で始めたのが、ワグネリアンでもある、私の自慢。それに、ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ、ナイトハルト・フォン・ローエンタール、オスヴァルト・フォン・ヴォルケンシュタインを続けました。オスヴァルト、なかなかいいですね。

21日(火)は、初期の器楽です。ブクスハイム・オルガン曲集などのオルガン曲、ユーデンキュニヒ、ノイジードラーなどのリュート音楽、ハウスマン、ポッシュなどシュタットプファイファーの音楽と続けて、最後をプレトーリウスの《テルプシコーレ》で締めました。《テルプシコーレ》の開放感は、やはり格別。

22日(水)は多声声楽曲で、ハインリヒ・フィンクとハインリヒ・イザークのミサ楽章、モテットを集めてみました。イザークの美しさはもちろんですが、ドイツ最初の声楽ポリフォニー作曲家というべきフィンクの音楽はなかなかで、聴いていただく価値があると思います。ホーフハイマーのオルガン曲も、この日にはさみました。

23日(木)は、ルネサンス・ポリフォニーの代表者であるゼンフルで始め、初期のルター派教会音楽(ヴァルターなど)を概観し、最後をラッソで締めました。グレゴリオ聖歌にドイツ語を当てはめたミュンツァーの聖歌が珍しいと思います。農民戦争のコワモテ・イメージと違いますよ。

24日(金)は、宗教改革からバロックへの移行期の特集。エッカルト、ハンス・レオ・ハスラー、ヤーコプ・ハスラー、メルヒオル・フランクを取り上げました。ハンス・レオ・ハスラー、いいですね!シュッツ以前の最高のドイツ音楽かもしれません。

というわけで、私もたいへん勉強になりました。よろしくお願いします。

またしてもペースメーカー2011年06月11日 23時46分25秒

大阪から帰宅。いずみホール・オペラの印象が体に満ちみちていますが、それについては落ち着いてから書くとして、別話題をはさみます。

木曜日。バスに乗り、運転手のすぐ後ろの席に座りました。バスの場合、前部ではいちばん前の席だけ、左右とも、進行方向に向いていますよね。その右側です。

メールチェックをしようと思い、携帯を出しました。すると、左側の席の女性から声あり。「ペースメーカーをしているので、やめてください!」と。どうやら、先日話題にした女性と同じ人のようです。

前回いただいたコメントで、「22センチ離れていれば大丈夫」という知識を得ていた私は、「これだけ離れていれば大丈夫ですよ」と言いました。間に通路をはさんでいるので、確実に1メートル以上あります。するとその女性は、「電波がいけないとお医者さんに言われています」とがんばるのですね。私は再度「いや、絶対大丈夫ですよ」と言いましたが、メールチェックはべつに急がないので、携帯をしまいました。

駅に着き、降りる段になって、ひとこと言ってやろうかと迷いが生じました。そのひとこととは、「優先席に座られたらいかがですか」というものです。しかし考えてみると、前回も今回もその人は一般席に座っているわけで、意図してそうしている可能性が考えられる。一般席から周囲の携帯使用者に警告することを、日課にしているのかもしれません。日課どころか、生きがいになっているのかもしれない。さらに考えてみると、前回も今回も私が言われたということは、その人がバス利用者の中では有名で、若い人達も知っていて利用しないでいるようにも思えてきました。そこで「ひとこと」は、ぐっと飲み込みました。

こんなとき役に立つのが、私の「ツキの理論」です。やっぱりその日、いい1日になりました(笑)。

昼からワイン2011年06月09日 23時51分40秒

14時半からのNHKの録音を、「今日はいつもと違います」と宣言して始めました。というのは、かなりお酒が入っていたのです。仕事前に飲んではいけないと思いつつ、いただいたワインがあまりにおいしかったので、結構飲んでしまいました。6月20日からの分の録音ですが、趣向をこらしています。それについては、あらためてご案内します。

なぜ飲んだかというと、サントリー芸術財団の昼食会に招かれていたからです。今度から、財団の理事にしていただきました。新しい音楽創造の支援に尽力してきた財団に私でいいのかという思いもありますが、視野を広げるための勉強をずいぶんさせていただいていることも確かなので、さらに勉強させていただくことにしました。妻には、「そんなことまでしたら、人生もうやることなくなっちゃうじゃないの」と言われましたが(笑)。

夜は、メトロポリタン歌劇場の公演へ。どれを取るか迷った末ドニゼッティ《ルチア》を選んだのは、周囲でベルカント・オペラを勉強している人が多く、作品をじっくり見直したいと思ったから。ディアナ・ダムラウ(ルチア)、ローランド・ヴィラゾン(エドガルド)以下、完璧なキャストによる、じつにすばらしい公演でした。やっぱりオペラ好きです(笑)。

老齢年金2011年06月08日 22時37分05秒

不肖私、老齢年金の申し込みに行ってきました。場所は、「たのくら」の会場の近くにある、立川年金事務所です。

対応は、何もそこまで、というほど、親切。面倒くさそうな書類を持ち込み、その場で書こうと思ったのですが、係の方が手取り足取り対応してくださり、ほとんど手がかかりませんでした。「お年寄りに親切」を絵に描いたような対応ですが、指導してくださる方は、私より少なくとも10歳は年上(笑)。こんなに親切な窓口って、日本ぐらいだと思います。日本、いい国ですよ。

まだ勤めていますから、老齢年金は要りません。先送りし、多めにもらうというオプションもあるようですが、「日本の財政状況を考えると今後何が起こるかわかりません。もらうものは早くもらっておいてください」という税理士さんの勧めで、面倒ながら手続きをしました。もうそんな歳になったんだなあ、という月並みな感想を抱きつつ帰宅。

テノールの話をするために古い録音や録画を確認していますが、昔のベルカント歌手のすばらしさに感嘆。とくにジーリは、鳥肌モノです。