重圧の長崎(2)--その第1日2015年11月25日 11時26分28秒

今年は、県大会を埼玉で、支部大会を鳥取で、全国大会を長崎でと、合唱コンクールの3段階をすべて経験させていただきました。県を勝ち抜いた団体が支部へ、支部を勝ち抜いた団体が全国へとなるわけですから、審査はしだいに困難になる。次から次へと上手な団体に出てこられては、頭をかかえてしまいます。

大方の関心はどこが1位になるか、ということでしょうが、その陰で必ず生まれるのが、最下位の団体です。1位になれば、ガッツポーズ。しかし最下位になれば失望は大きいでしょうし、納得がいかないことも多いかと思います。自分がその立場だったら、腹を立てるかもしれません。なぜならその団体は、支部大会を制して出場してきているからです。

県大会なら、平和な最下位というのはあり得ます。初めて出てみました、腕を磨くのはこれからです、というような場合です。しかし上の大会になると、すべての団体が並々ならぬ競争力をもっています。ですから、フィギュアスケートなどと同じで、後続団体が上に入ってくるうち、最下位はいつしか「生まれる」。全国大会ともなると、審査員Aは最下位だが審査員Bは1位、ということも、恒常的に起こってきます。審査員の心理としてはこういう形にはまることはけっして嬉しくないのですが、多様な価値をすくい上げるという趣旨からすれば、あっておかしくないことだと思います。

そこまで考えてしまうともう採点できませんから、自分なりに音楽本位を心がけて採点しました。1日目の大学ユースの部と室内合唱の部は、どちらも私の1位と全体の1位が合致しましたので、その点は一安心。大学ユースの部では都留文科大学がバーバーの《アニュス・デイ》(=弦楽のためのアダージョ)を驚くべき精度と持続力で演奏し、室内合唱の部では、女声合唱団ソレイユ(佐賀)が表情豊かな大柄の合唱で、栄冠を獲得しました。佐賀県って、合唱王国なんですね!2日間を通じて、佐賀県の存在感が際立った印象です。私独自の採点としては、メンデルスゾーン・プログラムを内容本位に掘り下げて演奏した新潟大学合唱団に、エールを送ります。

重圧の長崎(3)--その第2日2015年11月25日 22時53分32秒

第1日の審査が終わったところで、体温を測ってみました。すると、38℃なのですね。案外、ある。そこで夕食会は欠席させていただき、豚骨ラーメン(←好きでない)をさっと食べて、ホテルで休みました。

ゆっくりしたので、朝の気分は悪くありません。顔つきも昨日とはまったく違うとのことで、何とか完遂できそうだと予測し、同声合唱・混声合唱の審査に臨みました。

20名から80名ぐらいの団体が続く中で、128名という巨大な女声合唱団が出てきました。HIKARI BRILLANTE、愛知県です。大編成の合唱団は指揮者としてぜひ指揮してみたいものだそうですが、私はバッハが持ち場なので、大編成尊からず。響きが太くなるのはご勘弁願いたい、という気持ちがあります。

ところがこの団体は、指揮者雨森文也さんの耳の良さで、音がシャープに揃っている。アンサンブルも打てば響くごとしで、何より、128人全員が光り輝くような喜悦感をもって歌っている。これはまいった、1位!ということになりました(正式結果では2位)。いつぞや知立で見た創作オペラを思い出しましたが、この生き生き感は、中京のメンタリティとも、かかわっているのでしょうか。

いくつもの男声合唱を擁してレベルの高かった同声が終わり、混声に入ると、激戦は最高潮に。千葉県代表のVOCE ARMONICAが鉄壁の合唱を聴かせ、「ここまでやられては後が・・」と思っていたら、次に出てきた佐賀県代表のMODOKIという合唱団が、正反対のやわらかなタッチで、心潤す、愛のある合唱。私は涙が止まらなくなってしまい、これを1位とさせていただきました(結果1位)。自由曲は、三善晃先生の《嫁ぐ娘に》から。やはり、曲の良さも大きいと思うのですね。コンクール向けありありの曲には、結局感動できません。

講評には原稿を用意して臨み、座談会も、専門的なことは清水敬一さんにお助けいただきながらですが、なんとか完遂することができました。

重圧の長崎(4)--その翌日2015年11月26日 23時35分16秒

23日(月)は重圧も取れ、平和に目が覚めました。この日は休日で、予定がありません。国内は飛行機に乗らない、というのが私の方針ですので、列車を乗り継いで帰ることになりますが、かなりの道のり。どこかで道草をして、いいところがあれば泊まろう、と思っていました。

荷物をまとめてホテルを出ると、挨拶する方があります。超強豪団体の指揮者でした。聡明な若い方で、よく勉強しておられることが、言葉の端々からわかります。その方は私にひとつ質問をなさったのですが、私もちょうど考えていたことだったので、しっかり返答できて幸いでした。しかしこういう方が採点対象になるわけですから、審査員も勉強しないと務まらないと、あらためて肝に銘じました。

駅に着くと、佐世保行きの快速列車が、いまにも発車しようとしています。よし、佐世保に行こう、と乗り込みました。家族で来たことのあるハウステンボスを過ぎて、佐世保着。この駅、JRの日本最西端なんですね。駅のすぐ前が、港です。


歩き始めると、高いところに美しい教会(三浦町カトリック教会)が聳えています。情緒があり、嬉しくなりました。


朝食を食べていなかったので、ネットでグルメを検索。目を引いたのは、「ブラック」という、激辛カレーのお店です。不思議にも、24時間営業、不定休となっている。それなら半端な時間でも、カレーを食べられるかもしれません。

カウンターに座ってママさんと二言三言お話ししたら、話し込んでいた先客が、言葉をかけてくださいました。私が音楽関係と見定めてのことのようで、熱心な、とても洗練された音楽ファンの方でした。皆さん私の来訪をとても喜んでくださり、しばらく、楽しい音楽談義。カレーはイカスミを使った、真っ黒なものです。心は激辛に惹かれましたが、威嚇的な文言に恐れをなし(笑)、とりあえず、中辛を注文。ママさんが、激辛を端に乗せてくれました。

いや、おいしいですね~。中辛は豊かな味わい、激辛はしびれる感覚です。そしてまた、ブレンドコーヒーが絶品。島根のイタリアンに続いて、佐世保にも「来たらかならず寄る」お店ができました。

次はどこに寄るか。佐賀に行こう、と決めたのは、合唱コンクールでの大活躍に触れ、その風土に触れてみたくなったからです。鈍行で着き、佐賀城公園まで、歩いてみました。ここも、いい町。公園には紅葉が始まっていました。


次は、ぜひ唐津にも行ってみたいと思います。福岡に出て、夕食。連休の最後ですから新幹線も残り少なく、疲労も限度に来ていたので、そのまま帰宅しました。かくして、今年最大の山を越えることができました。

今月のCD2015年11月30日 06時59分13秒

駆け込みで、今月のCDです。

今月新聞でご紹介したのは、福間洸太郞さんの「モルダウ~水に寄せて歌う」という1枚(デノン)。 《モルダウ》の自編曲から始めて、「水」にちなむ古今の小品を18曲並べたアルバムです。平素こういう作品集は優先的に扱わないのですが、これは構想と選曲に福間さんの個性とセンスが光っていて、感心しました。「爽やかな流れに心洗われる思いで聴き通す。格調高く、技巧も確かだ」(引用)。

今月は、ピアノに個性的なものが集まっていました。藤井一興さんのドビュッシー《前奏曲集第1巻》他(フォンテック)は、磨き抜かれた美音による幻想的な表現に、最近の境地が示されています。

アンヌ・ケフェレックのスカルラッティ・ソナタ集(ミラール)も良かったですね。「タイトル通り『影と光』が交錯するが、あでやかに洒落たその演奏で聞くと、影もまた、ひとつの光となる」(引用)。紙面では取り上げませんでしたが、メナヘム・プレスラーによるシューベルト/ベートーヴェンのソナタの味わい深さも、天下一品です。