またしてもすごい人が・・・2016年10月24日 11時01分09秒

22日(土)に、いずみホールの「バッハ・オルガン作品全曲演奏会」の9回目がありました。1月16日の前回からかなり時間が空いたのは、今回の出演者、ミシェル・ブヴァールさんのご都合に合わせるためでした。

このシリーズのプログラム14種類のうち、私のかかわっていない、すなわちバッハ自身の構成による唯一のプログラムが、今回取り上げられました。それは、《クラヴィーア練習曲集第3部》です。

最高傑作というべき偉大な曲集なのにここまで残っていたのは、この全曲演奏が必然的に長大になり、演奏者にも聴き手にもハードルが高くなるためでしょう。《平均律》と同じで、1回のコンサートで演奏することは想定されていない、とも考えられます。

プヴァールさんにしても、2回に分けてやったことはあるが1日でというのは初めてで、多分最後かもしれない、大きな体験だったとのこと。それだけの課題なので、この1年というものほぼ毎日、この日のことを考えていたそうです。

このように準備されていますから、ゆるぎない安定感で全曲が演奏されました。コラールでは、曲ごとに変わる音色の定旋律が、美しく伸びやかに浮かび上がってきました。加うるに、テクスチャーの把握が強力。気のせいか、いずみホールのオルガンは、優秀なフランス人を歓迎するようです。

国際的な演奏家が続々とやってくる、このシリーズ。私のインタビュー・コーナーも、ゲストの母国語に合わせてできるといいですよね。ドイツ語でお願いせざるを得ないのが、私の限界です。

ブヴァールさんは、ドイツ語で楽に会話されますが、正確にお話ししたいのでとおっしゃり、事前に書面で質問をさしあげました。結局ステージではフランス語で話され、奥様(ヤスコ・ウヤマ・ブヴアール、日本人の鍵盤楽器奏者)に、通訳で入っていただきました。私の質問を全部頭に入れておられ、丁寧に答えてくださいましたが、このあたり、教育者としても立派だとお見受けします。

リハーサルの合間にオルガン席でお話ししていた時のこと。〈主の祈り〉BWV682がすばらしい、とおっしゃって、楽譜の41小節目を指さされました。「41」は「J.S.BACH」の数です(BACH=14の応用)。

この曲に頻出する逆付点のモチーフは人間の「罪」を象徴しているのだが、それは手鍵盤にしかなく、ペダルは終始、歩みの音型で動いている。しかしこの小節でただ一度、逆付点モチーフを奏する。それは、「私もまたその罪を背負った人間の一人だ」というバッハのメッセージだ、とおっしゃるのですね。その洞察が、使用楽譜にしっかり書き込まれていました。

楽譜を見ると見事にそうなっていますから、この解釈は間違いないでしょう。そのことをぜひお客様にもお伝えようとしてお話ししたら、「ペダル」と言うべきところを「左手」と言ってしまいました。痛恨の間違いで、「九仞の功を一簣に虧く」ことそのものです。私、肝心なところで大きな間違いをすることがままあり、お恥ずかしいかぎりです。謹んで修正させてください。

その思いも後半の名演奏で癒され、最後のフーガが圧巻の盛り上がりとなって、満場の拍手。持ち込まれたCDが、なんと60枚も売れたそうです。ワインで乾杯し、最終で帰ってきました。深夜1時、なおハイテンションで帰宅。

コメント

_ taisei ― 2016年10月25日 18時25分04秒

いずみホールの演奏会、行ってました。今回は虫の知らせか、予習をしていかないといけない気がしたので、図書館で音楽の友社の名曲解説ライブラリーと(最近は図書館も充実していて)バッハ大全集のCDからちょうどこの前奏曲とフーガが入った分と変ホ長調の前奏曲とフーガのCDを借りて予習していきました。いつもはプログラムの意図をまず理解するのに頭を使いますが今回は初めからそういう曲集なんだと理解して曲に集中できました。CDで聴くのと生で聴くのとは旋律を追うのにも格段の違いがあります。たぶん演奏もそういう風にされてたのだと思いますが。真ん中のトークでもにじみ出る誠実でひたむきかつ柔らかな人格がそのまま演奏になっていた様に思いました。その並でない力量は決して演奏された曲を熟知している人たちでばかりではないであろう聴衆もそれを感じ取ったのではないでしょうか。満場の拍手がそれを表していた様に思います。
 さて、これからフライブルクバロックオーケストラのバッハのVn協奏曲全曲演奏会に行ってきます!

_ I招聘教授 ― 2016年10月26日 14時25分33秒

taiseiさんの予習に、最敬礼です。

_ ガロンヌ ― 2016年11月04日 16時07分54秒

大阪在住でもなく、残念ながら本件のコンサートには臨席出来ませんでしたが、思いつくことがあって記させていただきます。
「持ち込まれたCDが、なんと60枚も売れた」とのこと。どのCDかは知る由もありませんが、もしや、と棚を調べてみた私のもっているディスクは、FY/SolsticeレーベルのCYD75というもので、トゥールーズのサン・セルナン教会のオルガンによるものです。バッハは編曲が二曲だけですが、雅に満ちた音色を満喫させてくれます。
トゥールーズというと、最近ではエアバス社の航空機工場所在地として有名ですが、この教会はサンチャゴ巡礼の一つの拠点であり、赤煉瓦の大規模なロマネスク様式は見事です。10年以上前ですが、キャピトール劇場のオペラで出掛けた折に参観できました。
発売しているレーベルは、トゥールーズからも遠くないSigeanに本拠をもつ、Carbou夫妻の運営する個人レーベルです。
先生のご専攻とはやや離れますが、大教育者としても著名なピアニスト、イヴォンヌ・ルフェビュールの晩年の録音も残し、今年没後30年を期してのCD集大成も発売されるとのことです。
あくまで、夫妻と芸術感の呼応する音楽家のみを起用していることはカタログからも伺えると思います。
本企画のバッハとは多少逸脱しますがご容赦下さい。

_ II招聘教授 ― 2016年11月04日 22時49分22秒

ガロンヌさん、心温まる情報をありがとうございます。最近フランスの古い音楽に魅了されているのですが、トゥールーズは行ったことがありません。ぜひ行ってみたいと思います。サンチャゴ巡礼までは、できないと思いますが・・。

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