研究発表のノウハウ2014年11月18日 12時34分39秒

学会でさまざまな研究発表に触れ、研究発表にはこれが大切だ、ということを申し上げたい気持ちになりました。それは長い経験のもとに今思うことで、私自身が実践してきたとは言えませんし、多少理想論かも知れません。

基本として大切なのは、研究発表と説明の違いをわきまえる、ということです。亡くなった友人が、昔「さっきの発表は授業みたいだった」と言ったことを覚えていますが、これはこのことと関係があります。授業は、説明にずっと近いものだからです。

説明は概して、上から下への方向を取ります。知っている人が知らない人に対して行うのが、「説明」だからです。しかし研究発表は「下から上」への方位をもつべきだと、私は思います。

発表者は、自分が問題意識をもって取り組んでいるテーマ(上にあるもの)に対して、自分がどのように取り組み、どんな方法で研究を進めて、どんな成果にたどり着いたかを(つまり向上のプロセスと結果を)、発表を通じて示すべきなのです。

学会や研究会に参加する聴き手は、キャリアはさまざまであるにしても、学問を志す同業者です。研究発表は、その人たちに「いっしょに考えていただく」というスタンスをもたなくてはなりません(ここが重要)。発表をできるだけわかりやすくするのは、聴き手が専門外でわからないからというのではなく、いっしょに考えていただくために、負担を軽減して条件を整えようとする作業です。

いっしょに考える作業は説明を受ける作業よりずっとクリエイティヴで面白いしですから、発表の終了後には当然、受講者はいろいろな質問や意見を出したくなります。ですから、生き生きした質問が飛び交ったか、あるいは重苦しい沈黙が支配したかは、発表の成功度を測る重要な指標になります。それは発表の学問的なレベルとは同一ではありませんが、重く受け止めるべきです。「質問が出なくてほっとした」という受け止め方は、間違っています。(続く)