賢いコインロッカーの利用法(1)〔改訂稿〕2015年12月15日 23時32分24秒

コインロッカーなんて、好きに使えばいいじゃないか、とおっしゃるあなた。その通りです。しかし私には、人一倍コインロッカーを使ってきた人間であるという誇りがあります。ですので、おせっかいかもしれないが、皆様の使い方が心配。こちらのあなたにも、あちらのあなたにも、もっといい使い方あるのではないか。そんな使命感から、本稿を書くに至りました。

「心得」を語る前におさえるべき事実があります。それは、コインロッカーはどこにでもあるものではない、という厳粛な事実です。とくに外国がそうで、大きな駅だからコインロッカーがあるだろう、と高をくくって訪れると、スーツケースを転がしながら街めぐり、ということになりかねません。

そうなったら、重くてかなわない(これは体験記ではないので、いつどこでとは申し上げません)。事前に調べることは困難でしょうから、コインロッカーに頼った旅は避ける、というのが第1の心得になります。あったらありがたく使う、なくてもなんとかなる、という工夫が必要。それに、すべて満杯、というケースも、意外に多いものです。

コインロッカーを使う心得の、第2。それは、百円玉をためておくことです。たしかに最近では、両替機のあるところ、Suicaが使えるところ、などが増えてきました。しかし、百円玉がなくて結局使えず、という場所も、まだまだたくさんある。外国でも、これで困ることがよくありました。

コインロッカーを使う心得の、第3。それは、自分の荷物を入れたコインロッカーを、覚えておくことです。わかりやすいところばかりではありません。たとえば名古屋駅のコインロッカーは、駅の各方角に幅広く分布しており、しっかり覚えておかないと、たいへんなことになる。発車時刻まで10分を切っているのに、ここだと思ったコインロッカーが違うとなると、髪の毛が逆立ちます(きっぱり)。方角と目印をしっかり覚えておくことです。これ、案外むずかしいですよ。

皆様のお役に立ちたいので、まだ続けます。

見本できました2015年12月14日 17時36分25秒

クリストフ・ヴォルフ著のモーツァルト本(日本語タイトル『モーツァルト最後の4年~栄光への門出』、今日、見本ができてきました。週末から来週初めにかけて、本屋さんに並ぶそうです。春秋社。値段は2500円+税になりました。


作業を終えてみて、自分にとって勉強になった、というのが最大の実感です。

この本は、註を見ればわかるように、近年の世界のモーツァルト研究を幅広く凝縮し、その上に立って、新しいモーツァルト像と、種々の作品解釈を提示したものです。私がモーツァルトをやっているとはいっても海外の文献を逐一当たっているわけではありませんから、この本を細部まで読み、訳を何度も見直すことによって膨大な情報を咀嚼できたのは、たいへんありがたいことでした。ヴォルフ先生、すごいです。

本書のための特設ウェブサイトというのがあります。未完に終わった室内楽曲の自筆譜が閲覧でき、その音源も置いてあります(ブラウザはIE仕様なので注意)。本書の第6章にそのくわしい解説がありますが、「断章」の完成度の高さは驚き。興味のある方はご覧ください。

http://www.people.fas.harvard.edu/~cwolff

「ひかり」で長距離2015年12月12日 07時10分41秒

金曜日は、視察目的で栗東のコンサートへ。読みは「りっとう」、場所は滋賀県、近江八幡と草津の間、ということを調べました。名古屋まで「のぞみ」、米原まで「こだま」、その先は在来線で行くことにし、名古屋まで戻って宿泊と決定。土曜日(今日)が、10:00から学術会議の委員会、15:30から藝関連の会議、というスケジュールになっているからです。

行きの新幹線で気をつけたのは、コートを車内に忘れないこと。私は寒さに強くあまりコートを着ない習慣なので、網棚に上げると、忘れる危険性が大きいのです。しっかり覚え、網棚からコートを取って、名古屋駅で下車しようとしました。

すると隣の席の人が、「コンピューターお忘れですよ」と言うではありませんか。身体の横にはさんでいたノートパソコンを置き忘れました。危なかった!

米原から在来線に乗り、途中、新快速から各駅に乗り換えて、栗東着。降りようと思ったら、切符がないのですね。持ち物を全部出して調べましたが見つからず、米原からの運賃を払って下車。東京から請求されたらたいへんでした。同じ胸ポケットに入れているスマホを盛んに出し入れしましたので、そのさいに落ちてしまったのでしょう。

こういう始まりをした旅は、その後がいいもの。コンサート終了後、昔の関取、蔵間さんのお店で軽く食事し(鶏の唐揚げが絶品)、21:50分の電車に乗りました。これが名古屋に行くための最終電車なのですね。ずいぶん早いものです。

ところがこの日は強風のためか在来線が大きく遅れており、入ってきた近距離列車にすぐ乗ったのはいいのですが、その終点で米原行きを待つ状態になりました。どの列車も、かなり遅れているようです。

特急が1本あり、その後に新快速が続いている、とのこと。その新快速の運行状況を知ることが重要なので耳を澄ましていましたが、アナウンスは「その後の新快速の運行状況は・・」と言ったきり、後続なし。いろいろなアナウンスをはさんで、まったく同じこともう一度ありました。主語で途切れるって、どういうことだろう。

まもなく、特急がやって来ました。アナウンスは、特急券のない方はお乗りになれません、と、さかんに牽制します。私は、Suicaで入っているので、特急券はありません。もちろん乗ってしまうという選択肢もあったわけですが、ホームにいる大勢の人がどうするのか、様子を見ようと思いました。そうしたら、乗り込む人のないまま、特急はすぐ発車しました。

新快速がすぐには来ないことがわかったのは、その後のことです。妙に断続的なアナウンスに不審を覚えて改札口に行ってみたところ、2人のおじさんが、駅員に激しい調子で文句を言っているのです。若い駅員はその対応に追われて、精一杯になっていたのでした。名古屋方面にいらっしゃる方はこの特急にお乗りください、とアナウンスしていてくれれば、理想だったのですが・・。

結局、次に来る新快速に乗っても最終の新幹線に間に合わず、迂回ルートもない、ということがわかりました。そこで名古屋をあきらめ、車中から米原のホテルを取って、そこで1泊。仕方ないですもんね。

今朝は、朝一番の「ひかり」に乗車。名古屋で「のぞみ」に乗り換えるつもりでしたが、「ひかり」のまま行っても10分しか違わないことがわかり、「ひかり」に乗ったまま、いま浜松あたりを走行しています。「ひかり」の長距離乗車は、記憶のないほど久しぶりです。

かなりツキの悪かった、今回の視察行。今日のスケジュールへの厄落としだといいのですが・・・。

今月の「古楽の楽しみ」2015年12月07日 15時52分31秒

今月は、バッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタBWV1014~19を、若干のヴァイオリンと通奏低音のためのソナタを加えて特集しました。新しい録音もずいぶん出ていましたので、演奏が重ならないように幅広く構成しました。

12月14日(月)は、第1番ロ短調BWV1014をバンキーニで、第2番イ長調BWV1015をカルミニョーラで。残った時間に、通奏低音付きのソナタト長調BWV1021をトリオ・ソネリーで、同じくホ短調BWV1023を、エレーヌ・シュミットで。この日は全部バロック・ヴァイオリンです。

15日(火)は、第1番のモダン・ヴァイオリン演奏から。奏者はフランク・ペーター・ツィンマーマンです。次はバロック・ヴァイオリンに戻り、第3番ホ長調をアンドルー・マンゼで。ここでラレード+グールドによるその第2楽章をはさみました。有名な第4番ハ短調BWV1017は、ムローヴァ+ダントーネで(バロック・ボウ、バロック・ピッチ)。

16日(水)は、第4番をラレード+グールドでもう一度聴き、そのシチリアーノ編曲(byストコフスキー)と、アダージョ編曲(by小糸恵)を紹介しました。第5番ヘ短調BWV1018は、古楽側の往年の名演、クイケン+レオンハルト。最後に通奏低音付きのソナタヘ長調BWV1022を、ヘーヴァルトの新録音で。

17日(木)は、複数の稿で遺されている第6番ト長調を、初稿BWV1019aと改訂稿BWV1019で比較しました。前者がポッジャー+ピノック、後者がブンディース+高田泰治です。最後に、BWV1020ト短調のソナタ(偽作)を、ゲーベルのバロック・ヴァイオリン演奏で加えました。普通フルートで演奏されますが、ヴァイオリンもなかなかいいですね。

というわけで、ピリオド対モダン、古い録音対新しい録音の大混戦、という感じの構成になりました。でも、それぞれに面白いです。モダンの名手がバロック奏法を理解して採り入れた場合、さすがに立派な結果が生まれるように思います。

若さはつらつ!2015年12月04日 08時59分49秒

もちろん私のことではありません。11月29日にたましんRISURU小ホールで開催されたコンサートのネーミングです。後ろに、「オペラの愉しみ」とついています。「楽しいクラシックの会」(たのくら)年一回のコンサートの、2015年版です。

「たのくら」例会では3年間ワーグナーをやってきて、いまオペラの歴史に入っています。そこで、ワーグナーに焦点を当てたオペラのプログラムを作りたいと思い、ハンブルクから帰国されたバリトン歌手、近藤圭さんに出演を依頼しました。彼が大学院の修了コンサートでヴォルフラムを歌われたことを覚えていたからです。お相手は山口清子さん(ソプラノ)、伴奏は久元祐子さんと決まり、前半をヘンデルとモーツァルト、後半を《タンホイザー》抜粋を中心とするプログラムを選びました。

ヘンデルのアリア3曲で始まり、モーツァルトのヘンデル風大ピアノ・ソナタK.533の第1楽章を橋渡しとして、《ドン・ジョヴァンニ》の二重唱とアリア4曲へ。近藤さんの風貌と美声、スマートな舞台マナーはまさにドン・ジョヴァンニそのもので、二重唱など、こわいぐらいです(笑)。満場、とくに女性客を魅了。この恵まれた素質と生来のまじめさで、ぜひ大成してほしいと思います。

山口清子さんは、先日の二期会《ダナエの愛》に、ゼメレ役でデビューした方。私はまったくの初対面でしたが、いやたいしたもの、脱帽です。声に澄んだ広がりがあり、歌の中に、お名前通りの清らかさがあるのですね。とても純情で、ちょっとお茶目なツェルリーナ、という印象でした。

後半は、ヴェーゼンドンク歌曲集の《天使》(山口さん)をまず置いてから、《タンホイザー》へ。第1幕、第2幕のヴォルフラムのソロの後、第3幕〈巡礼の合唱〉をピアノで演奏し、〈エリーザベトの祈り〉から〈夕星の歌〉へ、長い間奏も含めて続ける、という構想でプログラミングしました。

〈巡礼の合唱〉から〈夕星の歌〉にかけては詩情溢れる音楽が広がり、《タンホイザー》のもっとも美しいところです。間奏はまことに単純な音だけで作られていますが、久元祐子さんの弾くベーゼンドルファーの潤いのある響きがすばらしく、大いに感激。これを聴くだけでも、意味のあるコンサートだったと思います。

〈夕星の歌〉の後奏をト長調のままエンディングにしてもよかったのですが、じっさいのスコアは切れ目なしに不気味な「呪いの動機」を出す。タンホイザーがにじり寄っていて、〈ローマ語り〉へと続いていくからです。この流れをどうしても切りたくなかったので、「呪いの動機」まで行って終わってください、とオファーしました。これがあるかないかで、ずいぶん印象が変わってきます。

リハーサルと本番を通じて感じたのは、若い人たちが作品にまじめに向かい、全力投球している姿はいいなあ、ということです。前後とても疲れていましたので、元気をいただきました。ありがとう。



今月のイベント2015年12月02日 06時25分33秒

12月1日(火)はICUの授業開始--と思っていたら来週からとわかったので、昨日は、じつに貴重な休日。仕事の遅れが少し挽回できました。8日からの冬学期授業、テーマは「ミサ楽章”Credo"の音楽史」です。今年は15:10~17:30の枠にしました。

2日(水)と16日(水)が、朝日カルチャーセンター新宿校です。10:00からのワーグナー講座は《ローエングリン》が結びに入っており、第3幕を詳しく扱います。いままで手を出しかねていたケント指揮のバーデンバーデン祝祭劇場のものが、買ってみると意外にいいことを発見。オルトルートにヴァルトラウト・マイヤーを起用したことで、見違えるような効果が出ています。1月からは、いよいよ《パルジファル》に入ります。

同日13:00からのバッハ・リレー演奏講座は、2日がオルガン曲《パッサカリア》、16日が《ブランデンブルク協奏曲第5番》です。じっくり演奏比較します。

いずみホールのモーツァルト・シリーズ、ご好評をいただいた《魔笛》(課題もあり)に続いて、「清浄のコンチェルト」です。5日(土)16:00から。いずみシンフォニエッタを、ソリストが弾き振りします。ピアノ協奏曲第27番がアンドレアス・シュタイアー(ピアノ使用)、クラリネット協奏曲がポール・メイエ。メイエは《プラハ交響曲》も指揮します。

6日(日)14:00~16:30は、すざかバッハの会のワーグナー・シリーズ。
1曲に2回かけることにしましたので、今月は《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第3幕です。うまく時間をやりくりして、ベックメッサー比較のコーナーを作るつもりです。

10日(木)は東京バロック・スコラーズ有志の方々をお相手に《ロ短調ミサ曲》の講演をしますが、初めて、質問方式を採用しました。有意義が質問がたくさん寄せられており、突っ込んだお話ができると思います。

14日(月)には、翻訳したヴォルフ本の見本ができてくるとのこと。店頭に並ぶのは次の週でしょうか。この日から始まる「古楽の楽しみ」は、バッハのヴァイオリン・ソナタの特集です。これについては、あらためてご案内します。

19日(土)10:00~12:00が立川の「たのくら」で、進行中のオペラ・プロジェクト、今月はヘンデル《ジューリオ・チェーザレ》の第2回です。11月末日に終了したコンサートについては、あらためてご報告します。26日(土)13:00からは朝日カルチャーセンター横浜校のモーツァルト講座。《魔笛》全3回の2回目になります。

公開イベントはこんなところです。どうぞよろしく。

今月のCD2015年11月30日 06時59分13秒

駆け込みで、今月のCDです。

今月新聞でご紹介したのは、福間洸太郞さんの「モルダウ~水に寄せて歌う」という1枚(デノン)。 《モルダウ》の自編曲から始めて、「水」にちなむ古今の小品を18曲並べたアルバムです。平素こういう作品集は優先的に扱わないのですが、これは構想と選曲に福間さんの個性とセンスが光っていて、感心しました。「爽やかな流れに心洗われる思いで聴き通す。格調高く、技巧も確かだ」(引用)。

今月は、ピアノに個性的なものが集まっていました。藤井一興さんのドビュッシー《前奏曲集第1巻》他(フォンテック)は、磨き抜かれた美音による幻想的な表現に、最近の境地が示されています。

アンヌ・ケフェレックのスカルラッティ・ソナタ集(ミラール)も良かったですね。「タイトル通り『影と光』が交錯するが、あでやかに洒落たその演奏で聞くと、影もまた、ひとつの光となる」(引用)。紙面では取り上げませんでしたが、メナヘム・プレスラーによるシューベルト/ベートーヴェンのソナタの味わい深さも、天下一品です。

重圧の長崎(4)--その翌日2015年11月26日 23時35分16秒

23日(月)は重圧も取れ、平和に目が覚めました。この日は休日で、予定がありません。国内は飛行機に乗らない、というのが私の方針ですので、列車を乗り継いで帰ることになりますが、かなりの道のり。どこかで道草をして、いいところがあれば泊まろう、と思っていました。

荷物をまとめてホテルを出ると、挨拶する方があります。超強豪団体の指揮者でした。聡明な若い方で、よく勉強しておられることが、言葉の端々からわかります。その方は私にひとつ質問をなさったのですが、私もちょうど考えていたことだったので、しっかり返答できて幸いでした。しかしこういう方が採点対象になるわけですから、審査員も勉強しないと務まらないと、あらためて肝に銘じました。

駅に着くと、佐世保行きの快速列車が、いまにも発車しようとしています。よし、佐世保に行こう、と乗り込みました。家族で来たことのあるハウステンボスを過ぎて、佐世保着。この駅、JRの日本最西端なんですね。駅のすぐ前が、港です。


歩き始めると、高いところに美しい教会(三浦町カトリック教会)が聳えています。情緒があり、嬉しくなりました。


朝食を食べていなかったので、ネットでグルメを検索。目を引いたのは、「ブラック」という、激辛カレーのお店です。不思議にも、24時間営業、不定休となっている。それなら半端な時間でも、カレーを食べられるかもしれません。

カウンターに座ってママさんと二言三言お話ししたら、話し込んでいた先客が、言葉をかけてくださいました。私が音楽関係と見定めてのことのようで、熱心な、とても洗練された音楽ファンの方でした。皆さん私の来訪をとても喜んでくださり、しばらく、楽しい音楽談義。カレーはイカスミを使った、真っ黒なものです。心は激辛に惹かれましたが、威嚇的な文言に恐れをなし(笑)、とりあえず、中辛を注文。ママさんが、激辛を端に乗せてくれました。

いや、おいしいですね~。中辛は豊かな味わい、激辛はしびれる感覚です。そしてまた、ブレンドコーヒーが絶品。島根のイタリアンに続いて、佐世保にも「来たらかならず寄る」お店ができました。

次はどこに寄るか。佐賀に行こう、と決めたのは、合唱コンクールでの大活躍に触れ、その風土に触れてみたくなったからです。鈍行で着き、佐賀城公園まで、歩いてみました。ここも、いい町。公園には紅葉が始まっていました。


次は、ぜひ唐津にも行ってみたいと思います。福岡に出て、夕食。連休の最後ですから新幹線も残り少なく、疲労も限度に来ていたので、そのまま帰宅しました。かくして、今年最大の山を越えることができました。

重圧の長崎(3)--その第2日2015年11月25日 22時53分32秒

第1日の審査が終わったところで、体温を測ってみました。すると、38℃なのですね。案外、ある。そこで夕食会は欠席させていただき、豚骨ラーメン(←好きでない)をさっと食べて、ホテルで休みました。

ゆっくりしたので、朝の気分は悪くありません。顔つきも昨日とはまったく違うとのことで、何とか完遂できそうだと予測し、同声合唱・混声合唱の審査に臨みました。

20名から80名ぐらいの団体が続く中で、128名という巨大な女声合唱団が出てきました。HIKARI BRILLANTE、愛知県です。大編成の合唱団は指揮者としてぜひ指揮してみたいものだそうですが、私はバッハが持ち場なので、大編成尊からず。響きが太くなるのはご勘弁願いたい、という気持ちがあります。

ところがこの団体は、指揮者雨森文也さんの耳の良さで、音がシャープに揃っている。アンサンブルも打てば響くごとしで、何より、128人全員が光り輝くような喜悦感をもって歌っている。これはまいった、1位!ということになりました(正式結果では2位)。いつぞや知立で見た創作オペラを思い出しましたが、この生き生き感は、中京のメンタリティとも、かかわっているのでしょうか。

いくつもの男声合唱を擁してレベルの高かった同声が終わり、混声に入ると、激戦は最高潮に。千葉県代表のVOCE ARMONICAが鉄壁の合唱を聴かせ、「ここまでやられては後が・・」と思っていたら、次に出てきた佐賀県代表のMODOKIという合唱団が、正反対のやわらかなタッチで、心潤す、愛のある合唱。私は涙が止まらなくなってしまい、これを1位とさせていただきました(結果1位)。自由曲は、三善晃先生の《嫁ぐ娘に》から。やはり、曲の良さも大きいと思うのですね。コンクール向けありありの曲には、結局感動できません。

講評には原稿を用意して臨み、座談会も、専門的なことは清水敬一さんにお助けいただきながらですが、なんとか完遂することができました。

重圧の長崎(2)--その第1日2015年11月25日 11時26分28秒

今年は、県大会を埼玉で、支部大会を鳥取で、全国大会を長崎でと、合唱コンクールの3段階をすべて経験させていただきました。県を勝ち抜いた団体が支部へ、支部を勝ち抜いた団体が全国へとなるわけですから、審査はしだいに困難になる。次から次へと上手な団体に出てこられては、頭をかかえてしまいます。

大方の関心はどこが1位になるか、ということでしょうが、その陰で必ず生まれるのが、最下位の団体です。1位になれば、ガッツポーズ。しかし最下位になれば失望は大きいでしょうし、納得がいかないことも多いかと思います。自分がその立場だったら、腹を立てるかもしれません。なぜならその団体は、支部大会を制して出場してきているからです。

県大会なら、平和な最下位というのはあり得ます。初めて出てみました、腕を磨くのはこれからです、というような場合です。しかし上の大会になると、すべての団体が並々ならぬ競争力をもっています。ですから、フィギュアスケートなどと同じで、後続団体が上に入ってくるうち、最下位はいつしか「生まれる」。全国大会ともなると、審査員Aは最下位だが審査員Bは1位、ということも、恒常的に起こってきます。審査員の心理としてはこういう形にはまることはけっして嬉しくないのですが、多様な価値をすくい上げるという趣旨からすれば、あっておかしくないことだと思います。

そこまで考えてしまうともう採点できませんから、自分なりに音楽本位を心がけて採点しました。1日目の大学ユースの部と室内合唱の部は、どちらも私の1位と全体の1位が合致しましたので、その点は一安心。大学ユースの部では都留文科大学がバーバーの《アニュス・デイ》(=弦楽のためのアダージョ)を驚くべき精度と持続力で演奏し、室内合唱の部では、女声合唱団ソレイユ(佐賀)が表情豊かな大柄の合唱で、栄冠を獲得しました。佐賀県って、合唱王国なんですね!2日間を通じて、佐賀県の存在感が際立った印象です。私独自の採点としては、メンデルスゾーン・プログラムを内容本位に掘り下げて演奏した新潟大学合唱団に、エールを送ります。