数学は美しい2016年08月08日 06時41分11秒

過日、小川洋子さんの小説の感想を本欄に綴ったところ、私にまとめて寄贈してくださる、奇特な方がありました。そこで、少しずつ読んでおります。読み終わってとても良かったのが、『博士の愛した数式』という一冊です。

タイトルは上記のごとくで、『数式を愛した博士』ではない。人間を描くその先に、数学の美を追究し続ける本です。数学の美に惚れ込んだ一種変人の数学者を家政婦さんが世話し、その過程で数学の奥深さに気づいてゆく、というお話。私のように数学がまったく苦手な者にも、そうそう、だから数学はすばらしいんだよ、と思えるように書かれているのがすごいです。家政婦さんがある数式の秘密に独力でたどり着く部分の記述は、スリル満点、感動的でした。

独特な小説です。でも自分にすっと入ってくるのは、著者が人間を超えたものに目を据え、その価値観を貫いているからでしょう。ストーリーの先を絶対に読ませない深謀遠慮も、なかなか。あえて言えば、切り札をどんどん切るため、長編としては登攀の感覚に欠けるところがあります。ワーグナーとは逆の行き方です(笑)。

今月の「古楽の楽しみ」2016年08月04日 11時23分11秒

今月はオリンピックと重なりますので、放送は8日(月)と10日(水)の2日間になります。そこで、バッハの《平均律第2巻》のリレー演奏を充てることにしました。

《平均律第2巻》は、2011年と12年に取り上げました。しかしどちらも週企画の付録でしたので、ご紹介できたのは一部の曲だけです。そこで、まだやっていない曲を優先し、ここ数年の新録音を集めてみました。

月曜日は、オール・チェンバロです。
 クリストフ・ルセ 1,2
 ケネス・ワイス 7,8
 クリスティーネ・ショルンスハイム 9,10
 リチャード・エガー 11,12

輝きにあふれたルセ、繊細なワイス、構成力のあるショルンスハイム、思索的なエガー。同じリュッカース系統の楽器を使いながらも個性の異なる演奏を通じて、チェンバロによるバッハの奥の深さを感じていただけるとうれしいです。

火曜日は、オール・ピアノです。
 フリードリヒ・グルダ 15,16 (←これだけ古い録音)
 アンドラーシュ・シフ 17,18 (新録音の方)
 野平一郎 19,20
 ウラディーミル・アシュケナージ 21,23

少し時間が余ったので、サプライズ(というほどではないが)を用意しました。それは番組でどうぞ。

こんなCDが買えました2016年08月02日 06時32分23秒

放送やカルチャーのためにたくさんCDを購入していますが、その中から2点ご紹介します。

モーツァルトの《レクイエム》冒頭2曲がヘンデル作品に基づくというお話は、ここでもしましたね。〈キリエ〉の原曲である《デッティンゲン・アンセム》が市場に出ていましたのでさっそく購入し、カルチャーでも紹介しました。演奏は、サイモン・プレストン指揮のイングリッシュ・コンサート。手持ちのLPを処分してしまって、後悔していた音源です。

そのフィナーレ、”We will rejoice"というのが該当曲。ニ長調の二重フーガで始まり、途中からハレルヤ・コーラスと入り混じります。聴けば関係はすぐにわかりますが、モーツァルトでは短調に移されハレルヤ素材も取り除かれているため、まったく別の世界になっています。こういうことができる時代だからこそ、たくさんの名曲が生まれたのだと思います。

《さまよえるオランダ人》の全曲を3つ買いました。うち1つが、1960年バイロイトの実録リマスター(サヴァリッシュ指揮)。『バイロイト百年』という映画に少女の面影を残したアニア・シリアが神がかり的にゼンタを歌っている映像が出てきますね。あの衝撃デビューの録音です(61年のも売っていました)。

少し聴いてみましたが、シリアもさることながら、オランダ人を歌うフランツ・クラスのすばらしさは驚くほど。この人が声を痛めて早く引退してしまったことの損失を、あらためて思いました。とにかく熱気あふれる上演で、第2幕の二重唱は感動的です。明日、カルチャーで紹介します。

8月のイベント2016年07月31日 12時14分51秒

8月は1年の真ん中のような気がしていますが、そうではないのですね。もう年の後半。大事に過ごしたいものです。

朝日カルチャー新宿校は、第1、第3水曜日(3日と17日)に、予定通り行います。
10:00~12:00のワーグナー講座は《さまよえるオランダ人》。第2幕に入っていますが、古今の音源を補充しましたので、貴重なものもお聴きいただきます。
13:00~15:00のバッハ講座は海外最新録音の紹介。3日がヴァイオリン協奏曲、17日がオルガン作品となります。

朝日カルチャー横浜校--モーツァルトの《プラハ交響曲》を取り上げた昨日、9月は変更しますが8月はやります、と言ってしまいました。ごめんなさい、8月はもともとお休みでした!27日(土)と28日(日)、埼玉県の合唱コンクール審査をするためです。モーツァルト、次は10月になります。いよいよ三大交響曲に入ります。

20日(土)は立川「楽しいクラシックの会」。オペラ企画、ヴェルディ《オテロ》その1です。終了後、恒例のビアパーティを催しますので、この機会にどうぞお出かけください。10:00から、立川市錦町学習館です。

21日(日)は「すざかバッハの会」。ワーグナー企画進行中で、《ワルキューレ》後編という、いいところです。14:00~16:30ですが、このところ、終了後近くのお店で一杯やりながら語り合うのが習慣になりました。夏は、ビールがいいですね。

いずみホールの年間企画2016は「シューベルト こころの奥へ」です。10月から始まりますが、8月25日(木)にそのプレイベントがあり、シューベルト研究者期待の星、堀朋平君のホストのもと、鈴木優人さんら若い演奏家たちが、シューベルティアーデよろしく集合します。私はお客です。確認しましたら7月20日までに葉書で申し込む必要があったようで、もう少し早くご案内すべきでした。すみません。

私が関係しているサントリー芸術財団のサマーフェスティバルが、今年は22日(月)から30(火)にかけて開かれます。現代音楽の貴重な祭典。詳細はこちらをご覧下さい。http://www.suntory.co.jp/sfa/music/summer/2016/

「古楽の楽しみ」は、あらためてご案内いたします。

今月のCD2016年07月27日 10時56分10秒

いつも中旬に原稿の締め切りが来ますので、「今月」は、事実上「先月」かもしれません。悪しからず。

サイトウ・キネン2011のバルトーク《青ひげ公の城》が、すごいですね。扉を開くごとに心の深い闇に導かれるというスリリングなストーリーが、鮮烈な迫力で音になっています。小澤さんの指揮がなにしろ気迫満点で、オーケストラが熱烈に、かつ精妙に、それに応えている。ゲルネの青ひげ公はどこまでも陰影深く、エレーナ・ツィトコーワのユディットは毅然としてプライド高く・・・。すばらしいです。

私は舞台を見ていませんが、バレエが入って、ストーリーを進めたのだそうですね。そうなるとまた、別の印象が生まれそうです。DVDも出るのかもしれませんが、しかし音だけで、作品の真価は十分に伝わっています。フェスティバル運営の苦労が大いに報われる成果だと思います。

ヘンデルが大事!2016年07月25日 00時03分15秒

23日(土)、東京タワーの真下にある機械振興会館という会場で、「モーツァルトはヘンデルから何を学んだか」という講演をしました。

主催は、日本モーツァルト愛好会。大きな団体で、熱心な聴講者がたくさん集まってくださいました。ヴォルフ先生の『モーツァルト 最後の4年』には、モーツァルトにとってのヘンデルの重要性が、縷々語られていますよね。そこで、そのことを特化して考えてみようと、このテーマを選びました。バッハとの関係はよく耳にするが、ヘンデルとの関係についてはあまり聞く機会がない、というご要望があり、私も関心がありましたので、思い切って取り組んでみました。

相当慎重に、準備しました。書簡の中でヘンデルにどんな言及があるか。フーガとモーツァルトの初期的なかかわりは。ヴァン・スヴィーテン邸におけるフーガ体験において、ヘンデルとバッハはどう違ったか。ヘンデルの影響がとくにある作品は。ヘンデルのオラトリオ編曲のもつ意味と、その、モーツァルトの晩年様式との関係は。

といったことを自分なりに整理し、系統立ててお話ししました。本当にやってよかった、というのが実感です。なぜならば、ヘンデルの影響の大きさをバッハと区別してある程度まで理解し、その重要性を認識するとともに、これまでの不明を、大いに恥じているからです。

《レクイエム》の冒頭2楽章がヘンデル作品を下敷きにしているという事実は、単独で聞くとえっと思うようなことです。でも、ヘンデル編曲の実際と、それがモーツァルトに与えた影響をたどってゆくと、当然のことだったと思わざるを得ません。

いい勉強をさせていただいたので気持ちが高まり、二次会まで、会員の方々と盛り上がりました。すばらしい一日でした。

阪神の場合2016年07月21日 23時11分04秒

私は大阪に仕事をもっていますので、飲んだりすると、野球の話になります。見事なぐらい、皆さん、阪神ファン。入れ込むあまり采配批判になったりするのが、野球ファンというものですよね。

今年、金本政権が誕生したとき、ファン諸氏の喜びはたいへんなものでした。いよいよ待望の体制ができた、と。そんなに急にうまくいくかなあ、と私は懐疑的でしたが、果たして、結果が出ていませんね。

「野球ブログ村」を見に行くと、キャプテン鳥谷を外せ、という大合唱です。打撃不振、守備もかつての面影のない鳥谷を、連続イニング出場という目的のために起用し続けているのは納得できない、という趣旨のようです。たしかに鳥谷、元気ありませんね。打線が、彼で切れてしまいます。

鳥谷を外してはダメだというOBの声も強いということ。ですので、単に連続出場のためだけに監督が起用し続けているのかどうか、はっきりしたことはわかりません(金本監督も同様にしてその記録をとった、という指摘もあります)。私が阪神を応援するのは巨人戦だけですので、まあどちらでもいいのですが、コンサートに誰を起用するか、ソロを誰に振るか、といった音楽上のことに通じるので、どう処理されるか、興味があります。

私は野球なら野球の神様、音楽なら音楽の神様が喜ぶように考えるべきで、人間の都合を優先すべきではない、という意見です。ですので、負けているチームが代打代打でひとわたり選手を出してやる、という温情をかける高校野球の監督に、疑問を感じます(昔はその方がいいと思っていましたが、だんだん変わってきました)。スポーツの清々しさは、そういう温情とは無縁のところにあるように思いますが、違うでしょうか。

もちろん、どちらの選手が力があるかは、個人プレーだけでなく、連携能力とか、チームプレーへの適性とかで多様に判断されますよね。音楽も、それは同じです。でも、たかが音楽、人間を優先して考えよう、という発想は、幸せな結果を招かないように思えてなりません。

ドイツ2016淡々補遺(3)~窓際と通路側2016年07月14日 12時52分06秒

さて、座席の価値の問題です。列車の場合はどうでしょうか。多くの方が窓際を選ばれますよね。席がAB CDという4列の車両であれば、AとDが先に売り切れることを、自動販売機で確認しています。

ただ、ABC DEという5列の車両になると、Aの価値がかなり下がるようです。Dの人気が、相対的に高まる。Aが奥になり、出入りが不自由になるためでしょう。もちろん、最後まで埋まらないのはB席です。

飛行機が列車と異なるのは、出入りが格段に不自由で、通路側の人に立ってもらう必要が出てくることです。長距離の場合、座席を2.3回は離れることを想定しなくてはなりません。

国際線の飛行機は大きく、座席はエコノミーの場合、 AB CDEF GH という感じに並んでいますよね。自分一人の旅行であるとすれば、中央ならCかF(通路側)、と思う人が多いはずです。A対B、G対Hならどうでしょうか。この問いは、AB CDと配置されているビジネスクラスにも発生します。

私のチョイスは、絶対窓際なのです。外が見えるということもありますが、人と通路の間に挟まれているよりは、片側行き止まりの方が、心理的にゆっくりできます。欠点はサービスの時に遠くなることと、出入りのさい気兼ねすることでしょうか。しかし通路側になっても、気兼ねはそれほど変わらないことに気づきました。窓際の人がトイレに行きたいのではないか、という心配がつきまとうのです(私だけ?)。

もう歳でもありますので、最近はツアーの航空券を、自費でグレードアップしています。すると取ってくださるのは、通路側の席。そこで今回、「できれば窓際の方がいいんですけど」と申し上げてみました。すると、担当の方が驚かれ、通路側を希望される方が多い、7対3ぐらいだ、とおっしゃるではありませんか。そうなんですねえ。窓際の最大の問題は夜トイレに行くときですが(お隣がフラットの姿勢で寝ている)、なんとか股いで、事なきを得ました。

そこで、話が戻ります。仕事でどんどん国内便を使う方が、窓際ではかなわない、通路側が便利、と思っておられるとすると、ライプツィヒ~フランクフルト間の出来事に、違った解釈が可能になります。私の窓際指定席に陣取り、別の通路側席が空いていると指示した人は、よりよい席を提供したという意識をもっていた可能性があるからです。別の人が「あなたは窓際の席に座りたいのか、それなら私が・・」とただちに反応したことも、その流れで解釈できます。

いろいろ考えていると気の休まらない、空の旅ではあります(笑)。

ドイツ2016淡々(補遺2)~座席のお話2016年07月14日 12時07分56秒

「機内の出来事」については、ドイツからもご反響をいただきました。そこで書かなかったことについて、少々補いをしておきます。

別の席に座ってくれと見知らぬ人から言われて私が当惑した背景には、座席というものに対する、彼我の感覚の違いがあるのかもしれません。

遠距離列車に乗るとき、多くの方が、指定券を買われると思います。お金を出して権利を手にするわけです。しかし同時に、そこに座らなくてはならない、という義務感も発生する。ですから、車両と席を決して間違えないように、何度も切符を確認しつつ、探し当てます。座ってからもう一度確認するのも、いつものことです。

こういう日本人(私だけ?)の几帳面さが、ドイツ人の感覚とは違う、ということが、ひとつ考えられます。窓際の席に行かなくてはならないものだと思い込んでいた私が、あまり頓着しない発想で席替えを要求されたため、柔軟に対応できなかった、という考え方です。

ここで見逃せないのは、飛行機において、窓際の席と通路側の席ではどちらに価値があるか、という問題です。これは大きな問題なので(笑)、次話で考察しますね。

代わりに、列車の話題を一つ。ドイツの列車では、荷物を座席に置いて複数空間を占有する光景は、日常的です。4人掛けの席を独り占めする剛の者もいる。まあ空いている列車がほとんどなのでそれで成り立つとも言えますが、座らせてもらうのには勇気が要ります。というわけで、長く乗るときには座席指定を取るようにしています。自動販売機で簡単に取れますので。

日本の電車・列車は本当に混んでいますが、乗客のマナーはいいですね。世界一じゃないでしょうか。もちろん、個別的にはいろいろなことがあるでしょうが・・・。

営業努力2016年07月12日 06時48分34秒

10日の日曜日、家に帰って昼間の野球結果を確認すると、ロッテ・日本ハム戦がまだ継続中。さっそく、CSのチャンネルを合わせてみました。

引き分け寸前の12回裏、日ハムの攻撃。大谷が打たれて5対0になったのを4点返し、9回裏二死から田中の一発(!)で追いついて、延長戦になっている。打席には、この時点でホームラン24本のレアードが入っています。

まさかホームランはないよな、それじゃ話がうますぎる、と思っていたら、ものの見事にサヨナラホームラン。札幌ドームは爆発的に湧き、ファンの喜びがいつまでも続いていました。

この盛り上がりには、まこと、今昔の感があります。かつてパ・リーグはガラガラのスタンドで試合し、ドラフトでは巨人に入りたい、在京のセ・リーグがいい、という選手ばかりで、苦労を重ねていたからです。

それが今では、福岡と北海道に強いチームがあり、大勢の観客を集めている。実力もパ・リーグが上と、誰もが認めるようになったわけですよね。

しかし、昔があったから、今があるのだと思います。どうしたら窮状を乗り越えていけるかで、長期にわたる地道な営業努力があったのだと思う。与えられた状況と前向きに取り組み、知恵と努力で克服していくというのは、人間になしうるもっとも尊いことの一つだと、日頃から思っています。

負けたロッテの方も、伊東監督のもと、すばらしいチーム。ソフトバンクに迫って欲しいと思います。