フォルテピアノの醍醐味 ― 2014年09月05日 22時48分12秒
4日、いずみホールにおけるレクチャーコンサート「ウィーンを駆け上がるモーツァルト」は、司会をした私にとっても、この上なく楽しいものになりました。
今年のいずみホール企画はモーツァルトのウィーン時代前半を「充溢」と題して特集しています。すなわち、それは、モーツァルトがピアニストとして大成功した時代。ではモーツァルトはどんな楽器を弾いていたのか、というのがこの日のテーマでした。
移住当初使っていたのは、アウクスブルクで衝撃的な出会いを経験したシュタインの楽器。やがて購入し、メインに使ったのがヴァルターの楽器。ということで、シュタイン・タイプの楽器とヴァルター・モデルの楽器を舞台に並べ、聴き比べるというコンセプトで、プログラムを組みました。
やってみて痛感したのは、2台置いて聴き比べると、1台だけの時よりもフォルテピアノの面白さや可能性がずっとよくわかる、ということです。コンサート後、楽器の近くに集まった方が大勢おられたのが、その証明でした。
曲ごとに楽器を変え、トルコ行進曲では両方の楽器を比較し・・・というといかにも簡単なようですが、デリケートな上に操作環境のまったく異なる楽器を今度はこちら、次はあちらと弾き分けるのは、演奏者にとっては大負担。危険な綱渡りです。こうした無茶振りを安定感をもって音楽的にこなしてくれる久元祐子さんは、レクチャーコンサートの、この上ないパートナーです。構成の原案も久元さんにお願いしましたので、まこと久元さんあってこそなし得た、今回の企画でした。
シュタインとヴァルターを比べると、シュタインはよりチェンバロに近く、軽く、かつ華やか。ヴァルターは中音域の響きがぐっと充実して、奥行きと厚みがあります。ですから、ウィーン時代も進むにつれてヴァルターがふさわしくなっていくわけですが、変ロ長調K.454のヴァイオリン・ソナタを演奏するにあたって試行錯誤した結果、シュタインを採用することになったのは、意外でもあり、興味深いことでした。クラシック・ボウで弾くバロック・ヴァイオリンの響きにシュタインはとてもよく融合するが、ヴァルターはピアノ的に充実している分だけ、ガット弦との融合から遠ざかっているように思えたのです。こうしたことを実験しながら本番へ向けて作っていけるのも、レクチャーコンサートの楽しみ。無茶振りのついでに、アンコールでは、楽器をヴァルターに変えてソナタの最終楽章を演奏していただきました。
ヴァイオリンの須賀麻里江さんはひじょうによく勉強してくれて、本番が最高の出来になりました。何というか、天照大神のようなキャラでいらっしゃり(笑)、満場大喝采。ツーショットの右は、ヴァルターのフォルテピアノです。
既報の名店「ヴィヴァーチェ」で打ち上げ。今日(5日、金)は帰るだけでしたので、「降りたことのない駅に降りる」ことを東海道新幹線で実践しようと思い立ち、「こだま」に乗り換えて、掛川駅で下車。お城をめぐり、名物のとろろを食べました。その写真を、最後にお目にかけます。
【付記】
スリーショットを撮ったのでぜひ載せて欲しい、というご要望をいただきました。自分の写真は載せない主義なのですが、ご要望にお応えして。
達成感満点のお二人に比べて、私はクールに見えます。演奏者と司会の差かもしれませんね。でも内心は達成感があり、すこぶるハイテンションでした。
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