感謝をこめまして2014年12月28日 11時53分20秒

今年最後のイベント、《冬の旅》を無事終えて、ほっとしていること限りなしです。多くの方に支えていただき、田中純さんという、けっして広く知られているとは言えないバリトン歌手の芸術を、世に知らしむる一助になったかと思います。

私自身にとっては、《冬の旅》という作品としっかり向かい合う機会を得たのが、なによりのことでした。この尋常ならざる作品が、今では、ぐっと身近に感じられます。

楽器と演奏者が優れているならば、という条件付きですが、この曲にはフォルテピアノの使用に格別の価値がある、ということを確信しました。自筆譜に見られるシューベルトの「激しい」筆致を「激しく」表現して則を超えないのは、フォルテピアノであってこそです。軽いタッチによる繊細さと和声の透明感はもちろん、当日使用されたシュトライヒャーの楽器(いずみホールにもあります)の、4本のペダルによる音色の対比は、現代ピアノには求められないものです。〈菩提樹〉のそよぎが色合いを変えて浮かび出るさまは絶品でした。

田中さんはフォルテピアノの響きに耳を傾けつつ、その中に入りこんで歌っておられました。フォルテピアノの響きを初体験にしてこれほど喜ぶ歌い手は、そうそうおられないと思います。田中さん、渡邊順生さんの相互評価が熱烈であったことが、私の安堵の主因でもあります。

渡邊さんが田中さんに共感され、パンフレットの印刷から集客まで引き受けてがんばられている姿は、感動的でもありました。作品解釈については私との間にかなり隔たりがあったのですが、それを長文メールで率直にぶつけてくれるのが、渡邊さん。バトルの様相を呈する対立をお互いに勉強して乗り越えていくのが、私と彼の関係です。めったにないことと、感謝しております。

【訂正】ごめんなさい、「解釈に隔たりがあった」というのは、スタート時点のことです。その後落としどころも見えてきて、当日違和感はありませんでした。謹んで訂正します。