モーツァルトのヘ長調ソナタ2015年09月06日 13時04分11秒

9月3日(木)、今年のいずみホール・モーツァルト特集企画のプレイベントを、レクチャーコンサート方式で行いました。今年取り上げる1787年から91年まで(つまり最後の5年)をたどりながら、プログラムに含めることのできなかった作品を聴いていこう、との趣向。久元祐子さんのいつもながら潤いのあるピアノ(とオルガン)、鈴木准さんの鮮度高いテノールのおかげで、いい会にしていただいたと思います。

その途中、意外なところで大きな拍手が湧き、会場が盛り上がりました。それは、ピアノ・ソナタヘ長調の第1楽章が、ヴォルフの新説とのからみで弾かれたときです。モーツァルトのヘ長調ソナタはK.280、332、533(+494)とありますが、ここで演奏されたのは1788年のK.533です。

このソナタ、普通、やりませんよね。久元さんによると、モーツァルト・ファンからのリクエストをいままで一回も受けたことのないのがこの曲だそうで、私の中でも、存在が希薄な作品でした。

ところが、今翻訳中のヴォルフ本で、このソナタの画期的な意義が強調されているのですね。曰く、1787年末に宮廷作曲家に取り立てられ、大いに張り切ったモーツァルトが最初に書いた作品がこれであり、もっとも規模の大きな力作、出版者を急がせ、肩書きを付けて刊行し世に問うたものである、と。

バロック的な主題が単旋律で開始され、随所にポリフォニックな模倣がはさまれるなど、他のソナタとずいぶん趣が違います。ヘンデル風、バッハ風なところも。これがモーツァルトの開いた新生面であり、フーガ好きの皇帝へのタイムリーな表敬であるのだと、ヴォルフ氏。一般に評価が低いのは旧作K.494のロンドと組み合わせた急造感にも由来するが、そこのフォローはしっかりできている、と主張されています。

この夜のお客様はモーツァルト・ファンの方々でしょうから、ここで客席が湧いたのは、嬉しい驚きでした。このソナタが広く演奏されるようになれば、面白いと思います。