こういう歌を聴きたかった2016年05月25日 08時40分41秒

新国の《ローエングリン》、良かったですね(23日、月)。12年のプレミエは見なかったので今回初めてですが、タイトルロールを歌ったクラウス・フローリアン・フォークト、まさに、ワーグナーの歌唱史を塗り替える人だと思います。

ワーグナーはなんでもかんでも大声で、というのは違う!と思い続けて来ましたが(楽譜を見れば、いかに弱音指定が多いかわかります)、通念は抜きがたく、展開されるのはほとんど、声量争いのステージです。しかるにフォークトはメザヴォーチェを随所に駆使して、幅広く、柔軟に歌う。「わがいとしの白鳥よ」のレガートの、きれいなこと。

勇気がなければ、できない歌い方です。会場全体を突き抜ける声量を一方でもっているからこそ、できるわけですね。でもこういうワーグナーを、私は聴きたいと思っていました。今度はタンホイザーだとか。まだまだ円熟するでしょうから、楽しみです。

ティーレマンの《魔弾の射手》に出ていた隠者が印象的で、若いのに貫禄のある人がいるものだなと思っていたら、その人(アンドレアス・バウアー)が国王で出ていました。外国勢も日本勢もたいへんな顔ぶれで、合唱がまたすばらしい。演出(シュテークマン)は、第2幕の空間の使い方が良かったと思います。

解説書に載っている日本での上演史を読むと、飯守泰次郎さんによる今回の《ローエングリン》(全5回!)は、突出したものであるとみてよさそうです。新国の貢献と言っていいでしょう。