古稀になりまして2016年05月02日 05時59分08秒

毎年5月に入ると、歳が一つ増えます。でも今年は、一挙に10歳増えたような実感があります。なぜなら大台に乗って、(あまり口にしたくはないが)「古稀」という段階に達したからです。

最大の慨嘆は、50歳になったときにありました。しかし「60歳よりまし」と思って乗り越えました。60歳の衝撃はそれほどではなく、「70歳よりまし」という思いが、より大きな励みになりました。今回は、「80歳よりまし」という思いが、決定的な励みとなっております。

60歳の時に思ったのは、70歳になったら人生の罪滅ぼしに般若心経でも書き写しているのではないか、ということでした。そう申し上げたところ、「たのくら」の大先輩が「そんなことは絶対あり得ない」とおっしゃったことを覚えています。先って自分にはわからないものですね。確かに、そうなっておりません(笑)。

40歳の時に大病をし、父の71歳を目標に生きよう、と思ってきました。相当近づきましたが、もうこの先は、目標を立てるような時間帯ではないことでしょう。できるだけ本質に集中して、恩返しになるような仕事をしたいと思います。

ギリシャ語が、あるところまで来ました。本当にやってよかったと思っています。しかし恐れていた通りのことが起こりました。ヘブライ語をやらないわけにはいかない、と思うに至ったのです。文字が同じように見えることに、途方に暮れているという段階ですが・・。

5月のイベント2016年05月06日 07時42分44秒

皆様、どんな連休を過ごされましたか。私は、4月の多忙で大混乱になっていた部屋を整えることに時間を使いました。予定の少ない連休に気がゆるみ、思ったほど能率が上がりませんでした。

さて、今月です。さっそく9日から「古楽の楽しみ」であることに気づきましたが、これは次話でくわしく。今月はバッハのヴァイオリン協奏曲特集です。

早稲田エクステンションセンター中野校の《ロ短調ミサ曲》講座、12日、19日(木)の15:00~17:00です。〈ニカイア信条〉以降が残っています。

朝日カルチャーは18日(水)が新宿校。ワーグナー講座(10:00~12:00)は《パルジファル》第3幕の第3回。バッハ・リレー演奏講座(13:00~15:00)はトリオ・ソナタ第2番、第5番です。6曲のトリオ・ソナタは、いま一番好きなオルガン曲です。横浜校は28日(土、13:00~15:00)。モーツァルト講座が、交響曲に入ります。今月は、ウィーン時代に至る成長を俯瞰します。

21日(土)は「たのくら」例会(立川、10:00~12:00)。オペラ・シリーズ、今回はウェーバー《魔弾の射手》です。その日は午後埼玉県の「教会音楽講習会」で、「ルターのコラールに基づくバッハのカンタータ」という話をします。カンタータ第38番を中心にする予定です。

【追加】
29日(日)の14:00~16:30、すざかバッハの会例会があります。ワーグナー企画/《ワルキューレ》その1(全2回)です。基本偶数月なのですが、来月ドイツに行きますので、今月に繰り上がりました。どうぞよろしく。

今月の「古楽の楽しみ」2016年05月07日 07時56分56秒

ご案内しましたように、今月はバッハのヴァイオリン協奏曲特集です。有名曲ながら第1番、第2番ともにまだ取り上げたことがなく、周辺曲と併せて特集することにしました。ポリシーは、全部ヴァイオリニストを変えること、21世紀の新しい録音で揃えることです。

9日(月)は、3曲のオリジナルをまずご紹介します。
第1番イ短調:ユリア・フィッシャー+アカデミー
第2番ホ長調:ミュレヤンス+フライブルク・バロック・オーケストラ
2つのヴァイオリン用ニ短調:平崎真弓+カルミニョーラ+コンチェルト・ケルン
余った時間に、第1番のフィナーレをオルガン独奏(ボッカッチョ)で聴きました。これがたいへん面白く、時間調整ができて、変化もつけられる。結局、3度にわたって使いました。

10日(火)は、チェンバロ協奏曲から復元されたヴァイオリン協奏曲。
イ長調BWV1055:イブラギモヴァ+アルカンジェロ
ト短調(復元の調性)BWV1056:ポッジャー+ブレコン・バロック
ニ短調BWV1052:ミドリ・ザイラー+ベルリン古楽アカデミー
2つのヴァイオリン用BWV1043のフィナーレ:ボッカッチョのオルガン(弾けるものですねえ)

11日(水)は復元された作品を、複数のソロ用を中心に。
ニ長調BWV1053:ムローヴァ+ダントーネ
3つのヴァイオリン用ニ長調BWV1064:サッソ+インシエーメ・ストルメンターレ・ディ・ローマ(ソロは3つのヴァイオリンですが、合奏の側でオーボエとファゴットが活躍するように復元されており、新鮮です)
オーボエとヴァイオリン用ハ短調BWV1060:カフェ・ツィンマーマン

12日(木)は他楽器のソロが入るコンチェルト。
フルート、ヴァイオリン、チェンバロ用イ短調BWV1044:テル・リンデン+アリオン・バロック・オーケストラ
第2番BWV1042の第1楽章:ボッカッチョのオルガン
ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調:ベルナルディーニ+バット
同第5番ニ長調の第2楽章:同

活気のある、リズミカルな作品がたくさん。元気な朝をお届けします!

辛味のランチ2016年05月14日 07時51分11秒

仕事の合間にランチを食べる機会が多いのは、新宿西口と渋谷。ますます辛党が進行しているので、その観点から、あちこちのお店を試食しています。

いま大のお気に入りなのが、新宿西口、ヨドバシカメラの少し先にある山陰炉端「かば」の、「イカ醤油漬け丼」(800円)。鳥取のイカ醤油漬けがどっさりのわさびと共に、ご飯に乗っています。一度食べて涙ながらに(笑)取り憑かれ、行くたびに、このメニューです。

お店は、ごくごく庶民的な飲み屋さん。でも私の知人のうち高級感のある方お二人をお連れしてお墨付きをいただきましたので、広くお薦めします。ネットで見ると歌舞伎町にも支店があるようですが、西口が本店です。

【付記】29日(日)にすざかバッハの会があるのを忘れていました。イベント欄に追加します。

よろめきつつ2016年05月19日 05時42分46秒

10歳歳取って、どうなるかと思いつつ5月に踏み出しましたが、やっぱり影響ありますね・・。

疲れるようになった。外で仕事をして帰ってくると、それからまたというわけにいかなくなりました。夜は、メールを書く気も起こりません。面倒なことでも調べたり片付けたりということができるのは、どうやら朝だけ。「効率のいい」1日をフル回転で過ごしたりすると、てきめんに後に来ます。

まあ、こういう中でやっていくしかないと思うので、工夫してみます。夜はもう疲れているという状況はコンサートにいい影響を及ぼしませんが、伊藤(尾池)亜美さんのヴァイオリン・リサイタルには、元気をもらいました。この方は早晩、スターの地位を確立することでしょう。カリスマ性抜群ですから。

オペラの新演出には概して腰が引けてしまう私ですが、朝日カルチャーの講座で使ったロイヤル・オペラ2013年の《パルジファル》(アントニオ・パッパーノ指揮、スティーヴン・ラングリッジ演出)のすばらしさには、鳥肌の立つ思いでした。

ブックレットにあった演出ノートを訳していき、皆さんと鑑賞。向き合ってみると、テキストの細部までしっかり研究されているばかりか、演出家(と指揮者)の強力な采配で、高度な一体感のある、白熱の舞台が展開されているのです。

デノケ(クンドリー)、フィンリー(アムフォルタス)、オニール(パルジファル)、パーペ(グルネマンツ)といった主役陣も、役柄と作品に分け入って、みごと。哲学者のような存在感をクリングゾルに与えるウィラード・ホワイト、衰えた今だからからこそのティトゥレルを歌える、ロバート・ロイド。脇役に至るまで、考え抜かれた配役です。

新しいものにしっかり向き合うことが必要だという、当たり前のことを認識しました。これがあるうちは、前進できますかね。

モチベーションがあると・・2016年05月22日 22時40分28秒

よく申し上げるように、最近は準備を、早手回しにするようになりました。かつて常套手段だったのは、急がなくては間に合わない、という形に自分を追いこみ、それで能率を上げる、というやり方。でもそれだと、がんばれずに時間切れ、という危険が大きくなってきたのです。

とはいえ、仕事が続いていて、準備しようにもできないこともある。「よろめきつつ・・」という前話を書いた直後に、それが起こりました。

20日(金)、NHKを2本収録して帰宅。理論的には、もうそれで疲れてしまって・・となるはずなのですが、あいにく、土曜日の準備が完成していませんでした。「たのくら」および、埼玉の教会有志の方々による「ルターとバッハ」研究会の準備です。前者の《魔弾の射手》も、後者のカンタータ第38番も人前でレクチャーしたことがない。とくに後者は、訳の作成から分析、福音書との関係まできちんと調べようと志し、半ばで中断されていました。

まずウェーバー、次にバッハという順序で、夜中の2時まで、準備に没頭。がんばれたということは、モチベーションが高かったということですよね。調べ出すとつい欲が出て、翌朝も2時間、準備に費やしました。

まず、「たのくら」へ。いつもの終了後の会食はあきらめ、移動の途中で軽くラーメンでも食べることにして、学習館を後に。その後20分ほどして、片付け終了後三々五々帰宅される皆さんとすれ違いました。そうなったのは、私がふたたび学習館に向かっていたからです。試奏用に持参したピアニカを忘れてしまい、取りに戻らざるを得ませんでした。

パソコンにピアニカが加わると、荷物が重い。結局お昼抜きのまま、北与野の新生教会に、ぎりぎりに到着しました。入ってみると、とてもいい環境。オルガンから視聴覚まで設備の整った、勉強には理想的な教会なのです。パソコンも、ちゃんとしつらえられていました。そういえば、WindowsかMacかと訊かれました・・(泣)。

司会者挨拶、賛美歌、お祈りと進んで、私の出番です。しかも祭壇でお話しすることになり、罪悪感が倍増。話し始めて、たくさん資料を収集して持ち込んだのはむしろ誤りで、整理と方向付けをしっかりしておくべきだったと気づきました。もう間に合いません。

でも皆さん、温かいのですね・・。私が信者であることを疑う方はおひとりもなく、親密に、同僚扱いをしてくださるのです。「詐称」は、ぜったいしていないつもりですが。私の本をテキストとしてカンタータの研究会をやっておられるオルガニストの方もおられ、これには恐縮しました。秋にもお約束していますので、もっとしっかりやります。

その夜は、疲れすぎてかえって目が冴える、という状況に遭遇しました。一方、モチベーションがあるとまだできる、という自信も。こういう緊張が、大切なのかもしれません。かえって、停滞感を打ち破れたようです。

こういう歌を聴きたかった2016年05月25日 08時40分41秒

新国の《ローエングリン》、良かったですね(23日、月)。12年のプレミエは見なかったので今回初めてですが、タイトルロールを歌ったクラウス・フローリアン・フォークト、まさに、ワーグナーの歌唱史を塗り替える人だと思います。

ワーグナーはなんでもかんでも大声で、というのは違う!と思い続けて来ましたが(楽譜を見れば、いかに弱音指定が多いかわかります)、通念は抜きがたく、展開されるのはほとんど、声量争いのステージです。しかるにフォークトはメザヴォーチェを随所に駆使して、幅広く、柔軟に歌う。「わがいとしの白鳥よ」のレガートの、きれいなこと。

勇気がなければ、できない歌い方です。会場全体を突き抜ける声量を一方でもっているからこそ、できるわけですね。でもこういうワーグナーを、私は聴きたいと思っていました。今度はタンホイザーだとか。まだまだ円熟するでしょうから、楽しみです。

ティーレマンの《魔弾の射手》に出ていた隠者が印象的で、若いのに貫禄のある人がいるものだなと思っていたら、その人(アンドレアス・バウアー)が国王で出ていました。外国勢も日本勢もたいへんな顔ぶれで、合唱がまたすばらしい。演出(シュテークマン)は、第2幕の空間の使い方が良かったと思います。

解説書に載っている日本での上演史を読むと、飯守泰次郎さんによる今回の《ローエングリン》(全5回!)は、突出したものであるとみてよさそうです。新国の貢献と言っていいでしょう。

話題に便乗2016年05月27日 10時41分57秒

ここしばらく、テレビのスイッチを入れると同じ話題をやっていて、つい見入ってしまいます。「他人に厳しく自分に甘い」という論評に接して、かつてHPに書いたことを思い出しました。

他人と自分に対するスタンスは、理論上、4種類あります。1.自分に甘く、他人にも甘い。2.自分に甘く、他人には厳しい。3.自分に厳しく、他人には甘い。4.自分に厳しく、他人にも厳しい。--あるべきは、どの形でしょうか。

自分に甘く他人に甘いのでは、波風は立たないでしょうが、何も始まりません。自分には甘いのに他人に厳しいというのは、はた迷惑。クレーム魔やモンスターペアレントの話をよく聞きますが、このグループですよね。

自分に厳しいというのが、やはり基本だと思います。では、3と4ではどちらがいいでしょう。自分に厳しいのに他人に甘いという形は、人間関係という観点ではよさそうだし、周囲がもって範とすれば、いい結果をもたらすこともありそう。しかしこれは仙人の論理で、社会で責任を負っていくには不充分です。

ですので、自分に厳しく、他人にも厳しいというのが、本当は一番いいと思う。ただし条件があります。それは、自分に対する厳しさが、他人に対する厳しさを、それとわかるほど超えている、ということです。名将、名伯楽と言われるのは、こういう人だと思う。それなら人はついてゆきますから、事をなす人たちが育ってくる。歯切れのいい弁舌の徒にはつい引っ張られてしまいますが、つねに中味を見よ、ということでしょう。

コメンテーターの方々の論評と1つだけ違う私見がありますので、最後にそれを。知事になる前に、ファーストクラスで海外にゆく大臣を「さもしい根性」だと著作で罵倒していた、という話がありましたね。知事になって変わってしまったのだろうか、とコメントされていましたが、そうではないと思います。

本来この手の豪遊に、大きな関心をもっていた方なのです。想像ですが、うらやむ気持ちも並大抵でなかった。だから他人がすると許せないが、自分ならそれにふさわしいと思った、ということではないでしょうか。

国であれ、会社であれ、団体であれ、権力争いがあります。トップがワンマンであるとき、民主的な形態を求めて、立ち上がる人がいる。一歩も引かずに戦い、改革の旗手になっていきます。もちろんそうした人が待望されるシチュエーションはあるわけですが、こういう人は得てして、権力に強い関心を覚えている人です。したがって前任者に取って代わると、権力を分配して民主的にやろうとはせず、概して、自分自身に権力を集中させようとする。独裁者を倒した人はかなりの確率で独裁者になるというのが、私の長年の観察です。ファーストクラスの話と同じで、地位が人を変えたということではないと思います。

今月のCD2016年05月29日 07時47分17秒

今月は鮮度とびきりという新譜が3つあり、どれを選ぶか、決心するまでかなり時間がかかりました。最後は、互角なら邦人アーチストを、という原則に則りました。

選んだのはベートーヴェンの《ラズモフスキー》全3曲、クァルテット・エクセルシオの演奏したもの(ライヴノーツ)です。絶好調ですね、このアンサンブルは。ロータスのような本場と見まがう、というスタイルではなく、日本人の繊細な感性が張り巡らされて、しなやか、かつ一体感に秀でています。視界が遠くまで開けている、という感じの、爽快なベートーヴェンです。

チューリヒのトーンハレ管弦楽団ではジンマンが第一線を退き、後任の若手(リオネル・ブランギエ)がとてもいい、という話を、ウィーン筋から聞いていました。そしたら、なんとラヴェルの4枚組、6000円というセットが出ました(グラモフォン)。管弦楽作品全曲に加えて、2つのピアノ協奏曲と《ツィガーヌ》まで入っている。色彩の豊かさに親しみをもって聴き入ってしまう、魅力的なラヴェルです。少しずつ聴いていくのが本当に楽しみでした。

「黄昏に」と題する北村朋幹のピアノ・アルバム(フォンテック)。これがまた良かったのです。ブラームスの第3番から入り、晩年のリスト5曲の後でベルクのソナタ、という通人向きの選曲ですが、並々ならぬ思索力・構想力が示されており、無意味な音符が1つもない。たいしたものですね。

6月のイベント2016年05月31日 10時13分41秒

さあ6月だと思って起床したら、まだ5月31日なのですね。ほっとしたのは、6月のスケジュールが詰まっているからです。

1日(水)9:00 朝カル(と言われているようなので使いますね)新宿校ワーグナー講座《パルジファル》(ラングリッジ演出による第3幕を中心に)/13:00 バッハ・リレー演奏講座 オーボエとヴァイオリンのための協奏曲

5日(日)10:00 たのくら・オペラ・プロジェクト「ロッシーニ《セビリャの理髪師その1~名歌手の舞台》(立川市錦町学習館)

6日~10日 古楽の楽しみ/バロックの器楽曲をジャンルごとにご紹介します。オルガンを中心に、チェンバロ、リュートなど。

11日(土)13:30~18:00 藝術学関連学会連合第11回公開シンポジウム「ニュースを創り出すアートの力」(早稲田大学戸山キャンパス382号室)
ご案内はこちらです。http://geiren.org/index.html

12日(日)14:00 北とぴあ合唱フェスティバル講演:「古楽の時代と合唱の現代」(飛鳥ホール)

14日(火)~25日(土) 渡独

29日(水)9:00 朝カル新宿校 ワーグナー講座《パルジファル》最終回
/バッハ リレー演奏講座:イギリス組曲第3番