小山実稚恵、前人未踏の《ゴルトベルク変奏曲》2017年05月05日 10時29分09秒

これは本当に驚きました。小山さんを尊敬します。

小山さんと私はバッハを通じて結構接点があり、コンサートをお願いしたこともありますし、対談したり、プレイベントにお邪魔したこともあります。そのためでしょうか、30周年記念として《ゴルトベルク変奏曲》を録音されるにあたり、一度聴いてくれないか、というお誘いをいただきました。都内の立派なリハーサル室です。

演奏が始まると、小山さんの演奏と私が日頃温めている考えの間に、一定の乖離があることがわかりました。それは当然のことで、もちろんそのままでもご立派なのですが、せっかくこの場があるのだから、小山さんがどう思われるか、私なりにいろいろ提案してみようと思い立ちました。

イメージを伝えると、それをすぐ音にされます。実験し、可能性を吟味するうちに、乖離がいつのまにか、すーっと消えていったのですね。一緒に音楽をする楽しさに、文字通り時間を忘れました。用意した2時間をずっと過ぎてしまい、次の予定地へとあわてて向かったことを思い出します。

というわけで貴重なひとときだったわけですが、私の役割はそれで終わり。後をどう作り、どんな録音を作られるかは、小山さん次第です。基本的には、ご自身の解釈に、ある程度の変容を含みつつ戻られるのではないかと予想していました。

さて時間が経ち、今日発売されました、との報告をいただきました。CDはすでに届いていたので、おそるおそる、聴いてみました。

それでわかったのは、あの時間に湧いてきたものを小山さんが温めて先へ先へと究められ、高い完成度へともたらされた、ということです。

演奏は潤いがあり、軽やかな踊り感覚にも満たされて、優雅。やや抑えたテンポから、行間の味わいがにじみ出てきます。洒落た利かし、ちょっとした発見が、あちこちにちりばめられている。3声曲が多いですが、その3声がすごく丁寧に弾き分けられていて、どの声部にも、命が吹きこまれている。バッハのポリフォニーをして、自ら語らしめるという行き方なのです。小山さんの新境地を伝える、稀有の演奏と申し上げましょう。

ライナーノートにはご自身の挨拶や美しい写真の数々が載せられています。解説は私ですが、音が仕上がる前にお渡ししましたので、演奏について触れることが出来ませんでした。この場をもって、代えさせていただきます。ぜひ、広く聴かれますように。

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