探検への夢2013年01月22日 11時13分46秒

芸能人が集まってワイワイ、という番組になじめない昨今、BSをかけておくことが多くなりました。惹かれるのは、世界各地の映像を紀行風に流したり、鉄道をともに地域を歩いたりする番組。子供の頃、地理が好きだったからかもしれません。

最近すばらしいなあと思ったのは、BS朝日で20:00からやっている「BBC地球伝説」、とくにそのナイル探検でした。子供の頃は探検ものが好きで、本を読みあさり、無人島で暮らしたい、と本気で思っていたほど。そうした行動にもっとも不向きな人間が自分であることをある段階で理解しましたが、探検に対するロマン自体は、消しがたく残っているようです。

19世紀の探検家たちがナイルの源流を求めて奥地に入る日々の過酷さは、想像を絶するものなのですね。密集した熱帯雨林、種々の猛獣や害虫、なにより熱病。無理に無理を重ねた行軍の末に、大きな湖の広がる景観を発見した感激は、さぞかしでしょう。アフリカはすごい!アマゾンの源流探検も見ましたが、よほど平易に感じました(それはそれでたいへんに違いないですが)。

以後地図を調べたりするうち、アフリカの北の方の国の並びは、頭に入りました。現代ではまた別の危険があり、たいへんですね。若いうちに一度行ってみたかったな、と思います。宇宙旅行にも子供の頃はぜひ行きたかったですが、科学の発展がもたらす情報は、かつてのような夢を許してくれません。時代は変わった、と思うことの1つです。

コンテスト三日間2013年01月21日 08時28分04秒

18(金)、19(土)、20(日)と、埼玉ヴォーカル・アンサンブル・コンテストの審査をしました。開催地が久喜で比較的遠かったのと、参加団体が多く高校の部などは64校もあって夜遅くまでかかりましたので、完全へとへと。採点するだけでなく、各団体へのコメントを書き続けますから、相当な激務なのです。

ただ今回、細部はともかくとして大筋では、自分の採点ができたのではないかという実感を(ようやく)もつことができました。いつもは自己批判が先に立ってしまうので、自分なりに満足して帰宅することができ、嬉しく思いました。疲れ安めの夕食を大宮、浦和、さいたま新都心で摂りましたが、さいたま新都心のレストラン街はすばらしいですね。私が大宮に住んでいた頃にはなかった区域です。

提言というほどではないですが、私の意見を2つ、述べさせてください。いつは、選曲にあたっては、広い歴史からもっと名曲を取り上げて欲しいということ。1つの曲を長期間かけて仕上げるのがアマチュアであり、学校ですから、歌えば歌うほど価値のわかってくる本当の名曲を取り上げることで、合唱の喜びも増し、音楽への愛も深まると思います。合唱プロパーの演奏効果のある曲、とっかかりのいいお手軽な曲がよくあった反面、本当の名曲は稀にしか取り組まれていないように思われました。

もう1つは、外国語の曲には覚悟をもって取り組んで欲しい、ということです。心のこもった演奏のためには、簡単な会話ができる、ある程度語感をもてる、という外国語の曲を選んで欲しいし、そうでないのであれば、そのぐらいまで勉強していただきたいと思う。じっさいには、むずかしい外国語の曲がずいぶん多く選ばれている反面、歌詞が死んでしまっているように思える演奏も少なからずありました。もとにある言葉を慈しんで歌えないのでは、その曲がかわいそうです。

埼玉県発信のコンテスト、関東に広がってきたようです。発展を祈ります。

感動した映画2013年01月19日 07時03分22秒

しばらく前、久しぶりに映画を見て感動したが、その映画の名前はまだ公開できない、と申し上げました。昨日の報道で、その映画が「第67回毎日映画コンクール」の大賞を受賞したことを確認しましたので申し上げます。周防正行監督の『終の信託』です。これから広く見られると思うと、嬉しいです。

安楽死の問題を深く掘り下げて、映画的な効果も随所に盛り込んで作られた映画ですが(主演は草刈民代さん、役所広司さん)、私が素人ながら述べたいのは一点、音楽の使い方のすばらしさです。とくに、プッチーニのアリア〈私のお父さん〉が独創的な解釈で、忘れられないエピソードとして使われていたのが印象的でした。映画への信頼性が、これでぐっと高くなりました。

セラー購入2013年01月17日 23時46分56秒

長~い逡巡の時を経て、当家にワインセラーがやってきました。電話でワインの注文をとってくださる女性に、どのぐらい薦められたかわかりません。それでも同じ理由でお断りし、長~い時間が経ちました。

踏み切れなかった理由。私がワインを好きになったのはこの数年です。急激なシフトなので、あと何年飲めるか、わかりません。保存装置を買っても、すぐにドクターストップ、ということが十分に考えられる。だったらそのお金をワイン自体に投資し、買ったそばから飲んでしまうのが吉だ、と思うわけです。熟成を心がけても、自分が飲めなくなったら、意味がないではありませんか。

それでも買ったのは、今の1本を、少しでもおいしく飲みたい気持ちから。どうせ短期間しか飲めないのであれば、早くセラーを活用するに、越したことはありません。何より、部屋に放り出していたのでは、白ワインが飲めない。そこでビックカメラに行き、下の上ぐらいのセラーを購入して、部屋に置きました。

コメントに、ヤケ買いは成果があったか、という質問がありましたね。サンテミリオンの6本セットは、上々でしたよ。気がついたときに買っても、これからは保存しておきます。飲めなくなったら、青汁でも冷やすとしましょう。

対照的な2冊2013年01月16日 22時43分18秒

篠田節子体験をずっと綴る形になっていた、このコーナー。主要作の中でなかなか読む機会を得られなかった『ゴサインタン』(←山の名)の文庫本(文春)を発見して購入、むさぼるように読了しました。

業者を介してネパールから花嫁をもらい、旧家の日本式生活を教え込もうとするところから始まるこの小説。ストーリーは、まさに奇想天外な発展を遂げてゆきます。怒濤のように力のある文章、壮大な構想、たえず神と宗教に向かう問題意識、多元的な価値観。篠田さんの美点が結集していて、いつもながら多大の共感を覚えます。エンディングの感動は、いままでで一番大きかったでしょうか。

『聖域』『ゴサインタン』『弥勒』の順序で、三部作が書かれたそうです。強いて言えば、私の好みもこの順序です。

続いて、黒井千次さんの『高く手を振る日』(新潮文庫)を手に取りました。これもいいですね。かつての同級生に恋をする年配者の心境が繊細を極めた筆致で綴られていて、奥ゆかしい香りを放っています。まさに人徳の産物。まだこの境地には至れませんが、よくわかります。

芥川賞、直木賞の発表日に、これを書きました。

ラーメン店にて2013年01月15日 23時03分01秒

12日、金曜日。14時から、「古楽の楽しみ」後半の録音です。支度して家を出ると、外出中の妻がちょうと帰宅。「ハンカチ持った?」とチェックが入りました。忘れていたので取りに戻り、危険を1つ回避。国立駅で『週刊文春』を買い、JRに乗りました。買わなければ良かった。

埼京線の渋谷ホームで降り、前日偵察していた「小法師」へ。隅のカウンターに座りましたが、オール相席でどんどんふさがる人気店です。お目当ての「青唐うま塩ラーメン」が、次々に注文されている。喜多方特有の麺と青唐辛子の辛味がマッチして、なかなかの味でした。

もう時間が迫っていましたので急いで食べ、立ち上がりポケットに手をやって驚愕。財布が入っていないのです。胸ポケットは真っ平らの状態で、私は相当青ざめたと思います。

じつはときどきこれをやるのですが、鞄にたいていは謝礼の袋などを放り込んでおり、そこから支払って切り抜ける。しかしこの日の場合、学会の打ち上げで鞄の紙幣を使い切ったことを自覚していたのです。鞄を預けて下ろしに行こうか、とも思いましたが、カード類もすべて財布の中です。

小銭はいつも、ポケットに入れている。そこで血眼で小銭を数えました。計、540円。ラーメンは760円です。クソッ、『週刊文春』がたたった。初めて来たお店で身分を証明するものもないのでは、どんな恥をかくかわかりません。平身低頭、押し問答、いろいろ考えられますが、そんなことをしていたら、録音が始まってしまう。進退窮まってしまいました。

一縷の望みを託して、傍目も気にせず、鞄の中をしらみつぶし。そうしたら、ある封筒に、須坂で本を売っていただいた2000円が入っていたのです。天の助け!支払いを堂々と済ませた私は、走るように、NHKへ向かったのでした。

いや~危なかった、と言ってスタジオ入りした私に、アシスタントの方々が「また何か?」という表情で、嬉しそうな顔を向けます。私は「ブログに書くから」と、説明を拒否。音楽に心を集中させていると、このように、日常のことが行き届きません。

カレーライスもまた良し2013年01月14日 21時36分40秒

広尾でワインを「ヤケ買い」した先週火曜日まで、話が戻ります。

「ヤケ買い」には、「ヤケ食い」がよく似合います(14時で、まだ昼食前)。しかしどうせ食べるならいいお店を見つけたい、時間はゆっくりあるのだから、と思いました。モットーの「転んでもただでは起きない」を実践するためでもあります。

そこで、広尾から明治通り沿いに、渋谷まで歩いてみることにしました。食べ物屋を吟味しながらです。かなりの道のりを歩いて渋谷に近づいた頃、ありましたね、ピンとくるお店が。「チリチリ」というカレー屋さん。自然派インド流のヘルシーなカレーという触れ込みです。私は「じゃがいもマサラカレー」というのを注文しました。

さっぱりして香ばしい、私好みのカレーです。昔大阪で食べた(今はない)「パンジャブ・カレー」というのに近いかな。最近、カレーは絶対にナンで、と思うようになっていたのですが、ライスに合うカレーもいいなあ、と見直しました。

気がつくと、渋谷車庫というバス停のある周辺にはいくつもの本場のカレー屋があり、その他にも、魅力的なお店が軒を連ねています。飲食店の集中するところはいくつもありますが、自分好みのお店が集まっていると思えるところは少ない。そこで、来られるときに通おう!と思い立ちました。それから渋谷へと歩きましたが、その間にも、寄りたいお店がいくつもありました。渋谷駅から南の方角(環状線内側)、いいですよ。

1日おいて、木曜日(11日)。NHKの録音を終えて、ふたたび「チリチリ」を訪れました。半端な時間なのにどんどんお客の入ってくる、人気店です。道中観察して、渋谷駅南口から来るとかなりあるが、埼京線の渋谷駅からなら近いことを認識。新宿から一駅です。

喜多方ラーメンが好きな私ですが、「小法師」というお店が出している「青唐うま塩ラーメン」というメニューに、目が吸い付けられました。翌日のNHKは14時からなので、録音の前に来てみようと決定。前置きが長くなりましたが、ここで起こった出来事については、次話をどうぞ。

〔付記〕カレーライスというのは、上にかけた形で出てくるものを言うような気もしてきました。「チリチリ」はかけて食べる方式ですから、タイトルは不正確かもしれません。

「古楽の楽しみ」でモーツァルトを2013年01月12日 22時18分04秒

1月30日(水)、31日(木)の分を録音してきました。

30日は、モーツァルトのイタリア旅行における古楽体験から出発。まず、記憶して楽譜に再現したという逸話のあるアレグリの《ミゼレーレ》を、どこまで正確に覚えられたか、という疑問とともに。次にモーツァルトに伝統的な教会音楽書法を教えたマルティーニのオルガン曲、ついでに、アルブレヒツベルガーのフーガ。

そのあとは、ポスト・フックス/プレ・モーツァルト時代の宮廷楽長と宮廷作曲家の作品を並べました。すなわち、ロイター、ガスマン、ヴァーゲンザイルです。

クライマックスは、31日(木)。この日は、モーツァルトが1789年に行ったライプツィヒ旅行を追いかけるという設定のもと、当地で聴いた曲、作曲した曲、演奏したであろう曲を中心に構成しました。ヴォルフ先生の近著でモーツァルトの足跡がかなり綿密にたどられているので、参考にしました。

最初に、モーツァルトをトーマス学校で迎えた老カントル、ドーレスのモテットを1曲。以前別の曲を使ったことがあり、ルター派教会音楽の精神性を受け継ぐ作風に強い印象を受けていたのですが、CDを見直してみると、ドイツ・バッハ・ヴォカリステンの指揮者は、いずみホールのオルガン作品全曲シリーズの冒頭を飾ったヴァインベルガーさんなんですね。心のこもった、とてもいい演奏です。そこで、モーツァルトがドーレスの指揮で聴いたというバッハのモテット第3番も、ヴァインベルガーの演奏で揃えました。

そのあとは、古楽様式を踏まえたモーツァルトの作品を3つ。幻想曲ハ短調、小ジーグト長調、幻想曲ヘ短調(←自動オルガン用)です。フォルテピアノ(インマゼール)やオルガン(コルティ)で聴くと、モーツァルトの音楽も番組に違和感はありません。よろしくお願いします。

「古楽の楽しみ」発進2013年01月10日 22時04分29秒

今日から、NHKの録音が始まりました。午後1時に、勢揃いしたスタッフと、新年のご挨拶。そしたら好人物のプロデューサーが、「聖心、たいへんだったそうですね」と、満面の笑顔でおっしゃるではありませんか。満面の笑顔にはちょっとひっかかりましたが、皆さんに楽しんでいただくのが自分の使命だという立場からすれば、いいことをしたなあ、と満足。これからも楽しんでいただきます(認知症を心配されるコメントもいただきました・・汗)。

前回はせっかく年末年始のいい時間枠をいただいたのに、ご案内を忘れてしまいました(認知症?)。そこでは、《マニフィカト》の歴史を、グレゴリオ聖歌からバッハ父子までたどりました。個人的にはバンキエーリの作品が、印象に残っています。

どちからというとバッハおよびバッハ以前を扱う機会が多いので、1月最終週の出番では、「モーツァルトからバッハへ」という、ポスト・バッハの世代の音楽家たちを特集しました。今日録音したのは、27日、28日の分です。

モーツァルトは、ウィーンに出てスヴィーテン邸に通うようになり、ヘンデルとバッハの音楽に親しみました。ここで「バッハ」というのは、ゼバスティアンだけではなく、フリーデマンとエマーヌエルを含んでいます。そこで27日(月)は上の息子二人を特集することにし、フリーデマン晩年のフーガ、初期のファンタジー、エマーヌエルの晩年のファンタジー、シンフォニア、中期のフーガで編成しました。二人の晩年は、モーツァルトがウィーンに出てくる頃にあたります。

エマーヌエルのロンド《ジルバーマン・クラヴィーアとの別れ》という作品を取り上げましたが、これは渡邊順生さんがクラヴィコード音楽の最高傑作と絶賛される作品です。名著『チェンバロとフォルテピアノ』(東京書籍)に、詳しい情報があります。

28日は、バッハの下の息子たちの特集。ヨハン・クリスティアンと、ヨハン・クリストフ・フリードリヒです。この2人のCDが、最近充実しているのです。

取り上げた作品は、クリスティアンが op.5-4のソナタ(←モーツァルトがコンチェルトに編曲したK.117-3)、管楽器のためのシンフォニア第3番(演奏はナハトムジーク)。クリストフが、ト長調のシンフォニア(フライブルク・バロック・オーケストラ演奏)と、名前によるフゲッタ。どれもいい曲で、感心しましたね。クリスティアンのシンフォニアの魅力はたいしたものだし、フリードリヒのシンフォニア(モーツァルト死後の作品)など、途中から聴いた方は、バッハの息子たちのうちでも影の薄い三男の作品とは、まず思わないのではないでしょうか。じつに堂々たる作品です。こうした作品が、いま研究の進展でよみがえり、録音されつつあるわけで、それをご紹介できるのが、放送の醍醐味です。

一番気に入っているのは木曜日の回。それは明日録音します。

聖心初授業2013年01月08日 18時21分07秒

聖心女子大の後期授業は、「聖と俗」をテーマとし、音楽の中にある宗教性の探索を進めてきました。このテーマですとオペラもよき対象になりますので、後半はオペラに特化。《ポッペアの戴冠》《タンホイザー》《オテロ》を取り上げてきました。〈ヤーゴのクレード〉や〈アヴェ・マリア〉のある《オテロ》も、よき教材です。

名曲の名演奏に親しむうち、オペラをほとんど見たことがなく、ミュージカルとどう違うんですか、などと言っていた学生たちも、目に見えて音楽に入りこんでくれるようになりました。感動を共にしてくれるのが、一番励みになります。

新年の授業は、2回。最後に残した切り札は、《ポーギーとベス》です。大好きなオペラなので、張り切って準備しました。正月ボケの妻が「どこへ行くの?」などと言うので、「聖心。火曜日だろ。あと2回」「ごめん、忘れてた」などと対話してから出発。まず近くのコンビニで、162人分の資料を準備します。もちろん大学でもやってくださるのですが、結局その方が便利なので、自分でやっています。

やっぱり、1年の初授業というのは、気合いが入りますね。このところ心身ともに充実しているので、なおさらです。道中は学生のリアクション・ペーパーを読み直し、モチーフの紹介などに使うピアニカの演奏を、脳裡でシミュレーションしました。

聖心のキャンパスはすばらしい環境なのですが、高貴な女子学生が集まっているので、門のチェックが男性に対して厳しい。それが若干のストレスです。今日はいつもより謹厳な感じの守衛さんで、「どちらへ?」という質問が、無機質。「授業です」ともちろん言いましたが、答えはいぜん無機質で、「授業は10日からです。みんな閉まっていますよ」ですと。どうも、人が少ないと思ったなあ。

広尾までやってきた意義をどこかに見つけなくてはいけないので、交差点のワイン・ショップへ。1本買うつもりが、言葉巧みに勧められて、6本セットを買いました。ヤケ買いです。