5月のイベント2017年05月08日 09時19分07秒

皆様、連休はいかが過ごされましたか。私は今年ようやく、本当の連休が実現しました。3日から4日間、論文の準備に専念できました。7日は立川「たのくら」の例会でしたが、イベントのご案内を差し上げていなかったことに気づきました。

今月は、早稲田大学エクステンションセンター中野校のモーツァルト講座が、あと2回あります。11日(木)は「34歳のモーツァルト~ヘンデル体験の積み重ね、フランクフルト旅行の明暗」。18日(木)は「35歳のモーツァルト~ピアノ協奏曲第27番と、それに続く諸作品」。いずれも15:00~17:00です。「35歳のモーツァルト」というテーマは秋のシリーズで本格的に展開しますが、いわばその足がかりです(コンチェルト時点ではまだ34歳)。

朝日カルチャーセンター新宿校は、3日が休日だったため、第3(17日)と第5(31日)の水曜日になります。10:00~12:00の「オペラ史初めから」は、17日が《ポッペアの戴冠》第3回、31日は《ヴェルサイユの栄華》第1回です(リュリ)。13:00~15:00のバッハ演奏の講座は、17日が「最新録音で聴くフランス組曲」、31日が同じく《パルティータ第6番》です。後者は曲目が変更になっていますのでご注意ください。

15日からの週は放送が出ますが、詳細はあらためて(バッハのチェンバロ/ピアノ曲です)。その週、いずみホールで「大阪国際室内楽コンクール&フェスタ」が開かれていますが、19日(金)の19:00から開かれる特別コンサートで、ナビゲーターを務めます。シューベルトの弦楽五重奏曲とモーツァルトのクラリネット五重奏曲という、超弩級のプログラム。出演は審査委員長の堤剛さん(チェロ)とミッシェル・ルティエクさん(クラリネット)、クアルテット・エクセルシオです。本選も覗いてみます。

25日(木)は朝日新宿校の宗教改革講座の第2回。「新約聖書と宗教改革」というテーマで、ルター訳の新約聖書が音楽で生かされた実例を紹介します。10:00~12:00。

27日(土)は同横浜校のモーツァルト講座(13:00~15:00)。ピアノ協奏曲シリーズの今回は、隠れた名曲ともいうべき第22番変ホ長調です。名演奏にもご期待ください。

6月の予定は、早めにお知らせします。

(付記)いったん、28日(日)にすざかバッハの会とご紹介しましたが、7月9日の誤りでした。お詫びして訂正します。

小山実稚恵、前人未踏の《ゴルトベルク変奏曲》2017年05月05日 10時29分09秒

これは本当に驚きました。小山さんを尊敬します。

小山さんと私はバッハを通じて結構接点があり、コンサートをお願いしたこともありますし、対談したり、プレイベントにお邪魔したこともあります。そのためでしょうか、30周年記念として《ゴルトベルク変奏曲》を録音されるにあたり、一度聴いてくれないか、というお誘いをいただきました。都内の立派なリハーサル室です。

演奏が始まると、小山さんの演奏と私が日頃温めている考えの間に、一定の乖離があることがわかりました。それは当然のことで、もちろんそのままでもご立派なのですが、せっかくこの場があるのだから、小山さんがどう思われるか、私なりにいろいろ提案してみようと思い立ちました。

イメージを伝えると、それをすぐ音にされます。実験し、可能性を吟味するうちに、乖離がいつのまにか、すーっと消えていったのですね。一緒に音楽をする楽しさに、文字通り時間を忘れました。用意した2時間をずっと過ぎてしまい、次の予定地へとあわてて向かったことを思い出します。

というわけで貴重なひとときだったわけですが、私の役割はそれで終わり。後をどう作り、どんな録音を作られるかは、小山さん次第です。基本的には、ご自身の解釈に、ある程度の変容を含みつつ戻られるのではないかと予想していました。

さて時間が経ち、今日発売されました、との報告をいただきました。CDはすでに届いていたので、おそるおそる、聴いてみました。

それでわかったのは、あの時間に湧いてきたものを小山さんが温めて先へ先へと究められ、高い完成度へともたらされた、ということです。

演奏は潤いがあり、軽やかな踊り感覚にも満たされて、優雅。やや抑えたテンポから、行間の味わいがにじみ出てきます。洒落た利かし、ちょっとした発見が、あちこちにちりばめられている。3声曲が多いですが、その3声がすごく丁寧に弾き分けられていて、どの声部にも、命が吹きこまれている。バッハのポリフォニーをして、自ら語らしめるという行き方なのです。小山さんの新境地を伝える、稀有の演奏と申し上げましょう。

ライナーノートにはご自身の挨拶や美しい写真の数々が載せられています。解説は私ですが、音が仕上がる前にお渡ししましたので、演奏について触れることが出来ませんでした。この場をもって、代えさせていただきます。ぜひ、広く聴かれますように。

なつかしい図書館2017年05月04日 00時11分51秒

昨日、じつに久しぶりに、国立音大の図書館を訪れました。

私は出不精のところがあり、こまめに足を運ぶたちでなかったことを悔やむこともあります。しかし連休前であるからにはここで行くべきと思い定め、古い入館証をもって出かけました。

好天の五月です。玉川上水の駅から大学までの道には五月がびっしり咲き、大学の緑も美しさひとしおでした。昔の建物もすっかり整備され、以前にも増して、快適に使える空間になりました。古い入館証がまだ有効なのにびっくり。当然入れないと思い、入り口のインターホンで、「礒山と申しますが・・」などと言ってしまいました(←元館長です)。

親切にしていただきながらあらためて思ったのは、家にそれなりに環境が整っていても、図書館では勉強が広がるなあ、ということです。研究にはたしかに「足で稼ぐ」という側面があり、それがちょっと、苦手なのです。

5月の前半に、じつはかなり、使える時間があります。ドイツに行く前に論文がどこまで進められるか、ここが勝負になるので、集中したいと思います。

不思議の野球シーズン2017年05月01日 23時34分48秒

シーズンが来ているのに、野球の話題から遠ざかっていたことに気づきました。スマホで見られる速報も日進月歩なので、興味深く見守っています。

野球の評論家や記者の方々はたいへんですね。順位予想をしなくてはいけませんから・・・。セ・リーグはまだしも、パ・リーグは、楽天が1位、オリックスが2位、日本ハムが最下位。これは誰も当てられませんね。去年ツキを使いすぎた球団は、翌年に影響するようにも思います。

私は昔阪急ファン、いまオリックスのファンです。去年オリックスは一軍、二軍その他すべての順位で最下位になり、やる気のないように見える試合もありました。しかも、そこから大黒柱糸井が抜けた。それが見違えるような試合をしているのですから、わからないものです。

そういえば、巨大補強でぶっちぎりと言われた巨人も、そういう試合ぶりではないですよね(笑)。去年の戦力を基本に、プラス・マイナスを考えていたのではわからないのが、野球というスポーツであるようです。どうなるか誰にもわからない、5月です。

個人技の集合であるとともにチームプレーというファクターのある野球は、運や偶然のファクターのからみもその分複雑ですから、なかなか深いということでしょう。稲村亜美さんの始球式も楽しみです。(今日は試合のない月曜日なので、淡々と綴りました。)

3月・4月のCD2017年04月29日 12時30分04秒

先月書きそびれましたので、今月、併せて書きますね。

3月選は、ラファウ・ブレハッチのバッハ・リサイタル(グラモフォン)でした。清潔で爽やかなばかりでなく、洞察力も十分に示された、本格的なバッハです。《クラヴィーア練習曲集》の4つの巻から《イタリア協奏曲》、2曲の《パルティータ》、《デュエット》を選び、《主よ、人の望みの喜びよ》で締めているということは、次は《ゴルトベルク変奏曲》ということですね。

今月は趣を変えて、「アメリカン・コンポーザーズ」という、20世紀アメリカの作曲家たちによる打楽器音楽を選びました(コジマ録音)。上野信一&フォニックス・レフレクションの演奏がとても軽やか、リズムに血が通っていて、心地良いのです。トレヴィノ、クラフト、ライヒ、ハリソン、ケージに加えて、ヴァレーズも入っています。

アヴィ・アヴィダルによる、ヴィヴァルディのマンドリン協奏曲集(グラモフォン)もすごいと思いました。編曲が多くなってしまうのは仕方ないですが、マンドリンにしてこの表現力は驚異です。

藤木大地さんの名歌選集(KKC)も良かったですね。「言葉の端正な扱いと匂い立つリリシズムで魅力満点」なのは、藤木さんならではです。

ツキの帰趨2017年04月27日 23時38分04秒



これは東大の正門を入ったところから、南側を撮ったものです。昔いたのは左側の建物ですが、ずいぶん建物が増えて、密集した感じになりました。

通っていたのは半世紀近く前ですから、変化して当然。昔は胃が痛いのをがまんして通っていたわけですが、さすがにこれだけ歳月が経つと、ゆとりをもって眺められます。

訪れたのは、書類を1つ作ってもらうため。どんな対応になるのか、後日また取りに行くことになるのだろうな、となどと思って依頼書を出したところ、若くかわいい職員さんがきわめて感じのいい対応で、手際よく、その場で作ってくれました。手数料なし。ちょっとうきうきした気分になって、理事をしているある財団に向かいました。

そこでふと気になったのは、この出来事が夜のコンサートに与える影響です。ご承知のように、私はツキの量は一定、事前に思わしくないことがあると本番がうまくいき、万事順調のときは本番で何かがある、という立場なので、これはどうなのかと心配になってきました。

本番というのは朝日カルチャー新宿校のレクチャーコンサート(26日)。大ブレイク中の瀬川裕美子さんの弾く《ゴルトベルク変奏曲》ということで、たくさんのお客様に来ていただきました。

瀬川さんの同曲CDは、演奏ももちろんですが、各変奏に標題を付けるセンスや御自身の解説がたいしたもので、私はその標題と、ライナーノートから抜粋した2つぐらいのセンテンスを、変奏の間でアナウンスすることにしました。これは音楽の流れを止めてしまう危険のあることですが、30も変奏のある曲だと、途中でどこだかわからなくなってしまうのが、私も経験してきたこと。ですので、各変奏の個性をしっかり把握してもらう方に賭けました。レクチャーコンサートですからね。

瀬川さん、とても良かったです。頭のいい方で、哲学や諸芸術に関心を寄せる、幅の広いところがあります。ウェーベルンやブーレーズについて、とくに熱く語られます。ご注目ください。


叙唱 レチタティーヴォ2017年04月24日 23時48分26秒

タイトルは、阿部久美さんの歌集続編です。六花書林から、「第3歌集」として発売されました。

タイトルから予想されるように、今回の歌集には久美さんのクラシック音楽好きが、至るところに反映されています。不肖私の放送も、「残響」というコーナーで、歌にしていただきました。以下に引用します。

    NHK-FM「古楽の楽しみ」礒山雅氏が

たましひとぢかに通へるほそき道ありてたどるはフルートの音と

(たくさんの歌たちの中から、今回も私撰により5編をご紹介します。)

    「やがて、はなれて」のコーナーから

察するに切りだしかねてゐる人か真紅の花にまづ触れており

    「あなたに、あなたへ」のコーナーから

日の暮れを律儀にしぼむ花ありてこの世の何をうたがふべきや

    「独奏〈ソリテリー〉」のコーナーから

心地よい眠りは来るよ下手から芝居の幕を引くやうにして

日の暮れにさへづる鳥としたしみて家路は細き石みちがよき

あのときの凍える言葉を解きたれば傘さすほどもない雨に似る

(私撰の感想)
久美さんの歌は多様で、奔放なもの、自在なもの、口調の勢いを生かしたものなど、いろいろです。私が選んだのは、どうやら流れよく自然なものに集中しているようで、久美さんの歌への専門筋の評価とは違っているかもしれません。「私撰」ということでご容赦ください。

(付記)最後の歌は、私のよくする経験でもあります。

補液2017年04月22日 22時10分19秒

緊迫スケジュールがまだ続いていますが、文字通り、話を聞いてくださる方々から元気をいただくことで、もう少しのところまで乗り切ってきました。明日は須坂です。

そうこうしているうちに、愛犬の「陸」が腎不全になり、先が見えない、という状況になっています。家で1日おきに補液をしているのですが、嫌がって隠れているのを探し出し、点滴。これが犬にとって幸せかどうかわかりませんね。犬は、死について考えたりしないでしょうから。

忙しくなると郵便がそのまま積み上がるのが、いつものことです。しかし今が特別なのは、講座や放送でたくさん使ったCDが椅子の周囲に積み上がり、いくつもの塔ができていること。崩れたのを修復したり、見あたらないのを探したりが面倒。やはり使ったらすぐ戻すのが、仕事の能率を保つ秘訣のようです。

熊本の春2017年04月15日 01時26分41秒

昨日(4月14日)は、大地震後一周年を迎えた熊本の映像が、どのチャンネルにも流れたと思います。私も行ってきました。ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞というプロジェクトに関われていることが嬉しく、祈念賞がらみの行事で、熊本の土を踏みました。

うららかな日。飛行機を降りるだけで、伸びやかな解放感に包まれました。こんないいところはそうそうない、というのが実感されます。復興も、思いの外進んでいるよう。ウィーン・フィル・メンバーの弦楽四重奏は県庁と熊本城で行われましたが、その献身的な音楽への姿勢には、いつもながら頭が下がります。

当日のメインは、九州交響楽団にウィーン・フィルの4人を加え、さらに日本各地のオーケストラからの参加者と有志合唱を加えて、マーラーの《復活交響曲》を演奏すること。演奏が終わったタイミングで1年前地震がまさに起こった時間が来るため、そこで黙祷する、という計画です。

それに合わせて、熊本芸術劇場におけるコンサートの開始が20:00。これを聴くと、東京に帰れません。そこで、中途半端で申し訳ないことでしたが、ゲネプロのみに出席して帰路に就きました。土曜日午前中に「たのくら」の例会があるためです。福岡でつなぎ宿泊して一番機という案も考えましたが、飛行機が少しでも遅れるとアウトになるので、大事を取りました。

熊本城の広壮さにはびっくり。その広場にあった見事な木と、名残の桜をご覧ください。今年は熊本で合唱コンクールがあるため、再訪する予定です。




4月の「古楽の楽しみ」~聖母マリアの音楽2017年04月08日 09時56分41秒

「古楽の楽しみ」、今月は17日(月)からです。新年度は金曜日が入る計5日の特集になりましたので、かねてからやりたかった、「聖母マリアの音楽」を特集しました。時間と経費をたっぷりかけて準備し、多彩なプログラムを作りました。思い入れという点では、過去7年余で随一です。

17日(月) マリアと中世
 古代ギリシャ賛歌、グレゴリオ聖歌、中世オルガヌム、いくつかの写本(カルミナ・ブラーナ、聖母マリアのカンティガ集、ラス・ウェルガス写本、モンセラートの朱い本)から。

18日(火) マリアとルネサンス
 ダンスタブルとデュファイの「御母」つながりのモテット、マリアに献げるオルガン曲、「アヴェ・マリア」の聴き比べ(グレゴリオ聖歌、ジョスカン・デ・プレ、ウィリアム・コーニッシュ、オケゲム、ヴィラールト)。カンツォーナを1曲はさんで、パレストリーナとラッソの競演。後者がまたアヴェ・マリアになります。演奏はシャンティクリア、ヒリヤード、タリス・スコラーズ、PCAなど。

19日(水) マリアと雅歌
 旧約聖書『雅歌』のテキストによる、乙女マリアの音楽。いくつかのテキストに焦点をあて、パレストリーナ、ラッソ、レヒナー、ビクトリア、そしてモンテヴェルディを比較します。モンテヴェルディは《ヴェスプロ》から3曲入れましたが、先般ご紹介したザ・シックスティーンの演奏を使いました。

20日(木) 「海の星」のマリア
 絶美のイムヌス、《めでたし海の星Ave maris stella》の大特集です。グレゴリオ聖歌で開始し、作曲者不肖の13世紀モテット、ダンスタブル、デュファイ、ジョスカン、モンテヴェルディと来て、《ヴェスプロ》の〈聖マリアによるソナタ〉をはさみ、カヴァッリで締めくくりました。もとの聖歌がすばらしすぎるためか、聖歌に基づく曲が多い反面、そこから離れた新作は少ないと気づきました。その例外が、カヴァッリです。

21日(金) マニフィカトのマリア
 「マニフィカト」は『ルカ福音書』の伝えるマリア自身の歌ですから、最後はどうしてもこれになります。グレゴリオ聖歌の後、伝デュファイ、クロード・ル・ジューヌ、ジョヴァンニ・ガブリエーリ(12声)、モンテヴェルディ(7声)の4曲を紹介しました。

古い音楽の良さを痛感する作業過程でした。あえて言えば、月曜日には新鮮な驚きが、水曜日には官能の魅力が、木曜日には美の真髄があると思います。火曜日と金曜日は、王道を行くものです。どうぞよろしく。