つながり2016年10月12日 21時46分32秒

今日12日(水)は、貴重な在宅日。多くの課題がありましたが、惜しみなく集中して、積み残しなしで終わりました。珍しいことです。ここへ来てスケジュールが立て込んでいますが、充実していると感じます。ただし余裕はなく、ぎりぎりの綱渡りです。

9月30日に、朝日カルチャー新宿校のレクチャーコンサート枠で、バリトンの田中純さん、ピアノの久元祐子さんと、「名バリトンは何でも歌う」というコンサートをしました。田中さんは本当にどんな歌にでも愛を込められる方なので企画しましたが、これは演奏する方にたいへん負担となる一方で、お客様を集めるのにむずかしいということを学びました。何でもやる、と言ったのでは、本当にやりたいのは何だ、と問い返されて当然です。

でも、良かったと思いますね。一点だけ報告しますと、シューマンの《献呈》。これはシューマンが結婚の前日にクララに捧げた曲集の最初の曲で、Duの連呼、その世界は限りなく広がり、高まってゆく--という話をして、バトンを渡しました。そうしたら、田中さんがすべてのDuを限りなく明晰に、愛を込めて表現されるではありませんか。私は大いに感激し、次のトークがしばらくできなくなってしまったのです。

中間部の終わり、「君のまなざしがぼくを浄化してくれた」という部分に異名同音の転調がありますね。そこが私のイメージ通りに、まことに美しく表現されました。久元さんにそのことを申し上げたところ、田中さんはピアノがお上手で、和声のことが全部わかっている、とのこと。なるほど、と膝を打った次第です。

10月1日(土)にはその田中さん、久元さんに高橋薫子さんを加えて、セレモア(立川)の武蔵野ホールで、軽いコンサート。一流のプリマドンナなのにいつまでも純粋な高橋さんのすばらしさも格別で、これも忘れがたい思い出になりました。


飲みたい気持ちをがまんして帰宅したところ、まさお君から、翌日の長野行きの電車は何時にするか、という相談メール。完全に忘れていて、あわてて準備しました。九死に一生!持つべきものは友人です。

驚きの結果が語ること2016年10月09日 10時59分35秒

6枚のCDをシャッフルし、次の順序で再生しました。

ホロウェイ→五嶋みどり→ファウスト→クレーメル→ブッシュ→ベイエ。

どれも一流の演奏ですから、いま誰が弾いているかわかっている私から見ても、順位付けは至難そのもの。こういう場合、出てくる順序がかなり影響するのが常です。ちなみに参加者は17人、皆さん、バッハに少なからぬ関心をもっておられます。

さすがに採点は割れました。6人すべてに複数の1位があり、4人に、複数の最下位がありました(総合1位は最下位なし、総合2位は最下位1人)。予期せぬ結果に、はらはらドキドキの集計でした。

では、発表いたします(笑)。

第1位 アマンディーヌ・ベイエ
第2位 クリスティーネ・ブッシュ
第3位 ギドン・クレーメル
第4位 イザベル・ファウスト
第5位 五嶋みどり
第6位 ジェームズ・ホロウェイ

結果は、かけた順序と真逆になりました。ですので、順序を変えたら結果も変わった可能性はあると思います。この結果をもとに、少しずつ聴き直しながら、皆さんとディスカッションをして締めくくりました。

結果はある程度偶然的なものですし、私自身の個人採点と同じでもありません。しかし注目に値するのは、けっして有名とは言えない二人のバロック・ヴァイオリン奏者が、有名どころの3人を抑えて上位を占めた、ということです。これは、バッハの無伴奏ソナタという作品に対して、バロック・ヴァイオリンのもつアドヴァンテージを示すものとしか、解釈できないと思います。

そう言えるまで、古楽のレベルが向上しているのです。バッハの無伴奏を聴きたいんだが、という方に、それならバロック・ヴァイオリンで聴いてご覧なさい、と言える時代になった、ということです。ささやかなサンプルではありますが、私には重く感じられる出来事でした。

朝カル新宿校、改装成る!無伴奏聴き比べ2016年10月06日 22時38分45秒

新宿住友ビルの4F、7Fに住んでいた朝日カルチャーセンター新宿校が、10F(と一部11F)に移転しました。じつは移転前最後のイベントの仕切りが私だったのですが、その報告は追ってすることにし、先に移転後のお話しを。

新しい教室、事務室は当然気持ちがいいのですが、特筆すべきは、音楽教室の再生音が良くなったことです。ようやく、本格的な演奏比較ができるようになりました。そのことを知らずにですが、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の聴き比べを、5日の水曜日に行いました。

コンクール方式でやろう、と思い立ったのは、私のいたずら心。第1番の演奏6種類を順不同で(すなわちブラインドで)かけ、採点を順位で出してもらい、それを集計することにしました。聴くのは冒頭のアダージョと、フーガの初め少し。4つの着眼点を提示して、それぞれの点を合計してもらいます。順位は、印象によって変更していいことにしました。

もちろん、慣れない受講生に予告もなく行って乱暴でしたが、合唱コンクールにおける私の苦しみを経験してほしい、という気持ちがありました(笑)。持参した候補は、21世紀の録音6つ。次の通りです。録音順に記します。

・ギドン・クレーメル(モダン、ラトヴィア)2002年
・ジェームズ・ホロウェイ(バロック、イギリス)2004年
・イザベル・ファウスト(モダン、ドイツ)2009年
・アマンディーヌ・ベイエ(バロック、フランス)2010年
・クリスティーネ・ブッシュ(バロック、ドイツ)2011年
・五嶋みどり(モダン、日本)2013年

さあ、どうなったでしょうか。皆さんも考えてみてください。結果は、次回に。

今月の「古楽の楽しみ」~イギリス組曲2016年10月04日 21時39分42秒

ご報告がたまっていますが、「古楽の楽しみ」の予告を先に。

バッハの鍵盤組曲の中で最後まで温存していた、《イギリス組曲》を特集しました!バッハの鍵盤音楽、ピアノを使った方が反響は明らかに大きいのですが、作品に親しむにはチェンバロも聴いていただきたい気持ちがあり、今回も、チェンバロとピアノを半々にしました。1人1回、の原則も貫いています。

10日(月)は、第1番イ長調の全曲を、曽根麻矢子のチェンバロで聴きます。次にフランスの若手ピアニスト、レミ・ジェニエの演奏で、プレリュードとサラバンド。残った時間は第2番、第3番の予告に充てました。マルティン・シュタットフェルトのピアノで第2番のプレリュードとブーレー、第3番の4曲を、グスタフ・レオンハルト往年の演奏で。まったく違う世界ですが、お好みでお聴きください。

11日(火)は、第2番イ短調全曲を、パスカル・デュブレイユのチェンバロで。次に巨匠ネルソン・フレイレのピアノ新録音により、第3番の全曲。残った時間で、ルドルフ・ブーフビンダーの第3番から2曲。いずれもいい演奏ですが、ブーフビンダーは大穴の名演という感じがします。

12日(水)は、第4番変ホ長調。全曲を渡邊順生のチェンバロで、舞曲2つをウラディーミル・フェルツマンのピアノで。第5番ホ短調にはピョートル・アンデルジェフスキの新録音を使いました。私見では、シュタットフェルトよりアンデルジェフスキの方が、数段、本格的なバッハです。

13日(木)は、もっとも長大な第6番ニ短調。全曲はチェンバロで、ロシアのオルガ・マルティノワ。ピアノは比較の末、マレイ・ペライアを選びました。深みのある、さすがの演奏です(ちなみにシフとグールドは、最初から除外しました)。ペライアとレオンハルトを除いて、すべて21世紀の録音を使っています。お楽しみいただければと思います。

10月のイベント2016年10月02日 09時41分33秒

ご案内しようと思っているうちに10月に入り、1日(土)にセレモア武蔵野ホールのコンサートを終えました。今日2日(日)は、須坂にワーグナー《ジークフリート》の話をしに出かける直前です。遅れて申し訳ありません。ごく簡単に、あらましをご紹介します。

水曜日の朝日新宿校は、聖母マリアの企画が成立しませんでしたので、しばらく午後13:00からの講座だけになります。今季はバッハの最新録音を聴くシリーズで、5日、19日と、無伴奏ヴァイオリンをやります。

木曜日は早稲田中野校の「32歳のモーツァルト」を継続。6、13、20、27で一区切りになります。15:00~17:00です。

金曜日は國學院大学の日。土曜日はイベントの日です。8日(土)の「たのくら」は、ヴェルディ《ファルスタッフ》の1回目です(2回に分けてやります。10:00から)。15日(土)は、13:00から立川の朝日カルチャーセンター(駅ビル)で、バッハの《シャコンヌ》をさまざまな形でご紹介します。

23日(土)はいずみホールのバッハ・オルガン・シリーズです。ミシェル・ブヴァール氏の登場で《クラヴィーア練習曲集第3部》全曲。いずみホールのホームページで詳細をご覧下さい。

29日(土)の朝日横浜は、モーツァルトの交響曲探訪が、第40番ト短調に到達しました。13:00から。

いずみホールでは年間企画のシューベルト・シリーズが、いよいよスタートします。9日(日)にロータス・カルテットの《死と乙女》+弦楽五重奏曲があり、楽しみです。16日(日)には、富山のバッハ・アンサンブルからの招きで、《ロ短調ミサ曲》について講演します。

公の企画はこれだけだと思いますが、書き漏らしているものがありましたらお知らせ下さい。じつは今日の須坂も、昨日の夕方までうっかりしていたのです。罪滅ぼしに、これから行ってまいります!

何を着ていくか2016年09月29日 09時30分30秒

昨28日、国立劇場で、開場五十周年記念式典が開かれました。一応役員の末席に連なっていますので、出かけることにしました。

そこで困ったのは、何を着ていくか、ということです。紋付きに袴、きらびやかな着物の方々がずらり、といったイメージが浮かびますので、着古したものばかりの私としては、着ていくものがありません。

そこで思いついたのが、4月7日の「メンズ館」という談話でお話しした、○○○○○の高級スーツ。高揚感に燃えた買い物になった次第は書きましたが、白状しますと、妻に一発でダメ出しされて、着るに着られなくなってしまったのです。要は、私の体型の問題です。

というわけで半年、それは眠ったままでした。先生、急にお痩せになりましたね、と言われるようになってから着ても意味がありませんので、とにかく一度チャンスを与えよう、と思い立ちました。

体型に合わないと言ったって、人が驚きの目を見張るとか、思わず後ずさりするほどひどくはないだろう、と考えました。幸い知人は少なそうなので、隅で静かに時間を過ごすことにすれば、乗り切れそうです。

皇太子殿下ご夫妻の臨席される、さすがの式典でした。長年ご厚情を賜った今藤政太郎先生が功労者として表彰され、祝賀芸能、とくに、「元禄花見踊り」の華やかさに圧倒されました。

予想通り知人の少ないパーティ会場でスパークリングワインを飲みながら、伝統芸能にももっと時間を使わないといけないなあ、と思うことしきり。前後、とくに違和感のあるまなざしには出会わなかったことを申し添えます。

今月のCD/フランス、すごい!2016年09月27日 23時18分20秒

旧い録音はよりどりみどり、新しい録音はほとんど紹介されず・・・というのが市場の現実とあきらめかかっていましたが、その思いを一気に吹き払う、すばらしいCDが出ました。力を入れてご紹介します。

それは「夜の王のコンセール」と題する2枚組(ハルモニアムンディ)。少年ルイ14世(昨年没後400年)が太陽に扮して踊った有名な「夜の王のバレ」(1653年)の音楽を蘇生させたものです。

フランス・バロックはリュリから、とつい思ってしまいますが、これはリュリ以前。作曲家の名前がない、と思って調べると、何人もの合作なのですね。それなら平凡か、というとさにあらずで、目がさめるほど生き生きしていて、宮廷音楽の優雅が満載なのです。フランス、すごいなあ。

踊りと歌の趣向がまた、じつに凝っています。「夜」に始まり4つの「刻」を経て、最後に太陽(=ルイ14世)が昇る。それぞれの刻では、神話的人物がさまざまな愛憎の情景を繰り広げます。

となると、どうしても歌詞訳と日本語解説が必要ですよね。それがしっかり付いていて、情報価値十分。演奏(ドセ指揮、アンサンブル・コレスポンダンス)も絶品ですから、値段(8400円+税)も十分元が取れます。よくこれだけの冒険をしてくれました。敬意を表します。

祝・豪栄道2016年09月25日 22時17分18秒

先のことは誰も予見できない、と思ったのは、豪栄道の優勝ですね。感動的でした。こういうことが起こるから、スポーツは面白い。野球も同じですね。ぶっちぎりだったソフトバンクが追い越され、日本ハムがマジック3なんて、ほとんど信じられないことです。

風が吹いて来る人やチームがある反面、暗転に見舞われる人やチームもある。人生の面白さであり、こわさでもあります。でも相撲取りも野球の選手も、みんな同じことを言いますね。目先の一番一番、あるいは一試合一試合を全力でやっていく、と。

これって、私がいつも若い人たちに言っていることと同じですよね。目先のことをとにかく全力で成功させ、先につなげなさい、というのと。スポーツは、いい教材だと思います。

今場所は、内館牧子さんご推奨の美男力士、隠岐の海が、前半に活躍しました。私も応援していたのですが、どうも大らかな人柄のようで、厳しさが足りないですね。その点、日馬富士はたいしたものです。琴奨菊もパッとしませんが、土俵で両手を回し、琴バウアーで決める動きの流れがとてもきれいで、見とれています。

みんな強い中、生存競争がたいへんですね。だから面白いわけですが。

《オテロ》に学ぶ2016年09月22日 10時38分39秒

「たのくら」でヴェルディの《オテロ》を、2回にわたり勉強しました。この偉大な作品に、まこと脱帽の思いです。70代の創作にして、この発展は信じられません。

会員にも好きな方、詳しい方がおられ、ヴェルディが当初タイトルを《ヤーゴ》と付けたがっていた、という話になりました。これは経緯を正確に調べてみるべき話で、職業柄そうしないで話題にするのもいかがかと思いますが、お目こぼしをいただきまして・・・。

オテロもヤーゴもすばらしい人物造形で、その対立も効果満点です。しかしどちらの人物がより独創的かと言われれば、ヤーゴでしょう。第2幕冒頭の〈ヤーゴの信条〉など、前代未聞の音楽と言っていい。

第1幕。ヤーゴはオテロの登場前からその場にいますし、名曲〈乾杯の歌〉の前後で、彼の目論見を実行する。しかし彼に本当にスポットが当たるのは、第2幕です。冒頭にキリスト教の〈クレド〉を裏返した〈信条〉があり、オテロをたぶらかす〈夢の歌〉がある。その最後に、両雄による〈復讐の二重唱〉があります。

豪快なオスティナート音型(←名旋律!)を先立てて始まるこの二重唱、私の好きな曲なのですが、気がついてみると、主旋律を歌うのはヤーゴで、オテロは上を付けているだけなんですね。力関係がこう明らかになると、歌劇《ヤーゴ》第2幕でもおかしくありません。

第3幕もそれでいけるでしょう。最後、ヤーゴは勝ち誇ってオテロを足蹴にしますから。ところが。第4幕でヤーゴは存在感を失い、逃げ去るだけになります。逆にオテロは空前の名場面で独壇場、という形になりますから、やはり《オテロ》第4幕と言わざるを得ません。このあたり、先行研究が存在することでしょう。

古今の演奏を比較すると、昔は大歌手の個人プレーが前面に出ていて、われわれがNHKのイタリア歌劇団に熱狂したのは、まさにそのような公演だった、と痛感します。それからというもの、レコードを選ぶにも、有名な歌手がたくさん出ている方を選んでいたものです。

しかしその後、大指揮者が仕切るオペラという形が世界で進行し、ドラマ優先のオペラが尊重されるようになりました。私は、今後のオペラはいっそうアンサンブルを尊重するようになると予測しています。クルレンツィスのような指揮者とともに、もうそれは始まっている。小さなコンサートホールでオペラをやる場合にはそうした方向が重要で、歌い手の方々にも、それに対応する柔軟性を求めたいと思います。

それは、ヴェルディ自身が求めたことでもあるのです。《オテロ》には精緻なアンサンブル楽曲が見え隠れしており、たとえば第3幕のヤーゴとカッシオの二重唱は、《ファルスタッフ》の世界を指し示しています。《ファルスタッフ》がいかに高度なアンサンブル・オペラに発展してオペラの歴史を塗り替えたかは、皆様ご承知の通りです。

お疲れ?2016年09月18日 07時57分26秒

職場を離れてから行くことのまれになった立川へ、久しぶりに。改札を少し出たところで、お世話になったかつての同僚と鉢合わせしました。

その方が開口一番おっしゃるには、「お疲れのようですね」と。こう言われることがよくありますので、疲れていないのに言われた時には、「人生に疲れまして」と返事します。「お年を召しましたね」と同義だと考えるからです。

この日もそう申し上げたのですが、その方は急に真顔になり、「お元気でお過ごしだと思っていたのに、どうされたのですか」とおっしゃるではありませんか。これには私も驚き、あれこれ引っ張ってから、「冗談です」と言って落着。どうやら、冗談で済んだものが冗談では済まなくなってきたようです(笑)。

そんな状況ですので少し時間に余裕をもちたいな、と思っていたところへ、ある大学から、後期に急遽一コマ持ってくれ、との要請が。そこで金曜日の午前中に出講することにしました。でもその分、何かを整理しないといけませんね。残り時間に照らして、むずかしいところです。

と書いて気づいたのは、何より部屋を整理するのが先、ということ。昔から散らかし人間なのですが、片付けるのが面倒になっているのが、人生の疲れの余波のようです。