大物かも ― 2009年12月04日 23時25分32秒
今週の水曜日。大学には行かなくてもいい週なのですが、会議があってはやむを得ません。またこの会議か、仕方ないな、ということで、学生の指導を2つ入れ、併せて学長に面談を申し込みました。いくつかお考えを伺いたいので、会議が順調に終わったらお願い、という依頼メールです。
すると学長から、今日会議はないが、その時間なら大丈夫です、という返信。私は、いや会議はいっしょの筈ですよ、と返しました。しばらくして再度返信。手帳に付け忘れたかとびっくりし、いろいろな部局に問い合わせたが、今日会議はないと思われる、とのことです。私も不思議に思い、召集令状を見たら、平成20年12月3日(水)とありました。なるほど、去年のことでしたか。
でも私は、なにやら自信が出てきたのですね。話のスケールが大きい。周囲でも時間を間違えたという話はよく聞きますが、たいていは、1時間間違えたとか、1週間間違えたとか、小さい話ばかりです。そんな話に比べれば、1年ドーンと間違える私は、文字通り大物と言えるのではないでしょうか。
1年じゃまだ小さいよ、とおっしゃるあなた。そりゃもちろん、5年単位、10年単位で間違える人があらわれれば私も甲を脱ぎますが、それは難しいんじゃないでしょうか。いや間違えた、という方がおられたら、書き込みをお願いします。
今月のイベント ― 2009年12月03日 14時03分16秒
8日のカンタータ公演以外のイベントです。
12月5日(土)は第一土曜日ですので、朝日カルチャー新宿校の講座「新・バッハ/魂のエヴァンゲリスト」です(10:00~12:00)。かつての著作を批判的に読み直すこの講座、今月から最後の章「数学的秩序の探求」に入り、「後期の諸作品」と題してお話しします。6日は既報の通り、クリスマス音楽のFM放送があります。
13日(日)は、すざかバッハの会です(14:00~16:30)。2年間続いた「バッハ最前線」のこれが最終回で、《マタイ受難曲》の連続講義は「死と埋葬」。「この1曲」では、《ロ短調ミサ曲》についてお話しします。わあ、重いですね。
19日(土)は楽しいクラシックの会(10:00~12:00)です。新録音の増えてきた《ゴルトベルク変奏曲》を聴き比べて、今年の締めくくりといたしましょう。
26日(土)は朝日カルチャー横浜校(13:00~15:00)で、「ヘンデルのオラトリオ」のお話です。当然《メサイア》が中心となりますが、新しい素材も、探してみたいと思っています。よろしくどうぞ。
乞うご期待、カンタータ公演! ― 2009年12月02日 12時16分37秒
12月のイベントをご案内する時期になりました。もっとも重要な くにたちiGACHコレギウムのカンタータ公演について、まずご案内します。
12月8日(火)18:30から、国立音楽大学講堂小ホール、入場無料。演奏曲目は、カンタータ第64番《見よ、どれほどの愛を》、モテット《イエスよ、私の喜び》BWV227、カンタータ第140番《目覚めよ》という、超名曲ぞろい。指揮は大塚直哉さん(←天才!)です。
第64番は後半にソプラノとアルトのすばらしいアリアがあるのですが、この2曲が、iBACHの看板コンチェルティストである小泉惠子さん、加納悦子さん(←貫禄!)によって歌われます。モテットは、コラールの変奏にあたる奇数楽章を合唱で、聖書のテキストによる偶数楽章を重唱で対比的に演奏するよう、工夫してみました。コンチェルティストは、山崎法子、川辺茜、湯川亜也子、中嶋克彦、杉村俊哉/千葉祐也の方々です。
トリの第140番は、オリジナル通り、ヴィオリーノ・ピッコロ(!)を使って演奏します。もちろん、オーボエ・ダ・カッチャやナチュラル・ホルンも加わります。合唱のすばらしい作品ですが、阿部雅子さん(←急上昇中)、小川哲生さんによる愛の二重唱も、ぜひ聴いていただきたいものです。
昨日、ゲネプロ前最後の練習をしましたが、演奏会を控え、相当引き締まってきました。ぜひぜひ、お出でをお待ちしています。
真の「気鋭」による好著 ― 2009年11月30日 23時06分00秒
昨日、朝日カルチャーの帰りにオリオン書房に寄り、音楽学、歴史、神学などの文献を大量に買い込みました。戻ってからページを繰っていてすっかり感心したのが、広瀬大介さんの『リヒャルト・シュトラウス 「自画像」としてのオペラ~《無口な女》の成立史と音楽」という本です(アルテス・パブリッシング)。
別のところに書くことにしましたのでここで書評をするわけにはいきませんが、私が感心したのは、この本が単なる解釈の提案ではなく、思いつくかぎりの多様な視点から作品を分析し考察した、精緻にして正統的な研究書になっていることでした。若いのにこの正攻法は、たいしたものです。作曲家シュトラウスやそのオペラ作品を知るために、避けて通れない文献になることでしょう。
最近ドイツ系のオペラを見に行くと、解説はたいてい、広瀬さん。こういう人をこそ、「気鋭」と呼ばなくてはなりません。
苦戦の結末 ― 2009年11月29日 23時18分25秒
今月のCD/DVD選、ご報告しておかなくてはいけませんね。
バッハ、バロックだけでも目白押しでたいへんだ、と申しました。しかし他の領域にも、枠があれば取りたいものがたくさんあったのです。クレーメルのモーツァルト《ヴァイオリン協奏曲全集》とか、ブレンデルの「フェアウェル・コンサート」とか、佐藤卓史さんのショパン・アルバムとか、佐藤恵津子さんの武満Songsとか。
結局これらをすべて見送り、まずシフの《パルティータ》全曲に、1席を取りました。古楽奏法を踏まえた正統的解釈にますます磨きがかかり、第2番のクーラントなど、なんとイネガル(フランス様式の不均等リズム)で演奏している。プロジェクトで渡邊順生さんが学生に要求され、ピアノじゃなかなかうまくいかないなあ、などと言っていたところだったので、驚きました。確信をもって絢爛と演奏された6曲です。
リフキンの「ザ・バロック・ビートルズ・ブック」も、落とせないという結論になりました。ビートルズのナンバーを組曲やカンタータに仕立てているわけですが、若き日のリフキンの手腕は並の模作とは桁違いで、ヘンデルだ、バッハだと言われても信じてしまいそう。私など、「どこにビートルズがあるの?」という感じです。わが親友、やっぱりすごいです。
DVDもひとつ入れたいので、今回は新宿のタワーレコードに買いに行きました。新譜はどこだ、と聞いたら、まあこの辺だ、というあいまいな返事なので、そのあたりから3点選んで購入。帰って比較したところ、ショスタコーヴィチの《ムツェンスク郡のマクベス夫人》がぶっちぎりですばらしいのですね。クシェイ演出による2006年のライヴで、コンセルトヘボウがオケで入っているのですが、マリス・ヤンソンスの統率が圧巻なのです。すさんだ環境下の惨劇を息もつかせぬ迫力で描きながら、音楽の美しさと品位を保っている。だから、なんとすばらしい曲なんだろう、と聴き入ってしまいます。というわけで、これを1位にしました。
そのことを友人に話したら、それは新譜ではないぞ、とのこと。うっかりしました。しかし、取り上げる機会ができたことはよかったと思います。割を食った新譜には、申し訳ないのですが・・・。
自分への非情 ― 2009年11月28日 23時56分15秒
放送にかかわったことで身についたこと、大事なことを忘れていました。話を時間通りにできるようになったことです。そもそも人前で話をする場合、時間は2時間のことも、1時間のことも、10分のことも、1分のこともある。それぞれで、最大の効果を収めなくてはならなりません。とりわけ、短い話に少しでも多くの情報を盛り込むことが重要なのです。
それが顕著なのは、生放送。オーケストラが勢揃いし、音が出るまでの40秒間に、挨拶し、曲目のこと、演奏家のことなどを述べなくてはなりません。こういう場合、一番大事なことを先に言い、二番目に重要なことを次に言う。まだ時間があれば、第三のことを滑り込ませる。もちろん、それぞれのメッセージは、秒単位に凝縮するわけです。
こうした技術には、短歌や俳句に近いところがある。1つのことを言って、10のことを知ってもらうテクニックです。すべて、簡潔であるべき。この課題に取り組むと、一般の会話が、どれほど冗長なものかがわかってきます。何を言うかも重要ですが、何を言わずに済ますか、が重要なのです。
新聞のコンサート批評も、簡潔を旨とする意味では、近いところにあります。学会発表も同じ。昔は、与えられた原稿枚数を超過してしまい、ごめんなさい、ということもありましたが、今は、どんなに少ない枚数でも対応する自信があります。そんな枚数では書けない、という話もよく聞きますが、それは錯覚です。ただしそのためには、自分が書きたいことをどんどん削るという、一種の非情さが必要なのです。自分の思い入れに妥協しているうちは、まだ未熟だと思います。
久しぶりのNHK ― 2009年11月27日 22時54分44秒
急な依頼があり、久しぶりにNHKの収録に行ってきました。西口の待ち合わせだったので渋谷から行きましたが、渋谷からNHKまでの道に、おいしそうなお店がすごく増えているのにびっくり。私が通わないと、お店が繁盛するようですね。
いろいろな思い出が脳裏を去来しました。たいていは準備が間に合わず、息せき切って駆けつけるイメージ。放送はたいへんでしたが、とてもありがたい体験でした。ひとつは、知名度を作ってもらったこと。もうひとつは、しゃべりの技術を磨いてもらったこと。もうひとつは、世界の演奏の現在に親しませてもらったことです。NHKあっての、今の私だと思っています。
収録したのは12月6日放送の「サンデークラシックワイド」で、バッハの《クリスマス・オラトリオ》、ヘンデルの《メサイア》(抜粋)、オール《アヴェ・マリア》の合唱コンサートの3つが含まれています。スウェーデンの《クリスマス・オラトリオ》は、なかなかいい演奏だと思いました。
放送の仕事も、続けてゆく気配です。ゆとりを作ろうとしているのですが、来年も、忙しくなりそうです。
ピアノ部門、2年目終了! ― 2009年11月26日 11時27分32秒
11月24日の火曜日、私の主宰する国立音楽大学音楽研究所バッハ演奏研究プロジェクト、ピアノ部門の発表コンサートがありました。ご来場くださった方々、ご出演の方々、ご協力をいただいた方々、ありがとうございました。
受講生の発表と指導教員の演奏をドッキングするのが、去年からのポリシー。前半には、今年勉強してきた《パルティータ》第2番と第6番が、選抜された各3人の受講生によって演奏されました。皆さん、オーディションの時より格段に勉強が進んでおり、やはりステージがあることは大事だと実感。安曽麻里江さん→安曽絢香さん→五味ひとみさんのリレーで演奏された第6番の出来映えはすばらしいものでした。勉強を通じて演奏がどんどん変わられたという話で、1年間続けてきた意味を感じることができました。
後半は、加藤一郎、渡邊順生両先生の2台チェンバロによる《フーガの技法》2曲をはさんで、近藤伸子先生の《イギリス組曲第5番》と、渡邊順生先生による《パルティータ第4番》の、ピアノとチェンバロによる競演。おかげさまで、ぜいたくなコンサートにさせていただきました。
ピアノ部門はこれで終了ですが、12月1日に補遺で、加藤一郎先生によるテンポ論の講義があります。どなたでも聞いていただけます。8日は声楽部門の発表です。カンタータ第64番、モテット《イエスよ、私の喜び》、カンタータ第140番を大塚直哉さんの指揮で演奏します。声楽陣の充実はかなりだと思うので、ぜひお出かけください。
WINDOWS7導入記(3):目下の感想 ― 2009年11月23日 23時05分52秒
いろいろありましたが、すべての環境が、WINDOWS7になりました。そこで、とりあえずの感想です。
すばらしい、と言っていいのではないでしょうか。3台のうちでも効果が著しいのが、大学で使っている、旧XPのマシンです。当然、VISTAにできなかった水準のスペックであるわけですが、XP以上になめらかに動きます。画像がやけに美しく、ディスプレイを買い換えたいという気持ちがなくなりました。
操作性も格段にいいと思います。とくに、エクスプローラーの改良が著しい。タスクバーも使いやすくなりましたね。ですから、XPで二の足を踏んでいる方も、グレードアップの利得にあずかれるはずです。
それにしても、VISTAは何だったのか、という思いに駆られます。CPUをグレードアップし、メモリも増強して導入したというのに・・・。いま指南役にしている解説書には、VISTAへの、ほとんどくそみその批判が連ねられています。だったら、もっと前から言ってほしかったなあ。この著者は、言っておられたのかもしれませんが・・・。本来OSのあるべき形にようやくマイクロソフトが舵を切った、ということですね。ユーザーの力ではないでしょうか。ちなみに、なくなったと思っていた旧Cドライブの内容は、ちゃんと別保存されていました。このあたりにも、目配りがなされているようです。
ギターに開眼 ― 2009年11月22日 22時47分14秒
皆様は、「わたなべ音楽堂〈ベルネザール〉」をご存じでしょうか。東武伊勢崎線の五反野駅、梅島駅、つくばエクスプレス青井駅から同じぐらい離れた住宅街にある、お堂のような形の小さなホールです。そこで今日、國松竜次さんのギター・リサイタルを聴いてきました。
國松さんは、私が先月のCD3選でタレガの作品集を取り上げた方です。とてもよかったので、一度生を聴いてみたい気持ちにかられていました。そこで、ホームページを調べて今日のコンサートを知り、電話をかけて予約、地図を見い見いやってくる(結局迷いましたが)という、めったにしたことのない行動をとったわけです。
ギターの場合、客席数は25人(!)。正面のかぶりつきで、演奏者との距離は至近の1.5メートル。しかし最初の音が出てすぐに、こうした空間でギターを聴くことがどれほど理想的かわかりました。音量的にはごく小さいはずのギターの音がじつに豊かに響き、細部まで、手に取るように聞き取れるのです。ギターの音の魅力は何より、人間の指が直接弦をはじくことから来ています。その柔らかさ、やさしさ、一種の肉感性は、ハンマーやジャックを使った楽器には出せないものだと思います。
このように魅了されたのは、國松さんの演奏が音を大事にし、慈しむようなスタンスで一貫していたから。写真から「かっこいい」タイプを想像していたのですが、実物は美的な感受性の豊かな、きわめて繊細な青年でした。音楽も汚れないピュアな印象のもので、最後の《アランブラの思い出》に至るまで、私は感動をもって耳を傾けました。
進行を司られていた支配人が最後のご挨拶でなんと私をご紹介くださり、乞われてスピーチをするという、意外な展開。お客様の中に、さる大学で私の本をテキストとして《マタイ受難曲》の授業をしているという方がおられたのにはびっくりしました。このホールあっての今日のコンサートです。皆様も一度訪問してみてください。ホームページもありますよ。
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