明晰なポリフォニー2008年10月04日 22時21分55秒

自分がかかわったコンサートのことをほめて書くのは、スマートでないと、基本的に思っています。かかわりが深いと自己投入しますから、音楽に感動する確率も、当然高くなる。それがわかっていても書いておきたいのが、木曜日のいずみホールにおける、ミヒャエル・ラドゥレスク氏のコンサートでした。オルガンで弾かれるこんなすばらしいバッハを過去にいつ聴いただろうか、というのが、心からの実感です。

氏は当日の曲目のCDを出しておられますが、実演の方が格段によかった。それは、ナマと録音の違いでしょうか、あるいは、いま特に充実しておられるのでしょうか。お弟子さんのご意見では、後者でもあるようです。オルガンが「精神的」と呼びたくなるような密度で鳴り、ポリフォニーが、あまねく明晰。特筆すべきは、微動だにしない安定したテンポです。それによって、宇宙的とも思える一種崇高な秩序が、長い持続の中で組み上げられてゆくのです。かつてないほど熱烈な拍手が客席から送られたのも、むべなるかなでした。

ラドゥレスク氏はその道の大家ではありますが、音楽の世界全体から見れば、知る人ぞ知るという、地味な存在でしょう。そういう人からこういう音楽を聴けるのが、音楽の醍醐味ですね。有名でも毎度毎度いいかげんな演奏をする人も、いますから。

バッハの演奏にもっとも大切なものは安定したテンポの秩序であることに、あらためて確信をもちました。アゴーギクはもちろん必要だし有効ですが、秩序を中断するようなルバートは、すべきでないと思います。ピアノによるバッハを聴いて、しばしば気になる部分です。