9月のイベント ― 2008年09月03日 21時43分32秒
9月のイベントをお知らせします。今月は北陸への演奏旅行が大学の公式行事としてあり、松本にも出かけます。
5日(金) 19:00 石川県文教会館(金沢) 2000円 レクチャーコンサート「モーツァルトの美意識を探る~あなたは長調、それとも短調?」 アイネ・クライネ・ナハトムジークト長調/ピアノ四重奏曲第1番ト短調/歌劇《魔笛》抜粋 出演:澤畑恵美、品田昭子、山下浩司、久元祐子 国立音楽大学教員、卒業生
8日(月) 19:00 新潟市音楽文化会館 レクチャーコンサート(5日に同じ)
13日(土) 10:00 立川楽しいクラシックの会 「百花繚乱・バロック音楽その16~いよいよバッハの無伴奏」
20日(土) 16:00~17:30 松本ハーモニーホール 講演「弦楽四重奏こそベートーヴェン!」(古典四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏へのプレレクチャー)
27日(土) 13:00 朝日カルチャーセンター横浜 「バロック音楽の名曲を聴く~若きバッハの音楽」
二度と聴けないパパゲーナ? ― 2008年09月04日 23時44分17秒
今日は大学で、金沢/新潟のコンサートのリハーサル。私の大学のプリマドンナ、澤畑恵美さんの気品ある歌唱にはいつもながらほれぼれしますが、今回はパミーナのアリアと二重唱に加えて、パパゲーナの二重唱も歌ってくださいます。初めてだそうで、とても楽しそうに歌われていました。唯一無二の機会になるかもしれませんから、北陸の方々、楽しみになさってください。
アメリカの大統領選挙がまたにぎやかになってきましたね。私はずっとそれ関連の記事を追いかけているのですが、gooニュースに加藤祐子さんの書かれている「大手町から見る米大統領選2008」という連載がお勧めです。私の存じ上げない方ですが、よく勉強されていて情報量が多い上に、奔放な筆遣いが面白く、楽しみに読んでいます。どの世界にも、輝いている女性はいるものですね。
再開発 ― 2008年09月07日 17時10分00秒
金沢でのコンサートを終え、新潟にやってきました。そこで認識したのは、金沢と新潟はとても遠い、ということです。東京にいると、つい「北陸」として、ひとくくりにしてしまいます。しかし、両都市をつなぐ列車はきわめて少なく、富山、直江津、柏崎、長岡と経由して、たいへん時間がかかる。したがって6日は、純移動日となりました。
金沢駅周辺を歩いてみました。再開発が終わり、どちらの側も、整然としています。広い道路、巨大なビル群。しかしお店は全部ビルの中に入っていて、商店を連ねた駅前通りというものがありません。風土の香りをかごうと思って外に出ても、広がっているのは道路とビルの景観です。それなりの利点もあるのでしょうが、行きずりの者としては、都市の顔が見えないようで、ちょっと残念に思いました。再開発をすると、どこもこうなるのでしょうか。新潟は、南口がそうなっていますね。
想像力豊かなピアノ ― 2008年09月10日 23時03分17秒
5日間の演奏旅行というのは、演奏家の方にとってはよくあることなのでしょうが、私はへとへと。昨日は東京に戻ったあと大学に出てスケジュールをこなし、今日も会議や指導がたくさん入っていて、たいへん疲れました。
しかし、自分の企画したコンサートを優秀な手駒で実現できるというのは、幸せなことですね。北陸の方々から心温まる歓待をいただき、想い出に残る日々を過ごすことができました。北陸の方々、同行された方々、ありがとうございました。
《魔笛》の管弦楽は足本憲治さんによる室内楽編曲版を使ったのですが、パパゲーノの鳴らすグロッケンシュピールがありません。そこでピアノで代用することにし、ピアノ四重奏曲ト短調のために同行された久元祐子さんに、演奏を依頼しました。
とにかくそのパートを弾いてくださればいい、ぐらいに思っていたのですが、久元さんの演奏はピアノであることを忘れるぐらいにかわいく、歯切れ良く、夢を乗せて響きました。そしてそういう音を出すために、何度も練習してくださっていたのです。
久元さんがモーツァルトの名手であることは皆様ご存じの通りですが(『青春のモーツァルト』というすばらしいCDがALMから出ています)、さまざまな要素を兼ね備えた中でも特筆に値すると思うのが、音楽に寄せる想像力です。インタビューしたところでは、ピアノ・パートのあちこちで、オペラの情景を脳裏に浮かべておられるとか。それがよくわかったのは、《魔笛》における短調と長調の使い方を調べるために、いくつかの部分を演奏していただいたときでした。曲想に従って音色が縦横に変化し、ピアノとは思えないような色合いと情感が醸し出されるのです。
そうするために、初見でも楽に弾ける数小節を何度も練習されていたのが、久元さんです。ミューズに仕える人のひとりとして、尊敬を深めました。
新潟大好き ― 2008年09月11日 23時20分42秒
今回の北陸は、天候が不安定でした。驟雨が何度も降り、早朝の雷も体験。それが、滞在最終日の8日に至ってきれいに晴れ、リハーサルが始まるまでの時間を、観光に充てることができました。
まず「足ツボ屋さん」というお店でマッサージを受けましたが、本当にいいお店ですよ。上品な女性が、たしかな技術で、一生懸命やってくれます。このために新潟に行ってもいい、と思ったぐらいです。
そのあとタクシーで、北の海岸へ。日本海を隔てて佐渡を望み、大らかな気持ちになりました。護国神社、日本海タワーと見て、お寿司の昼食。少し休んでから、信濃川沿いを歩いて、コンサート会場に行きました。
信濃川は水量が豊かで、どちらに流れているか、わからないほど。その河岸が、気持ちのいい散歩道になっているのです。私は子供の頃は千曲川沿いで、少年時代は犀川の支流沿いで育ちましたので、信濃川の貫禄には、どことなく感慨を覚えます。新潟が大好きになりました。
授業、本格開始 ― 2008年09月12日 22時23分18秒
まだ休みの大学も多いことと思いますが、われわれのところでは月曜日から、授業が始まっています。私も今日から、フル稼働になりました。金曜日の午前中は、「作品研究」。今年は《フィガロの結婚》を採り上げます。
今朝ちょっと緊張していたのには、2つ理由がありました。1つは、今期から始まったTA(ティーチング・アシスタント)という制度が、私の授業にも適用されたこと。研究と演奏を選考する3人の大学院生から補助を受けられるようになり、気が引き締まります。実演も含めていきましょう。
今日は概論のあと、ウィーン時代のオペラの序曲を少しずつ紹介し、《フィガロ》の序曲から幕開けをさまざまな演出で見て終わりました。150以上の受講生というのは私の大学では最近珍しいのですが、水を打ったように静かに聞いてくれたのには、驚くやら嬉しいやら。
午後は音楽学のゼミが2つと、個人指導2人。1年生のゼミでは「本によって記述が違うのはなぜか、それにどう対処すべきか」という話をしたのですが、「通説対新説」を紹介する一例として、バッハの無伴奏ヴァイオリン曲とチェロ曲はどちらが先にできたか、という問題を採り上げました。
両方を少しずつ学生に聴いてもらい、どちらが先だと思うか、その理由はなぜか、という風に問いかけたところ、この答えられるはずもない難問にじつにみごとな判断を示した学生がいて、驚嘆。明日「たのくら」で無伴奏を採り上げますから、同じようにやってみましょう。いい滑り出しになった今期です。
休日授業 ― 2008年09月15日 23時44分30秒
今日の敬老の日、休日だった方々には、お祝い申し上げます。というのは、私の職場では祝日授業というものが始まり、今日がそれに該当していたからです。曜日のアンバランスを是正するためなので仕方ありませんが、エネルギーが何割増しになるような感じがあります。
午前中は、会議。午後は2つ授業があり、そのあと、個人指導を3人。さらにサークルに2時間付き合って、帰宅しました。サークルというのは、秋の芸術祭に《冬の旅》をグループ上演する集まりで、その歌唱指導をしているのです。みんな真剣なので、とてもやりがいがあります。
とはいえ、帰ってきたら疲れてしまい、何もできません。明日は今週でも一番たいへんな日で、授業の準備や原稿の仕上げ、プロジェクトの準備などいろいろやることがあるのですが、明日、決死的な早起きで対処することにします。お休みなさい。
誠実な取り組みの成果 ― 2008年09月17日 23時21分13秒
今月のCD選は、作業が北陸演奏旅行のちょうど前後となり、厳しい作業でした。しかしよいものも多く、最後まで候補としていたヘンゲルブロックのヘンデル/カルダーラ、イム・ドンヒョクの《ゴルトベルク変奏曲》を見送る結果になりました。
私は目立たないところいあるいいものをなるべく見逃さないようにしているつもりですが、今月はすばらしいものがあったのでご紹介します。辻裕久(テノール)、なかにしあかね(ピアノ)、海和伸子(ヴァイオリン)の3人による、ヴォーン・ウィリアムズの歌曲集(ALM)です。
2曲のイギリス民謡のあとに歌われる3つの歌曲集、《旅のうた》《牧場に沿って》《生命の家》に親しんでいる人は、おそらく少ないのではないでしょうか。私にとっても、知らない曲ばかりです。でもどれも、風格と味わいのある、じつにいい曲。そう思ってしみじみと聴き続けたのは、まちがいなく、演奏がいいからです。イギリスの自然や風土、人情がすっかり体得されるまで、よく勉強されています。訳詞しかり、解説しかり。辻、なかにしのお二人とも、留学時代から、フォーン・ウィリアムズをライフワークにされていたのですね。愛のある、誠実な取り組みに感銘しました。
これを第2位とし、1位にはアバド~ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集(DVDのCD化)を選びました。人間のあたたかさがほかほか立ちのぼるようなベートーヴェンで、スリムな室内楽志向が見えるのもベルリン・フィルとしては画期的です。
最近の読書から ― 2008年09月19日 23時42分25秒
ここしばらくの間に読んだ本で抜群に面白かったのは、日高敏隆さんという動物学の先生の書いた『動物の言い分 人間の言い分』という新書(角川oneテーマ21)です。動物の姿や行動のひそめている理由をさまざまに解き明かし、なるほど~、と、目から鱗が落ちる思いを再三経験させてくれました。
ネタの面白さに劣らず感心するのが、文章。たとえばある章は、「キリンの姿は想像を絶するものである。」と始まっています。この簡潔で要を得た表現に感心してしまい、何度も反芻。続いて、こんなに背が高く、心臓と脳の離れた動物がどうしてちゃんと生きていられるのか、という問題提起へと進むのです。勉強になりますね。
たくさんの話題の中でいちばんへえと思ったのは、上下が逆に見えるメガネをかけて暮らしてみた人の話。1週間経つと脳が覚えて、逆転していた像が正常になったそうです(!)。したがって、メガネをはずしてから倒立している像が正常になるまで、また1週間かかったとか。感覚の部位と脳は自立しているんですね。
松本も変わる ― 2008年09月21日 20時58分42秒
20日(土)は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に関する講演のために、松本へ。8年間暮らした想い出の土地ですが、列車を降りたとたんにどっちに行ったらいいのかわからず、まごついてしまいました。新駅舎が完成し、方角が変わっているのです。街も再開発が済んで、相当な変貌。路地だったところが広い道路になり、一口で言えば、クルマの走りやすい街になっています。サイトウキネンのおりなどには渋滞しますから、必要とされたのでしょう。でも昔を知る者にとっては、街の味わいが薄らいだようで、ちょっと残念です。
それにしても、ラーメン屋が多いですね。駅前の区画に、おびただしくあります。というか、これも変化で、増えているのです。そのうち1軒に入り、昼食。いろいろな意味で変わっていく松本ですが、私にとっては、思春期を過ごした町。その情感からは離れられません。
人にプレッシャーをかけるのが好きだと言われる私ですが、今回は大きなプレッシャーを感じていました。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲について1時間半話し、面白く聴いていただく自信がなかったからです。それなのに担当の方が言って下さることは、「礒山効果」(まさか)でコンサート・シリーズのチケットが売れている、「礒山さんのチケットください」と買いに来る人が何人もいる、等々(コンサートとかかわるのは講演とプログラム解説のみなのに)。かなりの準備をして最善は尽くしましたが、この程度でご勘弁いただけますか、というのが正直なところでした。
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