天才でした2012年04月30日 18時26分56秒

コンサートを増やしているためか、都内に出かけることが、むしろ多くなりました。となると、電車の中での時間をどう使うかが問題。専門書に集中するのはもうちょっと辛いので、軽く読めるいい本はないかと、本屋さんに向かいます。

厚く積んであるものとか、話題の著者とか、いろいろ試しましたが、なかなか面白いものに出会いません。手の内がわかってしまったり、退屈してしまったり。この歳になるともうあまり読む本がなくなるのかな、と思いつつ、昨日もオペラを控えて、本屋に立ち寄りました。

今まで読んだことのない著者のものをと思い、まず篠田節子さんの『仮想儀礼』(新潮文庫)を購入。どうせならもう1冊ということで、綿矢りささんの『蹴りたい背中』(河出文庫)を加えました。綿矢さんの芥川賞受賞をテレビで見たのは昨日のことのようで、美しい人だなあと思ったことを覚えていますが、世評高い小説も、いまどきの若い女性の作では世界が違いすぎるように思い、手を出す気持ちが起きなかったわけです。でもどんなものか知っておこう、という興味がふと起こりました。

薄い方、すなわち『蹴りたい背中』を、先に読み始めました。いや~、驚きましたね。冒頭からぐんぐん引きこまれて、呪縛されるように読み進め、中断することができないのです。奔放に綴られているようで力強い構成と流れがあり、繊細にして怜悧な心理描写と、凡人にはついていけない変り身の速さとがある。19歳でこれを書くわけか。天才です。

文庫化は2007年だそうですが、私の買った版は昨年5月のもので、27刷となっていました(汗)。「蹴りたい背中」ってどういう意味かな、とは、以前から思っていたのですが、わかってみると、その絶妙さを痛感します。

(たちまち読み終え、篠田さんの方に入りました。これも丁寧に書かれていて、じつに面白いです。)