車内で笑う2013年11月12日 10時18分01秒

移動時間が連日あるので、文庫本は必携。相変わらず、篠田節子を読んでいます。ただ、店頭にあるものが限られており、未読のものを入手するには、ある程度探さなくてはなりません。圧倒的な筆力の持ち主なので、もっと読まれていいのに、と思っています。

『神鳥--イビス』も迫力満点でしたが、『讃歌』には考えさせられました。なぜなら、挫折の後ひっそりと活動していた元天才弦楽器奏者が注目され、彼女を主人公にしたテレビ番組が全国的な感動を呼んで一躍スターになる、という、われわれの世界でいかにもありそうなストーリーだからです。しかし彼女がブレイクするのは、小説の、まだ始めの方。以下続くのは、一歩ずつ明らかになる、隠れた真実です。

とても面白く、参考にもなりました。ただ、全体を考察し意味づける最後のあたりは、その世界を本当に知らないと突き詰められない部分で、取材では限界があるとも思いました。

少し著者を広げなければと思い、新しい(←自分にとって)女性作家2人に照準を定めました。ひとりは佐藤愛子さんです。とりあえず『お徳用 愛子の詰め合わせ』という文春文庫を選び、読み始めました。このエッセイ集が、じつに面白いのです。

私はユーモアを好むことにおいては人後に落ちないのですが、どんなに面白いなあと思っても頭でそう思うだけで、表情は変わりません。無表情で読んでいます。ですから、テレビでタレントが手を叩きながら相互爆笑しているのを見ると、これってなんなの、と思ってしまいます。ところが、佐藤さんの本には、まだ始めの方なのに、南武線の中で思わず2回、吹きだしてしまいました。じつに上質のユーモアです。

危ないスマホ2013年11月11日 00時00分16秒

結婚式(月曜日)の翌日から、スマホが見あたらなくなりました。このところ忙しく、ゆっくり探しているひまもなかったものですから、探せば出てくるだろうと楽観し、携帯頼みで過ごしていました。

土曜日。ようやく郵便の整理などしましたが、どこを探しても、スマホがありません。この時点で、紛失が、現実味を帯びてきました。

考えてみると、パスワードもかけてないし、おサイフケータイが使えるようになっている(本人は使っていない)。もし誰かの手に渡って使われていれば、大金が請求される可能性があります。にわかに、危機感が出てきました。

指示を仰ぎに、国立駅そばのドコモ・ショップへ。さっそくストップはしてくれましたが、使われているかどうかは、わからないとのことです。5000円で保険が利くようなのですが、それには警察の遺失物証明をもらわなくてはなりません。放棄して新機種、という乱暴にも魅力を感じます。なぜなら、私の使っていたギャラクシー3はほぼ半日しかバッテリーがもたないのに、新機種には「3日もつ!」という宣伝が踊っていたからです。

遠い記憶を呼び起こしてみると、結婚式のあとは、山のような荷物と共に、タクシーで帰ってきました。車中でスマホを見た記憶があります。となると、タクシーの中に落とした、あるいは、タクシーから降りた後に路上に落とした、という可能性が大。そこでレシートを頼りに、タクシー会社に問い合わせてみました。そうしたら、ちゃんと保管されていたのですね。やれやれ。明日、新三河島の営業所まで取りに行きます。

教訓。パスワードはかける。すべり落ちないように、ケースに収める。見あたらなくなったら、すぐに探す。機種変更も、できるようにしておいた方がいいように思いました。中途半端な機種を2年間使うのは辛いです。

神経の問題2013年11月09日 08時16分45秒

秋の風物は、日生劇場のオペラ。毎年すばらしい成果を積み重ねていますが、8日(金)にはアリベルト・ライマンの《リア王》が日本初演されました。ひじょうに考えさせられる内容なので、そのことを、少しだけ。

もし批評の担当なら、総力を挙げた圧巻の公演、と書くと思います。音コン1位で話題となっていたカウンターテナーの藤木大地さん、初めて聴きましたが、これほどの逸材とは。演奏には、たくさんの賛辞を書けます。

作品も、第一級のレベルであることは明らか。しかし私は、これでもかこれでもかというどぎつさに、神経が耐えられないのです。私が弱いだけなのか、あるいは作品に、ないし作曲者の姿勢に一線を踏み越えたものがあるのか。それについては、もう少し考えてみたいと思います。「ドイツ」を、はっきりと感じます。

日生劇場に駆け込む前は、NHKで収録をしていました。シュッツの特集を、12月に出すのです。新しいCDを集めてプログラミングする過程の、楽しいこと。ラーデマンがすばらしい録音を積み重ねていて、とりわけ《クライネ・ガイストリッヒェ・コンツェルテ》に感嘆しています。ドイツもいろいろです。

凛とした私2013年11月06日 08時08分01秒

私、長い間、たくさんの人に、数限りないほど言われてきました。結婚式には泣くぞ、号泣だぞ、彼氏があらわれたら腹が立つぞ、などなど。

そのつど、きっぱり拒否してきました。私は喜びこそすれ、泣きません、と。ちなみに、最初に「彼」と食事をしたときには、ああ、いい人でよかったな、と思い、「かわいがりすぎてわがままになってしまいました。ごめんなさい」と言いました。

で、次女の渓子の結婚式が、4日につつがなく行われました。ご案内のところに書いたのでびっくりされた方がいらっしゃるようで、申し訳ありません。軽く予告したのは、上記のように私を見ておられる方々に、結果をもって反論しようと思っていたからです。私はいかに溺愛しようと、娘の結婚式に涙を流すような男ではありませんよ、と。

結果。まったく涙を流しませんでした。やっぱり、自分を一番よく知っているのは自分です!祝福あるのみ。小さい頃は双子の同時結婚式もいいな、と思っていましたが、なりませんでした。しかしもう一度可能性があります。絶対に早くあって欲しいと、思っております。

え、納得できない話だ、とおっしゃるのですか?涙が抑制された理由がひとつあるとすれば、それは式が、今はやりの「人前結婚式」だったからかもしれません。やはり冠婚葬祭には、どの宗教でもいいから、神様が必要だと思っています。人間たちが証人になれば誓いが誓いになるほど、人間は偉くありません。

今月の「古楽の楽しみ」2013年11月01日 23時32分08秒

今月は、ライプツィヒのコーヒー店におけるコレギウム・ムジクムのコンサートを覗く、という構想で、「いかにもありそうな」プログラムを空想してみました。資料から実証される曲目はごくわずかですが、冒頭に管弦楽組曲が置かれ、メインのコンチェルトが使われたのは、確かなよう。この2つを骨格にして、前後を彩ったであろう室内楽やソロを、時間の枠内で配するという器楽プログラムです。調性も、なるべく揃えました。

4日(月)は、テレマン(コレギウム・ムジクムの創始者です)のホ長調組曲(演奏:デメイイェール)と、ピゼンデルのホ短調コンチェルト(フィオリ・ムジカーリ)、バッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第3番ホ長調(マンゼ/エガー)、そしてテレマンの《スケルツォ》ホ長調から(ブリュッヘン、クイケン、ビルスマ、レオンハルト)。

5日(火)は、グラウプナーの管弦楽組曲ニ長調(マックス)と、バッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調(カフェ・ツィンマーマン)、ヘンデルのトリオ・ソナタニ長調 op.5-2(レコール・ドルフェ)。

6日(水)はバッハの管弦楽組曲第2番ロ短調(サヴァール)、テレマンの協奏曲ニ長調(ピノック)、フリーデマン・バッハのトリオ・ソナタニ長調(アンサンブル・サン・スーシ)。

7日(木)は、ファッシュの管弦楽組曲ト短調(ピノック)、ピゼンデルの教会風コンチェルトト短調(フライブルク・バロック・オーケストラ)、バッハのチェンバロ・ソロ用協奏曲2曲(バルキ、ボーモン)です。

どの日も、くつろいで聴いていただけると思います。バッハの管弦楽組曲第2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲は定番中の定番ですが、私が番組で取り上げるのは初めてです(=切り札として温存していた)。どうぞお楽しみください。

魂の躍動2013年11月01日 11時39分41秒

皆さん、ダヴィデヒデさん、日本シリーズ、見ておられますか?レギュラー・シーズンでも、CSでも、アンチ巨人を爽やかに貫いてきた私ですが、巨人が日本シリーズに進出したのは、実力であり、顔ぶれであり、財力ですから仕方がない。おかげで、日本シリーズを楽しませていただいています。

巨人の大選手たち、高額年俸選手たち、FA選手たち、ドラフト拒否選手たちの間を縫って、楽天の若い選手たちが、言うところ「魂」を込めて走り回るのは、心を洗われるような見物です。『魂のエヴァンゲリスト』などという本を書いている「魂」つながりかもしれません。

昨夜は幸い自宅で観戦できましたので、9回、10回の攻防には感動。涙が止まりませんでした。私はいままで星野監督をあまり好きではなかったのですが、最近、選手を信頼して使う監督のようだな、と思うに至っていました。びっくりしたのは10回の表、当然代打だと思っていたら、9回に追いつかれていた則本が、そのまま打席に向かったことです。

4回戦でもわかるように、序盤でリードして追加点が取れないでいるうち、巨大戦力の巨人が追いかけてくるという展開は、危険大です。9回裏はまさに巨人に波が来ていたので、いったんはサヨナラを覚悟しました。ところが、それをはねのけて延長戦。これでもし勝ったらすごいな、と思っていたところです。

一番からの打順が控えるところでピッチャーを打たせ、一死を与えることはまずいんじゃないか、と思うと同時に、そこまで則本を信頼しているんだなあ、と、傍目にも伝わってくるものがあり、もしかしたら打つのではないか、という期待感が出てきました。そうしたら、西村が妙に縮こまって、四球。後はご承知の通りです。最後は則本のすばらしい投球と外野のファインプレーで、決まりました。

終了後は、ワインを飲みながらスポーツニュースをはしご。第6戦(ともしかしたら第7戦)は見られませんが、いい日本シリーズでした。

11月のイベント2013年10月31日 08時48分36秒

標記、ご案内します。今月はあまり多くありません。

2日(土)、3日(日)と、慶応大学三田キャンパスで日本音楽学会の全国大会があります。プログラムは学会のホームページをご覧ください。若い人たちがどんどん出てきているなあ、という印象です。公開ですので、当日参加が可能です。会長を退き、今年は気が楽です。

その二日目を、まつもとバッハの会とダブルブッキングしてしまいました。学会の方々、申し訳ありません。松本は松本深志高校教育会館で14:00~16:30、《ロ短調ミサ曲》シリーズの〈ニカイア信条〉篇です。

ちらりとプライベートなことをはさみますと、4日(月)に、娘の結婚式があります。

6日(水)、20日(水)は朝日カルチャーセンター新宿校の日。10:00~12:00が《ニーベルングの指環》の講座で、《ラインの黄金》の継続。論題は6日が「文明の悪の目覚め――鋳造された指環とその音楽」、20日が「ふくらむ物欲、権力欲――神話に投影されたパリ」です。13:00~15:00の《ヨハネ受難曲》講座は少し早く進行中なので、6日に最初の聖書場面(「私である」)、20日に2つのコラールを取り上げることになると思います。

16日(土)は立川楽しいクラシックの会の、ワーグナー・プロジェクト。《神々の黄昏》に入り、とりあえずその序幕です。今回は私の都合で30分繰り上がり、9:30~11:30となります。立川市錦町学習館です。今月は《ジークフリート》を取り上げ、ぐっと盛り上がってきたところです。

23日(土)、29日(金)、30日(土)と、朝日カルチャーセンター横浜校に出講します。23日が「エヴァンゲリスト」講座で、テーマはバッハのカノンです。「カノンと数象徴」と題しましたが、幅広い角度から考察します。

13:00~15:00。29日は特別企画で、「音楽の都/芸術の都ウィーン」と題してお話します。10:30~12:00。30日は、2日の代講。「超入門講座」です。今月はベートーヴェンの《エリーゼのために》を鑑賞し、ロンド形式について学んでゆきます。

以上、よろしくお願いします。

今月のCD2013年10月29日 23時45分49秒

今月は、ドビュッシーの交響詩《海》と、最近楽譜が発見されたという管弦楽組曲第1番のカップリングを選んでみました。フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮、レ・シエクルの演奏です(ACTES SUD 3,000円)。

これ、ドビュッシーの《海》を1905年初演時の響きで蘇らせたものだそうです。なんともチャレンジング。当時の楽器を使用し、パリ音楽院の伝える奏法を遵守した響きは一見渋いですが、「個性あるパーツが繊細な綾をなして作り上げる有機的な音像からは、えもいわれぬ色彩が発見されて」(新聞)面白いです。管弦楽組曲もいいですね。温かく美しい音楽です。

選び仲間の西原稔さんは、アシュケナージを中心としたラフマニノフの《悲しみの三重奏曲》を挙げておられました。たしかに演奏はとてもいいので、憂愁の調べであれば時間を忘れて聴いていたい、という方にはお薦めです。メリハリを求める方には、ちょっと違うかも。

トリフォノフ、ラシュコフスキー、ブレハッチという人たちの新譜を聴き、いま若い男性ピアニストが台頭しつつあるという印象をもちました。とくにブレハッチの弾くショパン《ポロネーズ集》(グラモフォン)は、知情意のバランスの取れた、好ましい演奏だと思います。

和楽器と古楽器のコラボ2013年10月27日 01時36分27秒

今日は津田ホールで、和楽器と古楽器で編成された「アンサンブル室町」のコンサートを聴きましたが、たいへん感心しました。輪郭だけお伝えします。

「東方綺譚」というタイトルがついていたのは、マルグリット・ユルスナールのオリエントを舞台とする小説集をテーマとした、フランスと日本、2曲ずつの委嘱新作でプログラムが組まれていたから。ユルスナールについては、私が関係している藝術関連学会連合(藝関連)のシンポジウムで、研究発表を聴いていたというご縁がありました。

岩切正一郎さんによるプレトークが、しっかりした内容と感じのよいプレゼンテーションで、勉強しつつコンサートへの期待を高めるという、よき導入になりました。私、自分がプレトークを担当することがあり、いつも苦心しているものですから、プレトークがいいと本当に嬉しくなります。でも、軽んじていい加減にやられることも時折経験するのが、プレトークです。やる以上は、密度濃い時間にしてほしいですね。指揮者が自らマイクを握り、作品に対する無知を露呈したりしたら、それでコンサートは終わりなのですから。

企画がこのようにしっかりしているので、新作にもとてもよいものが含まれ、ハエ=スン・カンさんのヴァイオリン・ソロ以下、演奏も卓抜でした。行って良かった。注目したいと思います。

練習は嘘をつかない2013年10月25日 13時50分11秒

マレイ・ペライアのすばらしいコンサート(批評を出します)から帰り、プロ野球ドラフトの結果を知りました。ドラフトで一番大事なことは巨人がいい選手をとれないことだと思っていますので、パ・リーグにたくさんいい選手が入り、広島にもいい選手が入った今年は、大満足です。

でも一位が活躍するとはかぎりませんよね。ヤクルトの小川も楽天の則本も、二位の成功例です。伸びる、頭角を現すというのは、どんな条件によるのか。人との出会いとか故障など運の要素も多分にあるでしょうが、それも込みで、その人のやり方と考えるべきではないかと思います。

定年になってから、若い人の勉強の仕方などを、以前より広い立場で見るようになりました。研究の場合でしたら間違いなく言えるのは、たくさん勉強した人が勝つ、という法則です。野球で「練習は嘘をつかない」というのと同じでしょうか。

勉強の量はかける時間と相関しますが、短い時間にたくさん勉強できる人は、掛け算で量が増えていきます。それは能力だとも言えますが、その前に、集中力と考えるべきでしょう。集中力は、意志や責任感とかかわり、対象への意欲とかかわります。面白いと思えることをやっていれば、意欲は大きく高まるわけです。

卒論・修論を必ず成功させる秘訣は読む人に「よく勉強した」と思わせることだ、といつも申し上げていますが、それは上記のような意味で、勉強の量とかかわります。量を増やす、いろいろな方法があることでしょう。