ダニエル・ロト、空前の《大フーガ》2014年07月05日 23時47分07秒

更新が遅れました。木曜日の夜大阪入り。金曜日10時からの、ロトさんのリハーサルに備えるためです。今回のオルガン・シリーズの中では知名度的にも上の方なので期待していましたが、リハーサルを聴き、これはモノが違うぞ、という感じがひしひし。バッハのポリフォニーがすみずみまで明晰に、確信をもって表現され、曲ごとの存在感が、ただごとではないのです。「フランス人のバッハ」どころではない、本質への肉薄です。

誠実な方で、前日はレジストレーション(音決め)に終日、時間を費やされたとか。今回は、後半の枕に置かれるオルガニストへのインタビュー内容を前もって予告しておこうと考え、そんな苦労話を後ほど伺いましょう、と申し上げて、コンサートが始まりました。

バッハ最初期の《ノイマイスター・コラール集》の曲たちが目が覚めるほど立派に響き、初期作品《レグレンツィの主題によるフーガ》が信じられないほと壮麗に盛り上がって、前半が終了。さあ、危険がいっぱいの、インタビュー・コーナーです。

ロトさんのご厚意でドイツ語でやらせていただいたインタビュー。バッハの調性への取り組みとか、最後を飾る《大フーガ》BWV542の現代音楽そこのけの内容とかに話が向かいました。正直に申しますと、私はこの日とても集中力があり、細部に至るまですべて、克明に通訳できたのです。やっていて、よしっ、という気持ちになりました。

これが悪魔のいざない、落とし穴でした。ひとしきり通訳が終わったときに頭が真っ白になり、次の話題が、すべて飛んでしまったのです。こんな話をお聞きします、とこの日に限って前振りしていましたので、お客様には、本当に申し訳ないことをしました(汗)。

前半は通して演奏されましたが、プログラムの配列から考えて、途中で拍手を入れた方がいいように思いました。ロトさんは、どちらでもお好きなように、とおっしゃいます。そこで、トリオ・ソナタ(第2番ハ短調)の前後で拍手を入れていただくよう、お客様にお願いしました。結果として、トリオ・ソナタを、新鮮な気持ちで聴くことができました。リハーサルではやや重かったトリオ・ソナタが、本番ではとても滑らかになり、私の好きな第3楽章には、なんと美しい音楽だろうと、感動をもって耳を傾けました。

その後3曲コラールがあり、エンディングの《大フーガ》になります。そこまで通して、といったんお客様に申し上げたのですが、聴きながら、これは切るべきではないか、と思い始めました。仕切り直しをしてから《大フーガ》と向かい合うべきだ、と思われたからです。

でも一度言ってしまったし、どなたかコラールの後で拍手してくださるといいが、と思っていたら、ありがたいことに、拍手が出たのですね。これはお客様の殊勲。どうやらtaiseiさんだったようです(笑)。

超名曲、ト短調の《大フーガ》は、楽曲への深い理解とエネルギーにあふれた、空前の名演奏でした。これだけのコンサートを一生のうちになかなか聴けないのではないか、と思いつつ私が思い起こしていたのは、恩師、柴田南雄先生が私に語ってくださった言葉。それは、演奏の価値を決めるのは「音楽と向かい合っている人間の大きさだ」というものでした。

終了後、ロトさんに涙ながらに抱きついてしまい、たちまち親友に(笑)。応援してくださった方たちと、ビールを飲みました。その席で「指揮はなさらないのですか」と訊いたところ、「私はやらないが、息子がやっている。フランソワ=クサヴィエ・ロトという名前だ」とのこと。「エー っ!」と驚きましたね。このブログでも紹介したすばらしい指揮者、新譜がことごとく面白く、私が一番楽しみにしている指揮者が、なんと息子さんだったとは。

「ロート」とご案内していましたが、「ロト」と修正いたしました。はっきりそう発音しておられましたので。