松本清張 ― 2008年02月24日 22時35分50秒
推理小説が好きで、しばしば現実とミステリーを混同します。けっして幅広く読んできたとは言えませんが、絶対これ、と思うのは松本清張。長編はすでにほとんど読んでしまい、短編に読み残しがある程度です。歴史物は、何となく波長が合わず、ほとんど読んでおりません。
作家多しといえども、清張が群を抜いているのは、人間の悪意への洞察です。そしてそれを容赦なく文章にする徹底性、勇気。悪意を描くというのは、いい子になろうとする人には、絶対にできないことだからです。
清張は社会派とされ、社会の悪を描くところに本質があったかのように言われていますが、私は、個人の悪を描くことにこそ、彼の本領があったと思う。もちろん、それは社会の悪とつながり、混じり合って描かれるわけですが。悪いのは個人ではなくて社会だ、というような人権主義(?)は、清張にはないように思います。
その意味では、最初に犯人が登場し、だんだん犯罪が露呈して追い詰められていく、というタイプ(倒叙もの)の方が、未知の犯人を推理していくタイプより、ずっと面白い(と思う)。犯罪者の心理描写が中心に置かれるからです。悪意の変遷が追跡されれば、最後に犯罪を犯す、という形でもいい。主人公が大学教授ともなると、もう最高です(笑)。
というわけで私が推薦するのは、長編なら『落差』『黒い福音』『わるいやつら』。短編なら『カルネアデスの舟板』あたりかな。でも、学者、評論家、学会は、悲しいぐらい、ほとんど悪役です。ほんとは、そんなに悪い人ばかりじゃないんだけど(笑)。
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