桜つぼみ2008年04月23日 21時38分05秒

「4月のイベント」(3)でご紹介した「童謡、この尊きもの!」のコンサートが、無事終わりました。楽しみな度合いも、緊張する度合いもいつもより大きかった私ですが、それはこのコンサートが、私の期待する新進作曲家、加藤昌則さんのいずみホール・デビューにあたっていたからです。

で、私は彼に、どういう出番を用意したか。それは、コンサートを締める役割です。大正中期(運動勃興期)の童謡、大正後期(運動全盛期)の童謡、昭和初期(レコードの普及による変質期)の童謡を並べた前半が終わり、童謡運動の精神に根ざす山田耕筰の名曲が7曲演奏されたあとに、加藤さんの新作3曲が披露される、という風に配列しました。これって、やる側にはとてもプレッシャーがかかると思われませんか?

それまでの曲はみな、お客様の血となり肉となっているなつかしの作品。そのあとに、誰も知らないできたばかりの曲を聴いて、どこまで楽しめるものでしょうか。山田耕筰の直後ともなれば、なおさらです。でも、今の若い作曲家に、忘れられた童謡の精神と最後に向き合ってもらうという構想が捨てがたく、それをなしうるのは加藤さんだというのが、私のこだわりでした。

山田耕筰の芸術性はさすがに桁違いで、松田昌恵、畑儀文、花岡千春お三方の演奏にも一段と熱が入ってきます。それを受けた最後のコーナーが失敗したのでは、コンサート全体が崩れてしまう。司会者としても、細心の注意を払って進行させなくてはなりません。

私は加藤さんをステージに呼び、3つの新作の発想や狙いなどを伺いながら、曲を紹介することにしました。最初の2曲は、大正11年の『金の星』(『金の船』が改題)に載っている詩(若山牧水の「浮坊主」と人見東明の「楡の花」)に付曲したもので、いわば初期の童謡精神との、直接対決。腕白な男の子をユーモラスに扱った前者、亡き母の星と対話する女の子を情緒豊かに描いた後者の詩を私が朗読し、加藤さんの作曲を聴きました。

しかし童謡の精神を本当に自分のものとするためには、やはり新しい詩が必要だというのが、加藤さんの結論でした。そこで作られたのが、バリトン歌手宮本益光さんの詩による「桜つぼみ」全4節です。これは、ソプラノとテノールのお二人で歌われました。

ト長調、8分の6拍子の、流れるような調べ。子供でもすぐ覚えられるほどの、平易なメロディ。でもそれが何とも大らかで、洒落ていて、心温まるのです。春の風の呼びかけで桜のつぼみがふくらみ、目覚めるまでが、風とつぼみの対話もまじえて、のどかに綴られている。会場の方々も一体になってこの歌を楽しまれ、コンサートは暖かい盛り上がりのうちに終わりました。良かった!

音楽は結局心だなあ、と思って幸福になっていた私ですが、きっと私はそのとき、童謡の精神のすぐそばにいたのだろうと思います。