身振りの術 ― 2008年10月19日 23時56分04秒
今日は「三善晃作品展」の2日目のために、オペラシティに足を運びました。三善先生の生誕75年を兼ねたこのイベント、この日は合唱曲特集で、演奏担当は栗山文昭指揮の栗友会諸合唱団でした。
合唱コンクールによく出かける私ですが、三善先生の作品のすばらしさは桁違い、とかねがね思ってきました。その思いで結ばれた合唱人が、本当に、たくさんいるのですね。コンサートはそうした人たちが結集して先生に思いを届ける場となり、どのステージも、いくつもの合唱団が相乗り。最後は500人ほど(?)の壮大なコーラスが、会場をゆるがせました。
繊細、鋭利を特色とする三善作品にとって、相乗り方式は必ずしもプラスだけではなかったと思いますが、音楽を介して広がる人の輪の実感は、この上なく強いコンサートでした。先生には、ぜひお元気でご活躍いただきたいと思います。(先生はたいへんな料理通だそうですが、軽井沢の中華料理店で、偶然ご一緒したことがあります。)
ところで、合唱のステージを見るとき、皆さんは、どこをご覧になりますか。今日わかったのは、内容と一体になって歌っている人に、眼が吸い寄せられるということです。必ずしも、美貌の女性ばかりを見るわけではない。今日の歌はすべて日本語なのであまり違いは目立ちませんでしたが、外国語の歌だと、内容を理解して表現している人と、外目にそれがわからない人とでは、大きな違いがあります。逆に言えば、内容への共感を身振りで示すことも、演奏家の大切な技術だということです。マッテゾン(18世紀)はそれを、「身振りの術」と呼んでいます。
極美の《コシ・ファン・トゥッテ》 ― 2008年10月22日 00時11分44秒
今日は大学を早じまいして、エクソンモービル音楽賞の授賞式へ。邦楽部門の今藤政太郎先生、洋楽部門奨励賞の幸田浩子さんから、招待をいただいていました。挨拶した幸田さんが頭を下げたらマイクにぶつかってしまい、アイタタとなったのが、絶妙のボケでした。〈ホフマン物語〉のアリア、じつにみごと。お二人とも、おめでとうございます。
申し訳ないながらコンサートを中座して、ウィーン国立歌劇場の初日公演へ。ムーティの驚嘆すべき円熟の指揮ですばらしい《コシ・ファン・トゥッテ》となり、大いに感動しました。バーバラ・フリットリ以下の超弩級のキャストが誰も抜け駆けせず、オーケストラと細やかなアンサンブルを織りなして、美しいモーツァルトを奏でているのです。明日起きてから、腕によりを掛けて批評を書きます。帰宅が12時を過ぎ、更新が1日遅れになってしまいました。
全国大会迫る ― 2008年10月23日 21時18分06秒
日本音楽学会の全国大会が、目前に迫ってきました。この土曜日、日曜日に国立音楽大学を場として、たくさんの研究発表やパネル・ディスカッションが行われます。ここしばらくスタッフの先生たちが、連日走り回って準備してくださいました。非会員でも、学生には1000円で聴ける特典を用意してあります。ぜひ覗いてみてください。
総会、懇親会に会長としての責務があるのを除けば、私の出番は最後、日曜日の14:55から2時間かけて行われるラウンド・テーブル「J.S.バッハとC.P.E.バッハ~伝承と創造的受容をめぐって」です。久保田慶一、小林義武、富田庸の3先生からもうしっかりした原稿をいただいてありますので、コーディネーターとしては気が楽。たしかに大役なのですが、日本語ですから大丈夫です(笑)。
3先生の発題要旨は学会のサイトにもあります。パネリストの議論は、富田先生が最近調査された無伴奏ヴァイオリン曲の「ウィーン筆写譜」をめぐって、父の楽譜の伝承段階における兄弟間の交渉について、晩年のバッハとエマーヌエルのかかわりについて、エマーヌエルの父作品改編の意義について、パスティッチョにおける父の作品の使用に創造性を認めうるか否かについて、などに絞り込みました。ガチンコでやりたいと思いますのでご期待ください。
少し高いワイン ― 2008年10月26日 21時43分40秒
日本音楽学会の全国大会、無事終了しました。とてもなごやかな学会だったと思いますが、いかがでしょう。ほっとして、ああ疲れた、と感じています。でも、もっとほっとし、もっと疲れた方がたくさんいらっしゃるはず。多くの方に支えていただき、最高責任者の職責を全うできました。
私がやったのは、金曜日夜の全国役員会の主宰、開会挨拶、総会の主宰、懇親会での挨拶、最後のラウンドテーブル「J.S.バッハとC.P.E.バッハ」の司会でした。ラウンドテーブルはパネリストにエースを揃えていましたので、世界の先端に立つ「息詰まる討論」(フロアより)の舵取りをするだけて済みました。その前、ワーグナーのランドテーブルもすごかったですね。三宅幸夫さん率いる日本ワーグナー協会の水準をまざまざと見せつけられる思いで、とくに、若手を前面に据えた構成には感心しました。たくさんの発表やラウンドテーブルが並行していましたので、一部しか出席できず、申し訳ありません。
少し高いワインを1本だけ買ってきました。これから飲みます(笑)。
富田さん講演! ― 2008年10月27日 23時34分15秒
最近は、疲れが遅れて出てきます。月曜、火曜と授業がありますが、問題は火曜日だと、先週の段階から思っていました。「音楽美学概論」という授業があり、そこで音楽と感情の関係について、新しい形で講義しようと思っていたからです。疲れが残ってやる気が出ないと困るな、と気にしていましたが、まあまあなんとか、準備を進めました。まだ完成しておらず、残りは明日、起きてからです。
明日の夕方、バッハ研究所で、富田庸さんが講演されます。「バッハの自筆譜からわれわれは何を学べるか。演奏者と研究者の永遠の課題」と題して、《平均律クラヴィーア曲集》第1巻を題材にお話ししていただきます。
富田さん、バッハの資料を求めて世界を飛び回り、種々の研究プロジェクトを立ち上げ、というように、きわめて精力的な活動を続けておられます。その結果は明らかで、お会いするごとに成長され、学者としての貫禄を身につけてこられました。無料でお話を聞けるのはめったにないチャンスですので、ぜひお出かけ下さい。18時から、国立音大六号館です。《平均律クラヴィーア曲集》の楽譜をお持ちの方は、持参されると役に立つと思います。
日本流 ― 2008年10月29日 23時04分35秒
昨夜の富田庸さんの講演を聴かれた方は、至福の印象を抱かれたことでしょう。資料、とりわけ自筆譜研究の深さ、すばらしさ、そして恐ろしさを、参加の方々に、また私にも実感させて下さった2時間でした。
その富田さん、もうイギリスが長くなられましたので、日本の学生の性質に戸惑われたご様子。どんどん問いかけ、考えさせ、質問させ、意見を言わせ、という流儀でなさるのですが、学生の方は引いてしまい、最初は、誰も発言しない。当てられても黙っている(笑)。偉い先生だという刷り込みがあったのでよけいそうだったのでしょうが、ご本人は、やさしい、癒し系の方です。
でもこれ、日本流もありだと思いますよ。私自身、どんどん問いかけられたり手を挙げさせられたりするのはいやで、静かに聞き、考えたい。ですから授業でもめったに、対話方式は採りません。それが最良とは申しませんが、日本人のメンタリティに合っている以上は、悪いとも思えないのです。この日は皆さん徐々に積極的になられ、最終的には、それなりに活発なディスカッションが生まれました。やればできる、ということですね。
数日、充実した専門の勉強が続きました。今日は疲れて、完全休養。出かけるべきコンサートもあったのですが、お許しください。
冬の旅 ― 2008年10月30日 23時48分28秒
学生たちが、《冬の旅》を芸術祭で合同演奏したい、という企画をもってきました。声楽の4年生と、学部・大学院のピアノ科の学生計8人で、《冬の旅》を分担演奏したいというのです。とりあえず指導は引き受けましたが、果たしてどういうものになるか、半信半疑でした。
数回に分けて指導しましたが、8人の意欲がすばらしい。演奏的にはもちろん未熟なところも足りないところもあります。しかしこれなら、と私も本気になりました。今日はそのゲネプロでしたが、まあ聴いていただいていい水準には来たかな、と思います。とくにピアノは、かなりのものです。
というわけで、11月2日(日)、16:30から国立音楽大学SPC-Bでコンサートを開きますので、よろしくお願いします。《冬の旅》は梅津時比古さん、三宅幸夫さんの良書もありますが、私も練習を通じていろいろな発見をし、この作品のすばらしさをかなり理解できるようになりました。これからは、この作品に入れ込んで生きていけそうです。
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