ねじり合い2013年08月19日 10時39分01秒

「先生、よく一回で覚えられましたね」という声が、背後のダヴィデヒデさんからかかりました。場所は、韮崎市(山梨県)の文化ホール。楽屋から、合唱コンクールの審査員席に向かう途中のことでした。

私の弱点は、方向音痴であること。ホール内の移動はたいてい迷路のようなルートになり、いつもご迷惑をおかけするものですから、この日は、意識的に覚えようとしました。幸いなことに、いつになく容易なルートでした。報われた思いでとても嬉しくなった私は、「今日は覚えたんですよ!」と答えました。

しかし、答えている最中に早くも気がつきましたね。ほめられているとは限らない、ということに。「よく一回で覚えられましたね」の前に「方向音痴なのに」とか「お歳なのに」とかを補うと、意味合いは180度異なってきます。しかも言葉を発したのが、ダヴィデヒデさん。この方は、読心術にたけ、話術は当意即妙、切り返しは天才的、という、じつに「手ごわい」方なのです。コインロッカーのような事件を、いつも楽しみにしてくださっています。

コメントをお読みの方はご承知だと思いますが、ヒデさんは大の、いや特大の巨人ファン。審査員室ではさっそく野球の話になりました。よりによってこの時節に鼻付き合わせなくても、と慨嘆する私に、ダヴィデヒデさんは、どんどん野球の話題を振ってきます。若い人の知らない言葉を使えば、「嵩にかかる」という形です。

驚いたことに、表彰式の講評でも、「審査委員長の礒山先生はアンチ巨人」とおっしゃるではありませんか。私はよほど、「嵩にかかることは人間として慎みましょうね」と客席に呼びかけようかと思いましたが、やはり合唱の話をしなければと思い、ぐっとその言葉を呑み込みました。時節柄、がまんするほかはありません。

平素は携帯の「モバイル・ジャイアンツ」で、試合の経過を確認します。現場では確認するゆとりがありませんでしたが、後でわかったのは、まさにそんな話をしている間に、菅野が中日打線にめった打ちに遭い、巨人が完敗したことでした。しっかり確認し、講評のさいに試合経過を報告しておくべきだったと、つくづく後悔しました。案外、武運の分かれ道は山梨県にあったのかもしれません。

(山梨の合唱連盟の方々、お世話になりました。いいコンクールでした。)