ベテランの鬼手2015年05月25日 21時33分52秒

勝負事に厳しさはつきものですが、将棋の厳しさは、格別。理系的な頭脳を要求されますので、年齢による力の衰えが速いのです。ある程度の歳になると、若い棋士に、いいように負かされるようになる。対面して長時間対局するわけなので、これは辛いことだろうと思います。一時代を築いた有名な棋士も、一番下のクラス(C2)に落ち、連戦連敗になってしまうのがこの世界です。

昨日の日曜日、NHKの将棋トーナメントの対局は、それを絵に描いたような組み合わせでした。方や「貴公子」と呼ばれ、日の出の勢いの若手、佐々木勇気五段。後手をもって対するのは、歳の差30近いベテラン、藤原直哉七段。失礼ながら事実を記せば、C2に徳俵で踏みとどまっている年長者です。

冒頭のインタビューでは、「ベストフォーを目指します」と高らかにおっしゃる佐々木五段に対し、藤原七段は、「予選を勝ち抜けるとは思っていませんでした」と。少し将棋を知っている人であれば、やっぱりそうか、勝敗は見えている、と思ったことでしょう。私も、藤原さんにがんばって欲しいが無理だろうなあ、と思って観戦しました。

すると、藤原七段が隙のない差し回しで、優位を築くではありませんか。でも、終盤戦で若手の力が生きますから、どこかで逆転されることがほとんど。そういう対局を、ずいぶん見てきました。

ところが、挽回されてきたようにも見えた大詰めで、解説者もまったく想像していなかった、すばらしい手が出たのですね。龍(飛車が成った最強の駒)を玉のそばにタダ捨てする鬼手です。取ればアウト、取らなくてもアウト。佐々木五段がすぐに投了し、藤原七段の快勝になりました。ガッツポーズといきたいところですが、終わってもじっと瞑想し、喜びを示さないのが、この世界です。

私は涙が出るほど感動してしまい、今日もまだ、その余韻が残っています。こういう会心譜がテレビ放映されるなんて、棋士の勲章ですよね。藤原さん、これからもがんばってください。

コメント

_ Figaro ― 2015年05月26日 09時40分14秒

私もあの最後の“奇手”にはびっくりしました。凄い手があるものですね。ただ、先生とは若干、違う見方をしています。あれは解説・福崎文吾九段(曲者)のファインプレーだったと思います。つまりこういうことです。あの手は、プロならば比較的容易にみつかる、いわば当然の手のはず。福崎氏も早くから気づいていましたがそれをおくびにも出さず、視聴者のために、あっと驚くシチュエーションを用意していたのだと思います。

_ I招聘教授 ― 2015年05月26日 23時24分37秒

Figaroさん、将棋にお強いのですね。当然の手だとお思いですか。いろいろサイトを見たのですが、驚いた、という意見が目立ちましたが・・。 しかしもしそれが福崎さんのファインプレーだったとすると、藤原七段への絶大なエールになりますね。

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