またすごい人が・・・2016年01月19日 13時13分27秒

16日(土)はいずみホールのバッハ・オルガン作品全曲演奏会。「美しきかな、コラール」と銘打った今回登場されたのは、アメリカを中心に活動されているドイツ人、ヴォルフガング・リュープザームさんでした(いろいろに発音されていますが、ご本人に伺ったところ、リューは短く伸ばし、ザーは長く伸ばすのがいい、とのことです)。

ずいぶん昔からレコードで名前を知っていましたが、これまでは接点がありませんでした。リハーサルに、蝶ネクタイの正装で登場されたのにまずびっくり。蝶ネクタイは肌身離さずのようで、本番には赤のシャツに蝶ネクタイ(!)で臨まれました。

とはいえ、奔放な方ではありません。このシリーズでは後半の始めにご本人にステージ・インタビューをする習わしになっているのですが(それを楽しみにされる方も多いようです)、リュープザームさんは、演奏に集中したいからとおっしゃって、インタビューを辞退されました。楽しみにされていたお客様、申し訳ありません。初来日で、かなり神経を使っておられたようなのです。

しかし演奏は、強靱そのものでした。聴衆からすればなじみのない曲の並んだプログラムなのに、リハーサルは楽譜を見ることなく、縦横に進められてゆきます。オルガンを歌わせることが肝要だとおっしゃる通り、ポリフォニーの諸声部が磨き上げられていて、完成度が高い。克明な造形の中から、主旋律が思わぬ響きで浮かび上がってきます。自由曲で掛留の和音がオルガノ・プレーノで連ねられてゆくところの威容は並びなく、圧倒されました。

終了後は、万雷の拍手。スタンディング・オーベーションをされたお客様がおられたのは、オルガンのシリーズでは珍しいことです。楽屋に駆けつけてみると、なんと安堵の涙を流されている。思わず抱き合ってしまいました。「当日は私にとって特別な体験となりました。楽器によって『語る』という、いつもはなかなかむずかしいことができたからです」というのは、後でいただいたメール。ちなみに私と同い年だそうです。

これほどの人が初来日とは、と思って尋ねてみると、自分はマネージャーもいないし、呼んでくれる人もいないので、と寂しそうなお返事。こういう方を推薦してくださったヴォルフ先生(←本シリーズ音楽監督)の慧眼を、あらためて感じさせられた次第です。