見事な訳業2009年01月12日 21時44分47秒

大学時代からの親友、篠田勝英さん(白百合女子大教授)が、ミシェル・パストゥロー著『ヨーロッパ中世象徴史』という訳本を出しました(白水社)。中世の古典『薔薇物語』を継承する見事な訳業で、専門的な研究者のみのなしうる良心的なお仕事です。

タイトルからすると解釈学かなと思って読み始めたのですが、ベースになっているのは、実証性を重んじた歴史学です。認識の枠組みを変えるような問題提起が次々となされていて、読者の時代を見る視点が次々と広がり、豊かになってゆく。とくに、色彩が中世においてどのような意味をもっていたかの考察は卓抜であると思いました。他に動物、木や花、紋章やチェス、種々の図像に関する考察が展開されています。

哲学、神学、文学、絵画その他種々の領域を踏まえて展開される碩学の研究を翻訳することは、さぞ時間と労力を費やすことでしょう。それを的確に行って後に残してゆく作業こそ、研究者の本分であると思います。やさしい本ではありませんが、読み進めるにつれて友人への敬意に満たされる喜びがありました。