奥ゆかしい歴史書2009年07月01日 23時11分51秒

大学の図書館長をやめて何年か経ちますが、図書館がその後とみに向上しつつあるように思えてなりません。なぜかと考えると、私と、現館長である佐藤真一先生の人品の差に由来するようです。佐藤先生の誠実で奥ゆかしいお人柄は「会ったことのない人にはわからない」性質のもので、お会いするたびに、私は自分が恥ずかしくなります。なにしろ私が本を差し上げると、いつでも丁寧に読み、自筆で感想を綴ってくださるのです。何事にも丁寧に対応されているご様子なので、ご自身の研究の時間がなくなってしまうのではないか、と余計な心配をするほどでした。

でもさすがは先生、研究にもけっして手抜きをしておられないのですね。今回知泉書館から、『ヨーロッパ史学史--探究の軌跡』という本を出版されました。

この本では、古代ギリシアから20世紀に至る「歴史学の歴史」が展望されています。ヘロドトスから始めて、マキアべッリ、ヴォルテールといった人々がいかなる観点からどんな歴史記述を行ったかが、著者の生涯や主要著作の内容を丁寧におさえながら、たどられてゆきます。先生らしい誠実で折り目正しい文章で綴られていますが、そこから、真理探究の喜びがにじみ出てくるのです。

私自身はルカの救済史や宗教改革/反改革をめぐる記述を興味深く読みました。この本は、重要な歴史書の内容を鳥瞰する目的に使うこともできそうです。たとえば古来の名著だが私の読んだことのないアウグスティヌスの『神の国』について、ああなるほど、こういうことがこういう風に書いてあるのか、と勉強することができました。

静岡から新横浜への車中で読了した私は、無性に歴史書が読みたくなり、新横浜の書店で、ローマ帝国の研究書を買い求めました。こうした「啓発」の力こそ、名著の証明であると思います。