モーツァルトのアルト?2009年09月14日 22時58分12秒

モーツァルトのオリジナル楽譜では、ソプラノ、アルト、テノールは、ハ音記号で書かれています。ソプラノはソプラノ記号(第1線がc)、アルトはアルト記号(第3線がc)、テノールはテノール記号(第4線がc)で書かれているのです。バスは、へ音記号。全部違う記譜法ですから、読むのがたいへんです。この点では、バッハも同じ。ト音記号は、声楽用には使われませんでした。

したがって、その楽譜の声種が何であるかは、音部記号を見ればわかる、ということになります。そこで調べてみると、《フィガロの結婚》に登場する5人の女声(伯爵夫人、スザンナ、ケルビーノ、マルチェッリーナ、バルバリーナ)のパートは、全部ソプラノ記号で書かれていることがわかりました。《ドン・ジョヴァンニ》は、どうか。これも同様で、アンナ、エルヴィーラ、ツェルリーナのいずれも、ソプラノとして記譜されています。

《コシ・ファン・トゥッテ》では、フィオルディリージ、ドラベッラ、デスピーナが、すべてソプラノ記譜。《魔笛》も驚くなかれ、童子や侍女の第3パートを含めて、すべてソプラノ記譜なのです。ソプラノが広い概念で、現在のメゾを含んでいた、とも言えるでしょうが、両者の間にはっきり線を引くことは不可能です。

ここで、次の疑問が出てきました。それは、モーツァルトのオペラに一体アルトは存在するのか、という疑問です。

円熟期のオペラには、ひとつもありませんでした。そこで舞台作品を前へ前へと調べていくと、最初のオペラ・セリアである《ポント王ミトリダーテ》のファルナーチェがアルト記号で書かれており、これが唯一の例外であることがわかりました。一般論として、モーツァルトのオペラではテノールとバスに対応する女声の分離は見られず、もっぱら高めの音域が活用されている、と言えそうです。このことは、おそらく当時のオペラハウスの状況とも関係があるのでしょう。

これが意外に思われるのは、合唱の第2声部がつねにアルト記号で書かれているためです。ミサやレクイエムのソロは、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4声部です。たとえば〈トゥーバ・ミルム〉の場合、モーツァルトのスケッチでは歌声部が途中まで一段で書かれていて、記譜がバス記号、テノール記号、アルト記号、ソプラノ記号と変わってゆきます。そしてそのたびに、歌い手が交代するのです。

コメント

_ M. I. ― 2009年09月29日 00時30分25秒

以前同じ団体でご一緒させていただいたM.I.と申します。 大変ご無沙汰しています。

今回はハ音記号が登場していますね? 実は私の漫才ブログでも偶然「アルト譜表」を取り上げました。 そこで『モーツァルトのアルト』の記事を、大変勝手ながら拙悔露愚の読者の皆様にもぜひ読んで欲しいと思い、冒頭の5行をアップさせていただきました。

「トップページ」、および「この日」の URL も併せて記載してありますが、お気付きの点、また問題があるようでしたら、恐縮ですがご一報いただければ幸いに存じます。

お忙しい中、大変失礼しました。

_ I教授 ― 2009年09月30日 00時09分26秒

M.I.さん、ありがとうございました。ハ音記号そのものについて詳しく解説されていますので、理解が深まります。皆さんもぜひ、参照なさってください。

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