転んで起きた《フーガの技法》2010年09月25日 23時42分29秒

「先生、それは1月にやりました!」 この声が教室に響いたとき、私は全身凍り付くような思いがしました。今日の朝日カルチャー横浜校の講座で《フーガの技法》の授業に入り、まずテキスト(『バロック音楽名曲鑑賞辞典』)を読んでおきましょう、と述べたときです。最近あちこちで《フーガの技法》の話をしていましたが、横浜でしたことは、すっかり忘れていました。

話をつないでいるうちに、記憶がよみがえってきました。そう、その日は教室が変更になり、別の部屋で講義したのです。全曲は長いので、いくつかのフーガを選んで詳しく勉強し、鑑賞したんだったなあ--と思い出してきて、私は顔面蒼白。なぜならば、それは今日やろうとしていたことと、まったく同じだったからです。声が挙がらなければ、そのまま同じことをやってしまうところでした(激汗)。

さあ、どうするか。私は「転んでもただでは起きない」ことをモットーとしていますので、何とか、新味を出すことを考えました。前回と違ったのは、入手して間もないファクシミリを持参していたことと、オルガンのCD(ヴァインベルガー演奏)をもっていたこと、そして、書見台が用意されていたことでした。この時点できわめて真剣になり、本気を出しました。いやいつも本気でやっているのですが、自分へのハードルを2倍高くした、ということです。

で、自筆譜と出版譜、新全集版楽譜などを交互に写し、オルガンのCDを流しながら、技法を克明に解説。普通は省いてしまう鏡のフーガやカノンまで解説し、最後は初版巻末のコラールの数象徴を論じて、締めくくりました。話しながら自分で気がついたこともいくつかあり、いい勉強をさせていただきました。

というわけで、興味のある方は、ファクシミリを買われるとよろしいでしょう。2008年にフィレンツェで出版されたもので、《フーガの技法》がフレスコバルディに絶大な影響を受けていることを論じた、詳しい解説(イタリア語)が付いています。自筆譜、その補遺、出版譜がセットになっている、お買い得版です。(Monumenta Musicae Revocata37、Studio per Edizioni Scelte、Sergio Vartolo編)