広尾から大阪へ2010年10月01日 17時54分54秒

9月29日の水曜日から、聖心女子大の後期授業が始まりました。テーマはバッハです。『エヴァンゲリスト』をテキストに行いますが、まだテキストがありませんでしたので、BBCの大作曲家シリーズのDVDを使いました。これ、バッハへの導入としてはとてもよくできているので、お勧めです。ヴォルフやマーシャルの専門的な解説もありますし、現地の美麗な映像もたくさん。シフのピアノ演奏+コメント、マグレガーのチェンバロ演奏+コメントなども良く、加うるに、ガーディナーとモンテヴェルディ合唱団による《ロ短調ミサ曲》の圧巻の演奏が、何カ所かに挿入されています。

終了後、昼食を食べようと、お店探し。広尾はグルメ・ゾーンでたくさんお店はあるのですが、ちょうどお昼時で、どこも混み合っています。脇道に入っていくと、「天ぷら定食3000円、天丼2200円」という看板のかかった店がある。そこに、「予約は不要です」というコメントが書かれているのです。予約が不要とはどういう意味だろうと不審に思い、覗いて見ると、数名だけの小さなお店に、お客さんが2人だけ。ここで食べることとし、天丼を注文しました。

そしたら、これがすばらしいのです。新鮮で高級そうな食材が惜しげもなく盛り込まれ、天丼の概念をくつがえすほど。夜の予約客を貸し切り中心に運営しているお店なので、ランチに対し「予約不要」というコメントを出していると判明しました。「銀座大新」というお店です。

バーバーのイガラシさんの話では、天ぷら職人は日本食のうちでもとくに位が高いのだそうですね。野菜や魚介の食べ方として、天ぷらはとりわけ高級ということを知りました。

その足で大阪に行き、いずみホール・シューマン特集企画の第1回コンサートを体験。クリスティアン・ツィメルマンのピアノ、ハーゲン弦楽四重奏団の出演で、バツェヴィッチのピアノ五重奏曲、ヤナーチェクのクロイツェル・ソナタ四重奏曲、シューマンのピアノ五重奏曲が演奏されました。超一流奏者たちのさすがの貫禄に接して、室内楽としては空前とも思える盛り上がりがホールに作り出されました。ピアノと弦の響きが融合してあたかもシンフォニーのごとく鳴り響いていたのは、楽器のかけ離れたメカニズムを考えると、とても不思議です。どうぞ感想をお寄せください。

ハーゲン紅一点のヴェロニカさん、すばらしいセンスの衣装で、木訥なご兄弟たちに花を添えていましたね。楽屋に行こうかと思いましたが、遠くから見るだけしておこうと思い、ご遠慮しました。

カラオケの効用2010年10月03日 08時49分43秒

9月22日に、演奏の学生さんだちの修士論文(「研究報告」と呼んでいます)が締め切られました。私は声楽科オペラ専攻の学生7人を指導しましたが、今年のレベルは最高。画期的に優秀なものが2篇含まれており、遅れていた人も最後に追い上げて、悔いのない年になりました。あ、サントリー「レインボウ」に《コジ・ファン・トゥッテ》で出演した学年です。

学生たちも満足したらしく、大学院オペラが迫っているにもかかわらず、打ち上げをやろうということになりました。いやなら言ってこないでしょうから、うれしくお付き合いすることにしました。

そこで、立川南のフレンチ「すぎ浦」へ。最近よく使いますが、落ち着ける、いいお店です。とくに最後のワインが1995年のもので、絶品でした。

外へ出ると、まだ10時前。ものすご~く久しぶりでしたがカラオケに流れ、2曲ずつ歌いました。私は奇をてらわず「勝手にしやがれ」と「心もよう」を歌ったのですが、「心もよう」が1973年というテロップには驚きました。37年も前じゃありませんか!

オペラ専攻ですから、みんなとても上手。でも人柄って、歌を聴くとよくわかりますね。この実例はあくまで一般論ですが、令嬢然とした方がじつはすごく跳んでるとか....。あ、学生たちも言ってると思います。カラオケの効用で先生わかったよ、と。

須坂での指揮者論2010年10月07日 08時08分46秒

日曜日は、須坂で指揮者論。シャルル・ミュンシュの初来日時の演奏をテレビで見て、指揮者ってすごいなあ、と思った体験から説き起こし、指揮者の役割や資質、能力といったことを分析してから、諸大家の映像を少しずつ見ました。

話はどうしても、外見や身振りに及びます。それらを武器にしたショー的な要素が、オーケストラ演奏会を近年ますます支えている、と思うからです。しかし私自身はそうした「見せる」要素に興味を失いつつあり、虚心坦懐に音楽に向かっている人を見ると、それだけで点をあげたくなる(逆に言えば「見せる」印象が先に来ると減点したくなる)、と思うようになっています。その意味で、自分の最近の価値観を再確認するような講座でもありました。指揮者のいない、あるいは指揮者に頼らない音楽作りにも大きな楽しみがあることを語って、講演終了。

最後に、気に入った指揮者に1票の、アンケートをしました。平等な条件での比較ではありませんからあくまで遊びですが、ワルター、アーノンクール、ヴァントの順になりました。ただしワルターは、練習風景やインタビューを少し長く使ったので、有利だったかもしれません。進行をもう少し整理して、「たのくら」でもお話しします。

今週はものすごく予定が詰まっており、かなり疲労状態なので四苦八苦です。極力がんばりますがお手柔らかにお願いいたします。

連休2010年10月09日 09時50分38秒

連休はどうお過ごしになるのですか、とか、お忙しいでしょうから連休はゆっくりお休みください、などと言われるのですが、それは、内情をご存じない方の善意です。

一般論として申しますと、大学の先生に、このところ祭日が許されない、ということがあります。要求される授業時間を確保するために、かなりの数の祭日を授業に宛てている大学が、多くあります。もうひとつの一般論は、研究や評論を仕事にしている人間には、週末や休日に仕事が集まる傾向がある、ということです。

というわけで、この3日間は、水戸行き(昵懇の同業者で松本深志高校の後輩でもある白石美雪さんが吉田秀和賞を受賞されたのでお祝いのスピーチを捧げに)、大学のオープンキャンパス、平日(!)授業となっていて、1日も休めません。あいにくなことに、月曜日は大学院研究紀要の締め切りにあたっており、大事な弟子の3人が、審査を突破できる論文を提出しなくてはならないのです。査読に合格する論文を提出することが博論提出の条件になっているからです(不合格だと自動的に留年になってしまう)。その指導に加えて、自分個人は、NHKの準備をしなくてはなりません。

とりあえずここを乗り切ることが肝要と考えて、がんばります。

水戸へ2010年10月10日 11時57分09秒

吉田秀和賞の授賞式、行ってきました。ここで1日使うのはたいへん辛かったのですが、行って良かったと痛感しています。

格調のある、立派な式。吉田秀和先生がご高齢にもかかわらずまったく衰えを見せていない、という情報は複数の筋から得ていたのですが、本当にそうですね。驚きました。じつは私、吉田読者であることは人後に落ちませんが、お話ししたのはこれが初めてです。パーティでは森英恵さんとも、少々長くお話しさせていただきました。

選考委員林光先生のご挨拶、受賞者白石美雪さんの実質講演というスピーチのあと、式の最後が、私の祝辞でした。白石さんがスピーチで私の「ツキの理論」を批判してくださったのが絶好の引き金で、自分としては、いい祝辞を差し上げられたと思います。いいと、なぜわかるか。パーティで当意即妙の乾杯の辞を述べられた片山杜秀さんが、ほぼすべてのトピックにおいて「礒山先生がおっしゃったように」とおっしゃったからです。つまり、私が全部先に言ってしまった(笑)。逆の順序になっていたら、目も当てられませんでしたよね。二人で異口同音に、白石さんの本当の意味での「まじめさ」を賞賛した次第です。

宮本文昭指揮、水戸室内管弦楽団のコンサートを聴いて、帰宅しました。

居眠り2010年10月12日 12時26分59秒

宴席で学生から言われた言葉が突き刺さりました。「先生は、教授会で居眠りしておられるそうですね!」。否定いたしません。でも、なぜわかるの?その学生が指導の先生と、その話題を話し合った、ということですよね。居眠りはどうやら、私の代名詞となっているようです。

居眠りは学生の頃から、私の特技でした。大学の頃には、雷のようにこわい美学の教授の授業で、私だけが居眠りをして、英雄視されていました。でも、確信犯だったわけではない。起きていようと懸命になっているのですが、どうしても寝てしまうのです。

その習慣(体質?)は、今でも同じです。会議で、寝てしまう。「不熱心」のそしりを免れませんが、もちろん、本当に面白ければ、起きています。自分の参画が求められいれば意見を言うのにやぶさかでないのですが、他の方々が立派に進めておられることが報告されてそれを追認するというのが大半の会議ですから、聞くだけ、と認識した瞬間に夢の中です。先生も上に立つ人なのだからそれではいけない、というのは正論です。でも、正論で動いてきたら今日なかったのではないか、という思いもあります。

学生はさらに、私がゼミで研究発表を聞きながら「舟をこいでいる」と指摘。にもかからず、目をさますとあたかも起きていたかのような質問をする、と続けました。これは、多くの方から指摘されることです(汗)。人様の目に映る自分の姿、いいことばかりではないようです。

史上最大の(?)勘違い2010年10月14日 11時46分31秒

私、本当に馬鹿。ともあれ、水曜日のお話です。

聖心女子大で授業後、NHKへ。12:10に授業が終わり、13:00に放送録音が始まるという間に食事ができるかどうか、大問題でした。しかし、タクシーでNHK近くまで行き、急いで讃岐うどんを食べるという作戦で、辛うじてクリアしました。

11月放送のNHKは、日ごとの特集メニューにしました。スウェーリンク(月)、アーン(火)、バッハ(水、カンタータ第98番、188番など)、ヴェックマン(木)、ヘンデル(金、シャンドス・アンセムなど)、フローベルガー(土)というプログラムです。こう並べると作曲家の器の大きさがはっきり見えてきますね。バッハを別とすれば、やはりヘンデルが抜群。次がスウェーリンク(案外声楽曲がいいですよ)、それからフローベルガー、ヴェックマンの順かなと、直感的に思いました。今朝になり、フローベルガーの回に使おうと思って買っておいた、知られざる作品集(ランペ演奏)のCDを発見。残念ですが、また別の回にします。

録音後大学に即移動し、大学院研究年報の編集会議。今回は私の指導下で、声楽専攻のドクター3人が論文を提出しました。私の見るところかなりの出来映えなものですから、意気揚々という感じで出席しました。

ドクターの学位を取るためには、審査のある論文集への寄稿が義務づけられています。音楽学の専攻生には、審査に通った論文が2本。それ以外の専攻生には、1本が要求されます。提出した3人は2年生なので、ここで通しておかないと、即、留年になってしまうのです。

ですから学生の緊張感も極大。月曜日の締め切りを控えた週末には添付ファイル付きのメールが焦燥感をもって飛び交い、私も深夜まで全面的に対応して備えました。その結果として、「私の見るところかなりの出来映え」の論文が出来上がったわけです。

即留年じゃかなわないからね、と会議で発言したところ、他の先生が不審なおももちで、演奏の学生は義務ではないんですよ、とおっしゃる。皆さんが、同じ意見。私だけがなぜか、1本は必須と、3年間誤解していたのです。一気に力が抜け、学生に何と言ったものかと、思案しました。

でもこの危機感で1本仕上げたことは、大きな成果なのではないか。ダメでもOKという感じで取り組んでいたのでは、さらに大きな博士論文での成功は望めないのではないか。そう思うことにしましたが、私の勘違いからきわめて多くの汗がここしばらく流されたのは確かでした(汗)。

スピーカーの話2010年10月15日 11時38分31秒

それなりのオーディオ装置を使っていますが、悩まされていたのはスピーカーでした。ケーブルの接触が悪く、左チャンネルの音がしばしば出なくなるのです。修理しようと試みましたが、素人ではうまくいかず、輸入メーカーもなくなっている。コネクタを交換すればいいのですが、コネクタ自体が昔とはまったく違うものとなっていて、思うに任せません。

そこでほどほどのスピーカーを買い直そうと思い、リサーチを始めました。そのことを「たのくら」で話したところ、会員の斎藤隆夫さんが救いの手を差し伸べてくださったのです。斎藤さんのご紹介で、オーディオユニオンのセカンドハンズ新宿店に、視聴に行きました。

すると担当の方が、私のもっているスピーカーは現在なかなか及ばない逸品なので、修理した方がいい、というのです。集配もしてくださるとか。たしかに視聴したスピーカーには限界があるように思えたので、一度お預けすることにしました。とても良心的なお店です。

すると、すばらしい音がしているので大丈夫だ、コネクタを交換し、若干の修理をした、とのお話。出費らしい出費もしないうちに、スピーカーが送り返されてきました。それだけでは申し訳ないので、お薦めいただいた村田製作所のスーパーツィーター(ハーモニックエンハーサー)を購入しました。

鳴らしてみると、驚くほどいい音がするのです。電源部の劣化が、音質の大幅な低下を招いていたようで、自分のもっているスピーカーの性能を再認識しました。そのスピーカーとは、ロジャースのPM510というモデル。これは、私が自分の理想とするオーディオシステムを構築する、という趣旨の連載(『レコード芸術』)で選び、安価に譲っていただいたものです。スピーカーがフェニックスのごとくよみがえり、CDを聴くことが、またとても楽しくなってきました。

ワーグナー&モンテヴェルディ2010年10月17日 10時37分09秒

16日の土曜日は、琵琶湖ホールに、《トリスタンとイゾルデ》を見に行きました(沼尻竜典指揮、大阪センチュリー交響楽団)。ロビーから直接琵琶湖の景観が得られる、すばらしいロケーションのオペラ・ハウスです。どうやら各地からワーグナー好きが集まったようで、知り合いの多さにびっくりしました(うっかり橋下知事に声をかけそうになった)。

批評の場ではないので細かいことは申し上げませんが、率直のところ第2幕までは、いろいろなことが気になって聴いていました。しかし第3幕に入り急速にまとまってきて、そうそう望めないぐらいの立派な公演になったと思います。メゾ・ソプラノからの挑戦が注目された小山由美さん、本当のソプラノの声が出ていましたし、持ち前の品格で、堂々たるイゾルデ。松位浩さん(マルケ王)の朗々とした低音、加納悦子さん(ブランゲーネ)の密度高い歌唱もたいしたものでした。

このところまったく時間がなく、モンテヴェルディの研究が進められなかったものですから、エレン・ローザンドの本を携行して、道中読み進めました。後期オペラに関するきわめて詳細な研究で、参考になります。1ヶ月ぐらい休みが欲しいなあ、というのが実感。

モンテヴェルディ研究と言えば、ありな書房の「オペラのイコノロジー」シリーズに入っている山西龍郎さんの《オルフェオ》に関する著作はすばらしいですね。音楽はもちろん美術、楽器に関する知識が満載され、文明論的な切り口もあざやかで、すっかり感心しました。こんなに立派な研究を今まで知らずにいて、申し訳ないと思います。

青春2010年10月19日 08時50分30秒

日曜日は、私の大学秋恒例の「大学院オペラ」を見に行きました。モーツァルトの《コシ》。土曜日、日曜日でキャストが変わります。論文指導をしたのに声を聴いていない、という人たちが土曜日に集中していたので本当は土曜日に行きたかったのですが、琵琶湖が入ったため、日曜日になりました。

中村敬一さんの演出も凝っていてなかなか本格的、出演者も揃って熱演(とくに助演を呼ばれる卒業生の力量はたいしたもの)。しかしまだ発展途上であることも事実ですから、客席で客観的に聴くと、足りないところも多々、意識されます。

どのように声をかけるのがいいのかな、と思って終演後楽屋を覗いて見ると、達成の感動が渦巻いていて、主役の2人(安田祥子さん、小堀勇介君)が号泣中。青春っていいなあ!と思いました。

ちなみに、号泣というのは、身体にいいのだそうですね。存在が根底からリフレッシュされるということのようです。そういえば昔何度か号泣したなあと、はるかな記憶がよみがえりました。その上に今日があると言われれば、そうかもしれません。