阿部雅子さんに博士号!2012年03月09日 12時52分12秒

退任を控え、最後まで残った関心事は、私の指導下で博士論文を書いている人たちのうち、今年のエントリーで候補になっている阿部雅子さんが無事学位を取れるかどうか、ということでした。このたび正式に認可され、心から安堵しています。

阿部さんの論文は『モンテヴェルディの歌劇《ポッペーアの戴冠》におけるポッペーア像の研究』と題するもの。3度にわたる公演の体験を踏まえて書かれたものであることは、いうまでもありません。最新の資料である「ウーディネ筆写台本」をもとに作品のオリジナルな形態に迫ったというのも成果ですが、何より、オペラの中で展開される主人公の心理表現が、細部までの分析を通じて、あざやかに捉えられています。公演をご覧になった方は、きっと想像していただけることでしょう。

一昨年、湯川亜也子さんが第一号になられました。湯川さんはとにかく勤勉な方でしたので、もちろん陰の苦労は大きかったでしょうが、順調に学位まで到達されたように見えました。しかしまもなくわかってきたのは、後に続くことがいかにむずかしいか、ということです。去年、今年と、博士論文を仕上げることのたいへんさ、とくに演奏を専門とする学生にとって心理的にどれほどの負担であり、重圧がかかることかを、身をもって味わいました。それを克服された阿部さんに、敬意を表します。今年はピアノの和田紘平さんも優れたシェンカー研究によって博士号を授与されましたので、合計3人になりました。

指導した方すべてに学位をとっていただきたかったのは、やまやまです。しかしそのように厳しい課題なので、二人目を出せたことでともあれ満足しなくてはならないと思います。阿部さんも平坦な道を歩かれたわけではありませんが、古楽に照準を定めてから、大きく成長されました。持ち前のインテリジェンスに日ごとに磨きがかかり、ある時点で、学問とはどういうものかを理解する段階に達したと感じています。そうなると、研究が面白くなり、どんどん目が開かれて、いろいろなことに気がつくようになる。こうした段階に至ってようやく、博士号に手が届くのです。見事な自己実現。おめでとうございました。