北海道三日間~ひとり旅はむずかしい(5)2013年09月07日 09時14分43秒

大自然の中に立つ「富良野演劇工場」は倉本聰さんの理想を実現した劇場だそうで、舞台と舞台裏にスペースを惜しみなく使い、しかしまことに簡素に建てられた木造建築です。ちょっと、バイロイト祝祭劇場を思わせる。そこで上演されたのは、矢代静一作の一人芝居『弥々』。いくつかの劇場のネットワークで行われる公演の第1回でした。

弥々というのは良寛の初恋の女性で、いったんは彼を拒否し、すさんだ生活を送りますが、その過程で、良寛への愛と尊敬を深めていく。マグダラのマリアのイメージが、背後にあるそうです。独演した毬谷友子さんの演技のすばらしさは、言葉もないほど。陰惨な場面もからりとした明るさで処理されるのがよく、女の一生が、スピーディーに綴られてゆきます。ベートーヴェン《悲愴ソナタ》の第2楽章が二度にわたって響き、深い慰安の効果を作り出していました。人生、愛、男女、理想、現実、あこがれ、真実--などなど、いろいろなことと向き合い続ける1時間半でした。

演劇はいいなあという思いが、人生のここに至って、加速しています。ただ、演劇を1つ観ることはコンサートを1つ聴かないということですから、音楽の世界における責任達成度が下がることも事実。しかし長いこと音楽音楽で費やしてきた人生が最後に他芸術に開かれて終わるというのも、個人的には悪くないなと思っています。また、芸術の本質を考えた場合、関係者がそれぞれのジャンルのことで手一杯という状況も、理想的ではないように思われます。

31日(金)。タクシーを頼んで十勝岳を周遊するというプランを考えましたが、雨模様であきらめ、小樽に海を見にいきました。地図で見ると留萌が近いし、1本で網走という可能性もなくはない。しかし乗り継ぎの便を考えて、小樽再訪を選びました(お寿司付き)。帰路札幌で降り、大通公園を往復。やはり大通公園にちょっとだけでも身を置かないと、北海道に来た気がしません。旭川からの飛行機夜の便で、羽田着。一気に気温が上がり、汗が噴き出してきました(完)。

コメント

_ 波女 ― 2013年09月08日 10時47分26秒

毬谷友子さんの「弥々」、俳優座劇場が六本木にあったときに見ました。もう20年以上前だと思いますが、とても素晴らしく、感動しました。音楽よりも、演劇や歌舞伎に凝っていた頃なので、懐かしいです。

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