《マタイ受難曲》、DVDラッシュ2014年05月24日 08時52分29秒

《ヨハネ受難曲》について人様の前でお話しすることが多いので、新しいDVDを待ち望んでいるのですが、《マタイ受難曲》ばかり出てきます。そこで、朝日カルチャーセンター新宿校の《ヨハネ》研究の時間に、《マタイ受難曲》の新DVDを、最初の3曲(合唱曲、レチタティーヴォ、コラール)限定で比較試聴しました。

その3種類というのは、次の通りです。
1.ラトル指揮、ベルリン・フィル&ベルリン放送合唱団、福音書記者:マーク・パドモア、イエス:クリスティアン・ゲルハーヘル。2012年。
2.ジョン・ネルソン指揮、パリ室内管弦楽団&メトリーズ・ド・パリ、福音書記者:ヴェルナー・ギューラ、イエス:ステフェン・モルシェク、2011年。
3.ペーター・ダイクストラ指揮、コンチェルト・ケルン&バイエルン放送合唱団、福音書記者:ユリアン・プレガルディエン、イエス:カール=マグヌス・フレデリクソン、2013年。

以前は拙著『マタイ受難曲』の増刷のたびに、新譜情報を盛り込んいました。しかし最近は紙面スペースが限界なのと、出版状況からして直しができませんので、市場に対応できなくなっています。それならここで、とも思いますが、責任をもった評価をするためには時間をかけなくてはなりませんから、日々の更新で対応することは困難です。そこで、最初の3曲だけでは評価はできない、ということを念押しした上で、冒頭から受ける印象のみ、書いておきます。

1は、ピーター・セラーズの演出によって舞台化されています。この一点からして私は「衝撃的」とされるこの映像を見る勇気がなく、カルチャーに場を求めた次第。合唱団が多様な嘆きを動きながら歌い、カメラがそれを追いますので、人間が主役になる印象です。ラトルがいつも通りの超ドラマティックな指揮で、一流の音楽家を統率しています。

2は、《ロ短調ミサ曲》で白熱的な演奏を展開したネルソン率いるフランス勢の、《マタイ》への挑戦。今度はパリのノートルダムではなく、サン・ドニ大聖堂を会場としています。冒頭からネルソンがカリスマ性を発揮して、勢いがあります。映像がフランス人の見た目のよさを生かしているのも、ミサ曲と同様。

3は唯一のピリオド楽器で、冒頭合唱曲ではレーゲンスブルク大聖堂聖歌隊の少年たちが、大きな効果を上げています。作品としっかり取り組んでいるという印象があり、手応えを感じました。一歩リードのスタートです。(エヴァンゲリストのプレガルディエンはクリストフの息子さんだそうです。生気はつらつ、楽しみな若手です。)

こんな書き方ではかえって無責任かなとも思いますが、こうしたものが出ている、という情報として読んでいただければ幸いです。