木を見るか、森を見るか2014年05月25日 17時44分42秒

最近若い研究者の方とお話しする機会があり、そのさい標記の話題を提供しましたので、ここにも書いておきます。

よく、「木を見て森を見ず」というたとえが語られます。視野は広く持つべし、との意で、私がよく使う言葉で言えば、「大局観」の重要性を語ったものです。

しかし私は若い方々に、むしろ「まず木を丹念に見よ、しかるのちに森を見よ」と述べたいと思います。その人の大きなテーマが森だとしますと、若いうちは、個々の木の丹念な研究を積み重ねる。木のことがよくわかってくるにつれて、森に対する視点が、しだいに開かれてゆく。かなりの歳月が必要でしょうが、その上に立って形成される森への視点は、強固にして確実です。

なぜこのように申し上げるかと言いますと、若い人が木をスルーして森を論じようとする傾向が、最近強いように思えるのですね。大きなテーマを、特定の視点を定めて、かっこよく切っていこうとする。基礎研究を省略して大きな視点を構築しようとすると、研究はおしなべて、イデオロギーになってしまいます。初めに結論ありきで、都合のいい資料だけを取り出してつじつまを合わせていくようになりやすいからです。

「木を見て森を見ず」といういましめは、たくさんの木を見ている人に対する激励として、理解したいと思います。