今月の「古楽の楽しみ」~バッハの新録音紹介2016年12月04日 23時43分34秒

11月は《ブロッケス受難曲》をいうマニアックなものをやりましたので、12月は思い切り楽しんでいただく企画にしたいと思い、バッハの新録音紹介コーナーとしました。すでに採り上げた作品で、その後いい演奏が出たものを中心に選びました。すべて2010年代です。

12日(月)は《ゴルトベルク変奏曲》。新録音が次々と出るという意味では、ダントツではないでしょうか。前半をマハン・エスファハニのチェンバロ、後半をシャオ=メイのピアノで、キセル構成しました。

13日(火)は、無伴奏ヴァイオリン曲。朝カルの結果はご報告しましたよね。番組では、ソナタ第1番:クリスティーネ・ブッシュ、シャコンヌ:アマンティーヌ・ベイエ、パルティータ第3番:エンリコ・オノフリと並べました。

14日(水)はいろいろ。無伴奏チェロ組曲の第1番:デイヴィッド・ワトソン(バロックチェロ)、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番:市瀬礼子+武久源造、フランス組曲第2番全曲と第5番ガヴォット:マレイ・ペライア。

15日(木)は、カンタータから、ザンクト=ガレンバッハ財団のシリーズで第13番。後半は《フーガの技法》抜粋を、フォン・プロムニッツのオルガンと、レイチェル・ポッジャー+ブレコン・バロックで。

いいもの、面白いものがこのように出てくるのがバッハであり、古楽です。ぜひお楽しみいただければと思います。

昼食を思い出す2016年12月09日 22時41分57秒

ちょっと更新を切らしているうちに、すぐ何日か経ってしまいます。そこでこの1週間のことをご報告しようと思い、どこで何を食べたかを書こうと思い立ちました。問題は、思い出すことができるかどうかです。

月曜日は、聖心女子大の授業を終えてからの昼食。今年は「受難音楽の歴史」というテーマでやっていて、バッハを終えてワーグナーの《パルジファル》に入っています。若い女性たちにどうかとも思いましたが、とても興味をもってくれているようです。

で、その帰りに・・・思い出せません(汗)。たくさんの「終了後」があり、どれだったか判別できないのです。思い出したら書きます(笑)。

火曜日は、昼食後に出て、ICUの初授業。相当専門的な内容を用意していったところ、5人の学生はいずれも音楽専門ではなく、さて弱った、と思いました。しかしみんな利発イメージの学生で、生き生きとついてきたのに感心。先への展望をもてました。いい大学です。

水曜日は、朝日カルチャーの前に、急いで昼食。西武新宿近くの牛カツ専門店でタレカツを食べました。なかなかよし。夜はサントリー芸術財団の会合のあと、超名店で楽しく会食。

木曜日は、NHKの録音の前に、原宿駅前の中華のお店でネギラーメン。ネギラーメンは、私がもっともよく食べるものの一つです。夜は、卒業生のグループと国分寺で会食。北口「ヴァンパッション」のワインは、絶対お薦めです。とても良心的なお店なのです。

今日、金曜日は、國學院の授業(モーツァルト)のあと三越前に移動し、コレド室町のタイ料理店でバイガパオ。

「後に」食べるときはゆっくり探せますが、「前に」食べるときは時間優先なので、選んでいられません。・・・とここまで書いてきて、月曜日を思い出しました。

國學院に行く帰りに「小法師」という喜多方ラーメンのお店を通ります。いつも行列で入れません。この日は渋谷に出てきた時間が少し遅かったので、國學院の方向に歩き、「小法師」を覗いてみました。すると入れたので、ネギラーメンを注文。おいしかったです。

いま気づきましたが、私、今週2回ネギラーメンを食べていたのですね。初めて認識しました(笑)。明日は新宿あたりで昼食になりそうですが、ご批判がありそうなので、ネギラーメンは食べないようにいたします。

カフェ、モーツァルト、短歌2016年12月11日 22時34分08秒

「明日は新宿あたりで昼食」と前記事で申し上げました。ゆとりはあったのですが、店を迷ううちに時間切れとなり、カフェのスタンドでサンドイッチという結末に。何度もあった、私らしい成り行きです。ちなみに明日は、渋谷で昼食となります。

午後、モーツァルト・フェラインで講演させていただきました。小池さんがコメントしてくださっているように、1788年という多産の年について、三大交響曲を中心にお話ししました。熱心に聴講していただき、私も、充実のきわみでした。

演奏比較の中心にアーノンクールを置いたのは、彼がウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとともに録音した最後期の演奏の圧倒的なすばらしさに、つい最近、気づいたからです。まさに、深淵から三大交響曲を見直す演奏です。そうしましたら、テレビでアーノンクールについてコメントする仕事が舞い込んできました。偶然でしょうが、力が入ります。番組については、追って。

ところで、コメント常連であられる(阿部)久美さんが、すばらしい本を出されました。『ゆき 泥の舟にふる』という歌集です(六花書林)。

オビに、藤原龍一郎さんの次のような紹介があります。

「ひとはかなしいから詩を書くのだ。」--この詩歌の永遠の真理にきわめて忠実に、底ふかいかなしみの歌として、阿部久美の短歌は存在する。

驚きの歌たち。ご本人のご了解をいただいた上で、何作か、ここでご紹介したいと思っています。

テレビはむずかしい2016年12月14日 23時51分15秒

イチローさんありがとうございます。励みになります。

月曜日、テレビ収録しました。「クラシック・ハイライト」という、1年を回顧する番組です。

でも、うまくいきませんでしたね。短い言葉でずばっと言わないといけないのですが、妙に枝葉が茂ってしまって、50~60点ぐらいでしょうか。終わってから、ああ言えばよかった、こう言えばよかったという思いがしきりです。ただとても優秀な質問者でしたから、上手に編集してくれるだろうと思います。

さっきNHKテレビの戦後を回顧するドラマで、ハーリッヒ・シュナイダーという女性がクローズアップされているのにびっくり。チェンバロの先駆者として有名な方ですね。いろいろな方がたいへんな時代を生き、努力してくれたことで、今日があるのだと思います。

テレビといえば、「真田丸」をおりおりに見て、役者さん、みんな本当にうまいなあと感心しました。これだけ個々が主張してみごとにまとまっているのですから、演出に当たる方が立派なのでしょう。ネットでも絶賛一色ですね。

土曜日、朝日カルチャー新宿校の「音楽のロマンを求めて」(18:30~20:00)。安井耕一先生も張り切っておられますので、皆様どうぞお出かけください。ユニークな会になると思います。

歌集『ゆき』より私撰2016年12月19日 00時31分19秒

阿部久美さんの歌集『ゆき、泥の舟にふる』。北海道新聞短歌賞をとられたというこの歌集から、私の好きな歌を6つ、選んでみました。何段階かかけて絞り込みました。分類はオリジナルとは別に、私の独断でさせていただきました。横書きになっちゃってすみません。

(住み処)
人を待ち季節を待ちてわが住むは昼なお寂し駅舎ある町

(叙景)
夏終わるうずくまりたる砂浜のかもめは群れてみな海をむく

(旅)
旅の荷を解いて思えばふるさとは実(げ)に暗々と海に抱かれる

(言葉)
群生のこの黄の花の名を尋ねそれきり今日の言葉が尽きる

(情念)
弱い雪ためらいながら降りてくる熱(ほとぼ)りのある男女の世へと

(音)
蝋燭が尽きてみずから消ゆる音(ね)はこの世にそっと美しきひとつ

オビにも選ばれている「わがうなじそびらいさらいひかがみにわが向き合えぬただ一生(ひとよ)なり」という歌のページに挿入されている後ろ姿、ご本人でしょうか。きっとそうですよね。

たまっている諸々のご報告、もう少しお待ちください。

北村朋幹、ホールを奏でる2016年12月23日 21時51分55秒

思ったより忙しかった「師走」。やっと余裕が出ましたので、心に残る出来事の多かった1週間を、少しずつ振り返ります。

大学の授業を終えて大阪に向かった、16日(金)。翌日10:00に立川にいなくてはならないので、名古屋に中継ホテルを予約しました。チェックインして荷物を置いていこうと、名古屋で下車。スマホを見ながら、ホテルへと歩きます。

途中、おいしそうな台湾ラーメンの看板を掲げたお店があります。通り過ぎてしばらく、実際とは反対方向に歩いていたことに気づきました。かなり時間を無駄にして、ホテルに到着。ホテルとラーメン店は駅を挟んで離れていましたが、間に合うと踏んで夕食へ。

私、台湾ラーメンが大好きなのです。そうしたら、そのお店が、台湾ラーメン発祥の地だというではありませんか!道を間違えたから来られたわけで、これは幸運。マイナスはプラス、という持論を再確認しました。

夜は、いずみホールで、シューベルト・シリーズの第三夜。出演は北村朋幹さんで、ベートーヴェンのバガテル、クルターグの《遊び》を経てシューベルトに進むという、凝ったプログラムが組まれています。シューベルトは、《楽興の時》全曲と幻想ソナタです。

高い構想力をもつ北村さんのことだから何かあるのだろうと思っていましたが、前2曲がシューベルトへの絶妙の道程になっていることに感嘆。かぎりない弱音で弾かれたクルターグから、そのままシューベルトが立ち上がって来たのです。

北村さんの連ねる繊細なソノリティに、会場が水を打ったように聴き入っています。私には、ピアノというよりいずみホール自体を北村さんが楽器として奏でているような気がしてきました。こんなコンサートができて、本当に幸せです。別のホールでは、きっとまったく違う演奏をなさることでしょう。

ロマンティスト2016年12月25日 22時02分07秒

「ホールを奏でる」という形でお示しした価値観について、補足しておきます。

演奏が聴衆に響きを届けて成り立つものであるとすれば、音響体としてのホールを味方につけることが、演奏家には大きなアドバンテージになると思います。ホールの響きを体感することで、演奏家と聴き手が一つに結ばれるからです。

でも演奏家には、それを大切にしている人と、あまり関心をもたない人がいるように思うのですね。2000人のホールでも200人のホールでもまったく同じに演奏する人が、案外少なくないように思えるのです。これは損だというのが、私の意見です。

さて、大阪から名古屋まで戻ってきた、先週の金曜日。朝6時に起きて新幹線に乗ろうとタイマーをかけましたが、乗り遅れたらたいへんだ、タイマーは鳴らない可能性もあるぞ、と思ったらと気が気ではなくなり、結局、まんじりともせずに朝を迎えました。

ホテルを出、余裕をもって名古屋駅に向かいました。ところが駅は人であふれ、6時台の東京行き普通車が、全部満席なのです。旅慣れない家族連れが長蛇の列をなしていてなかなか新幹線エリアに入れず、危ないところでした。こういう中継ぎは、やらない方がいいようです。

10時からの「たのくら」を立川で終えると、さすがに疲労を実感。会食をパスして家で休み、多少の準備をしてから、夜のレクチャーコンサートに臨みました。朝日カルチャー新宿校の音楽室で、敬愛するピアニスト安井耕一さんと、音楽におけるロマンについて語り合おう、というのです。

旧同僚の安井さんを私はロマンティシズムの権化のように思ってきたのですが、ご本人は、いや、自分は職人だ、とおっしゃいます。そこで、安井さんがロマンティストか職人か、という見極めをサブテーマに設定し、コンサートを進行させることにしました。

最初緊張しているようにも見えた安井さんですが、持ち前の音楽に対する愛は抑えるべくもなく、シューベルトに、シューマンに、ブラームスに、ロマンの溢れる会になりました。それが濃厚でも主観的でもなく、透明な響きの中でおおらかに立ち上がるのが、安井さんの職人芸です。

終了後はご夫妻と、ネットで探しておいたお店へ。風俗街のど真ん中を通ることになって肝を冷やしましたが(通らずにも行けます)、ようやく新宿に、おいしく雰囲気もよくて話しやすい、とてもいいお店を見つけることができました。いずれご紹介します。

盛り上がった会話の中で、そういう先生こそロマンティストではないか、という反撃が・・・。どうなんでしょうね(笑)。

今月のCD2016年12月27日 10時50分25秒

今月の新譜は、どうしたものか、ロシアものに集中した印象です。「たのくら」でやっているムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》に、なつかしいNHKスラヴ・オペラの録音(マタチッチ指揮)が出ましたし、ゲルギエフのプロコフィエフ・シリーズ(ピアノ協奏曲第4番、第5番、交響曲第4番、第6番、第7番)も、まとめてきくと変遷がよくわかります。

でも今月はやはり、チャイコフスキーでしょう。ユロフスキ指揮、ロンドン・フィルのライヴ(エイベックス)で、久しぶりに後期三大交響曲を楽しみました。軽めの音作りですが、爽やかではつらつとしています。曲として私が好きなのは、第5番。演奏としては、《悲愴》がとりわけいいように思いました。

で、特選盤は、リサ・バティアシュヴィリのヴァイオリン、バレンボイム指揮 シュターツカペレ・ベルリンによる、チャイコフスキーとシベリウスのヴァイオリン協奏曲です。

ヴァイオリンは幅の広い楽器ですが、バレンボイムはバティアシュヴィリの趣味の良さに惚れ込んで起用しているらしく、繊細さは特筆もの。独走したくなる曲を独走せず、オーケストラをしっかり聴きながら溶け込み、アンサンブルを作っていく配慮が、演奏を格調高いものにしています。大好きなシベリウスのコンチェルトとの組み合わせは何より。

懇親会第二弾2016年12月28日 10時30分39秒

近況報告の続きです。

18日(日)は、長野駅構内にある「長野長寿食堂」でめでたく始まり、「すざかバッハの会」へ。これについては、近々ホームページができると思いますので、そのときにご案内します。

19日(月)、20日(火)は、大学の授業のあと会議へ。話は、21日(水)に移ります。この日は、朝日カルチャーセンター新宿校のバッハ講座の本年最終回でした。

先日、横浜のモーツァルト講座で懇親会を催したお話をしました。公表した以上、新宿でもやるべきだと思い、先回の新宿講座で、やりたいと思います、と意思表示したのです。同じビルに適切な場所がないかどうかあたってみたが見あたらない状況だ、ということもお話ししました。

横浜の話は受講生から出てきたことですが、こちらは、私からのご提案。皆さんがどのぐらい賛同してくださるか、わかりません。ですので、それはいい、楽しみにしています、というような声かけを期待していました。

ところが、声をかけてくださる方はどなたもなく、皆さん、硬い表情(?)でお帰りになってしまったではありませんか。私の方は振り上げた拳の下ろしどころがなくなり、ここは、あきらめることにしました。

で、21日の講座にあきらめる旨を申し上げたところ、場がざわつきます。今日あると思っていた、という人もあれば、わざわざ時間を作った、という人も出てたのです。そこで急遽、カルチャーの担当者に場所を探していただき、隣のハイアット・リージェンシーのロビーで、横浜と同数の懇親会が実現しました(汗)。

新宿は月2回ですし、古い方もいらっしゃいます。それだけに、本当にやってよかった、というのが実感。ただロビーでは離れたところとの会話がむずかしく、カラオケの密室で開催した横浜の効果を、あらためて確認しました。

24日(土)に、横浜の講座がありました。雰囲気が一変し、なごやかかつ、生き生き。やっぱり人のつながりが、一番大事ですね。

2016年を送る2016年12月30日 23時11分26秒

今まだ、30日です。皆様には今年もお世話になり、ありがとうございました。恒例の1年のまとめをしますが、ダブルブッキングを何回とかそういうことではなく、来年に向けて前向きに総括させていただきます。

今年は、(1)途中から年齢が大台に乗りました。未知の世界に踏み込む不安がありましたが、昔予想したように般若心経を筆写して心を清めるという人生には、まったくなりませんでした。定年後5年にして、今年が一番仕事をしたという実感があります。(2)体調が落ち込まず、人間ドック、ペット検診もクリアできたためでしょう。ワインも相変わらず飲んでいます。

(3)出した本はありませんが、自分としては勉強も、今年が一番したと感じています。周辺的なものがそぎ落とされ、勉強に集中性が出てきたように自分では思います。対象の一角が神学であるのは、《ヨハネ受難曲》の研究を、いま最大の課題としているからです。

(4)講演、カルチャーなどの仕事は、2:1ぐらいでモーツァルトが多かったです。28日の仕事納めも、モーツァルトでした。今年は交響曲の研究から、とくに得るものがありました。

(5)いま3つの大学に出講していますが、すべて、今年度で終わりになります。聖心女子大と國學院はあと2回、ICUは第3学期担当なのであと8回あります。大学もカルチャーも、すべてしっかり準備し、詳細なレジュメを配布して行えたのは良かったなあ、と思っています。専任の雑用がなくなったからこそ、できることです。

(6)去年から会長を務めている藝術学関連学会連合では、6月に最初のシンポジウムを催しました。国や関連団体の文化関係の仕事にも、見えないところで時間を使っています。

(7)合唱の分野とのかかわりもいろいろな形で続いていますが、4日間を費やした福島のコンテスト審査は、とりわけ印象深いものでした。まこと至りませんが、合唱とのお付き合いは続けることになりそうです。

(8)6月のライプツィヒ・バッハ祭に今年も行きました。その大きな楽しみは、人の輪の広がりです。旅行のみならず、今年はとくに出会いが多く、それ以上に、意味深い再会を多く経験しました。これはぜひ、(9)とさせてください。

連続しているものを、(10)にまとめざるを得ません。いずみホールのスタッフは、皆様にご支援をいただいてたいへん力をつけてきており、今進行中のシューベルト企画に、それが反映されていると思います。引き続き、よろしくお願いします。また、サントリー芸術財団の仕事で現代音楽に接してきたことは、私の大きな財産になっています。以前と違う理解を、自分の中に感じるからです。NHK「「古楽の楽しみ」のスタッフ、楽しいクラシックの会、すざかバッハの会など、お世話になった方々に、心から御礼申し上げます。

皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。