主の恵みにより2010年06月05日 12時25分06秒

オペラ専攻の学生たちの修士論文(研究報告)の指導をしています。今年は7人なのですが、なんとうち3人が、フランスのグランド・オペラをテーマとしました。マイヤベーア、オッフェンバック、マスネのオペラについて、彼らは研究しているのです。

先日話題にしたベルリオーズの《トロイアの人々》もこの系列ですが、今日はアレヴィの《ユダヤの女》を買ってきて、鑑賞しました。ウィーン国立歌劇場における2003年公演のライヴで、ニール・シコフが主演しています。

全5幕の壮大な構成、華麗な管弦楽、人海戦術のごとき合唱、といったグランド・オペラの特徴を典型的に備えた作品ですが、ストーリーが陰惨なのに驚きました。ユダヤ教徒がキリスト教徒から受ける迫害が主要テーマになっており、最後はユダヤ教徒の父娘が火刑にされてしまう。作曲者のアレヴィはユダヤ人ですから、きっと彼自身にとって、切実なテーマだったのでしょう。この救いのない内容で人気作となったことは、当時の社会背景を指し示しています。

《ユダヤの女》で唯一有名なのは、〈主の恵みにより〉というテノールのアリアですよね。私も、若い頃マリオ・デル・モナコのアリア集で親しんで以来、大好きな曲でした。これって、処刑を待つ牢獄で主人公が、やはり処刑を待つ娘を思いやって歌う歌なんですね。ニール・シコフの歌は、精魂込めた、感動的なものでした。内容のある歌い手です。