今年の学会2010年11月09日 08時47分46秒

日本音楽学会の今年の全国大会は、名古屋の愛知芸術文化センターで開かれました。大学の先生が受験生集めや報告書書きで飛び回っておられる状況であるからこそ学会の役割は大切で、成果を遺していかなくてはいけないと思って臨みましたが、研究発表とディスカッションはきわめて充実しており、とてもいい学会になったと思います。いろいろな大学にドクターコースが生まれ、若い人たちがどんどん手を上げるようになったことが、活性化の一因と思われます。

4つある分科会から1つを選びますので、聴ける発表は、ごく一部。それでも、こういう研究をここまでやっている人がいるのか、という思いに駆られることが、何度もありました。ごく一部しか聴いていないのに特定の発表を紹介するのは立場上問題があるかもしれませんが、他にもいい発表はたくさんあったに違いないという前提で、3つ紹介します。

まず、中部支部鳥山頼子さんの、「18世紀ロシアの農奴劇場におけるオペラ・コミック上演の実態」というもの。18世紀ロシアの音楽文化の主体が輸入されたイタリア・オペラであり、そこにグレトリらのフランス・オペラが加わったことは一応知っていましたが、その公演主体が農奴を育成した貴族所有の劇場であったことは全然知りませんでした。その実態が若い研究者によって克明に調査され、明快に説明されたことに驚嘆。心から拍手を送ります。

関西支部高野茂さんが関東支部の高坂葉月さんとの協力で発表された「マーラーの交響曲の新しい解釈の可能性--第6、第7交響曲を中心に」も、ワーグナーとの関連を重視した詳細な楽譜分析と美学的視点の結びついた、格調高く啓発的な研究発表でした。もうひとつ、関東支部江端伸昭さんの「ピカンダー年巻--J.S.バッハの4声コラール手稿資料からの検証」は、バッハの資料の精通者である江端さんがバッハの死後収集出版された4声コラールと失われたカンタータの関係を克明に追究された、世界的にもトップレベルのもので、多くを学ばせていただきました。

こうしたそうそうたる方々の組織を束ねる会長の役を、選挙の結果もう一期つとめさせていただくことになりました。よろしくお願いします。