珍しく2010年11月01日 23時19分14秒

私は風邪を引かないのが特徴で、何年に一度、引くか引かないかです。そう言っていたら、引いてしまいました。9月、10月とほとんど休みなしの激務だったので、先週のちょっとした気温の変動にやられたようです。

というわけで、今日は会議を休みました。ちょうど芸術祭期間で授業がないものですから、休養させていただきました。風邪もいろいろだと思いますが、普通の風邪であれば、神様の与える休養という意味合いもあるのではないでしょうか。関係の方々には、ご迷惑をおかけします。

イタリア語2010年11月03日 23時45分04秒

音楽の世界でとりわけ重要な言語が、イタリア語です。

私は大学時代に2年間、イタリア語をとりました。いい先生で成績も悪くなかったのですが、専門のしからしむるところとして、あまりちゃんとやる機会がありませんでした。したがって、《ポッペアの戴冠》の台本訳も、既存の訳、諸外国語への訳を参照しながら、全部辞書を引き、全部変化形を確認するような形で進めています。かなりわかるようになってきた段階で、感想が2つあります。

ひとつは、ヨーロッパ言語のもっている、共通性です。語学の基本は同じだなあ、と実感します。たとえば、接続法や条件法への感覚は、1つの言葉できちんとやっておけば、相当まで、諸言語に生かすことができる。とりわけ接続法の勉強は欠かせないと思いますが、近年の語学教育では、省かれることも多いとか。会話でもひんぱんに使われるのに、なぜでしょうか。

もうひとつは、ブゼネッロの台本の、レベルの高さです。語彙豊富な絢爛たる文体は、いわゆるイタリア・オペラの台本と比べても、傑出していると思います。ついわれわれは発展史観でものを考えてしまいますが、ルネサンスから初期バロックにかけてのイタリア文学のレベルは、際だっている。こうした前提あってこそのモンテヴェルディのオペラなのだなあ、と思うことしきりです。

名古屋で学会2010年11月04日 11時19分33秒

明日から名古屋で、日本音楽学会の全国大会です。発表をなさる方々は、緊張の前夜を過ごしておられることでしょう。私は緊張しているというほどでもないのですが、一応会長で総責任者ですから、無事終えたいと念願しています。委員や幹事の方々がすごくよくやってくださるので、結構、楽をさせていただいています。有料ですがどなたでも覗けますので、名古屋方面の方々、学会のホームページをご覧の上、お越しください。

日本シリーズ、熱戦が続いていますね。私は「巨人から遠い方を応援する」という原則を立てていますので、一生懸命、ロッテの応援です。昔はまったく人気のないチームで閑古鳥の毎日でしたが、いまは熱心なファンがたくさんいて、すごいですね。今回のドラフトでもパ・リーグにスターが多く入り、喜んでいます。アンチ巨人で、ぶれない一生を貫きます。

昨日今日とは思はざりしを2010年11月06日 09時01分39秒

大学での授業を終え、学会のために名古屋に向かいました。高田馬場で山手線に乗り換えましたが、車内が混んでいたので、荷物を網棚に上げました。すると目の前の女性がすっと立ち上がり、「どうぞ」と言うではありませんか。席を譲られることをまったく想定していなかった私はびっくりして、「え、どうして?」と叫んでしまいました。

申し出てくださったのは、爽やかな若い女性。何か言われたのですが、動転していてわかりませんでした。でもお断りしたのでは、彼女に恥をかかせることになってしまいます。そこで、お礼もしどろもどろに、座らせていただきました。

思い出したのは、仲間内で数年前、優先席の話題で盛り上がったことです。そのおり先代の助手に「先生はまだ譲られませんよね?」と聞かれ、「譲られるわけないだろ」と答えていたのでした。その日は、思いの外早くやって来たようです。

直前に取った、名古屋のホテル。飲食至便との触れ込みでしたがその通りで、たむろする外国人とひっきりなしに声をかける女性の間をかき分けるようにして、やっとたどり着きました。

今年の学会2010年11月09日 08時47分46秒

日本音楽学会の今年の全国大会は、名古屋の愛知芸術文化センターで開かれました。大学の先生が受験生集めや報告書書きで飛び回っておられる状況であるからこそ学会の役割は大切で、成果を遺していかなくてはいけないと思って臨みましたが、研究発表とディスカッションはきわめて充実しており、とてもいい学会になったと思います。いろいろな大学にドクターコースが生まれ、若い人たちがどんどん手を上げるようになったことが、活性化の一因と思われます。

4つある分科会から1つを選びますので、聴ける発表は、ごく一部。それでも、こういう研究をここまでやっている人がいるのか、という思いに駆られることが、何度もありました。ごく一部しか聴いていないのに特定の発表を紹介するのは立場上問題があるかもしれませんが、他にもいい発表はたくさんあったに違いないという前提で、3つ紹介します。

まず、中部支部鳥山頼子さんの、「18世紀ロシアの農奴劇場におけるオペラ・コミック上演の実態」というもの。18世紀ロシアの音楽文化の主体が輸入されたイタリア・オペラであり、そこにグレトリらのフランス・オペラが加わったことは一応知っていましたが、その公演主体が農奴を育成した貴族所有の劇場であったことは全然知りませんでした。その実態が若い研究者によって克明に調査され、明快に説明されたことに驚嘆。心から拍手を送ります。

関西支部高野茂さんが関東支部の高坂葉月さんとの協力で発表された「マーラーの交響曲の新しい解釈の可能性--第6、第7交響曲を中心に」も、ワーグナーとの関連を重視した詳細な楽譜分析と美学的視点の結びついた、格調高く啓発的な研究発表でした。もうひとつ、関東支部江端伸昭さんの「ピカンダー年巻--J.S.バッハの4声コラール手稿資料からの検証」は、バッハの資料の精通者である江端さんがバッハの死後収集出版された4声コラールと失われたカンタータの関係を克明に追究された、世界的にもトップレベルのもので、多くを学ばせていただきました。

こうしたそうそうたる方々の組織を束ねる会長の役を、選挙の結果もう一期つとめさせていただくことになりました。よろしくお願いします。

原因究明中2010年11月10日 11時26分37秒

電車で席を譲られるようになってしまいました。ペシミストさんのコメントによればそれは風貌に起因するということなので、事態を憂慮しています。それにしても、網棚の荷物の心配までしてくださる皆様のご厚情を、驚きの念をもって受け止めています。性善説、性悪説を考える上で、とても参考になる事実です。ありがとうございます。

昨夜は深夜の3時までがんばって、NHKの原稿を書きました。その結果、午後に空き時間を作れたので、行きつけの新橋のマッサージ店へ。私の身体を知悉している中村先生に「電車で席を譲られるようになってしまいました」と泣きついたところ、この身体の状態ででよく仕事ができますね、とのお達し。やり甲斐がありますから、と答えましたが(これは本当)、学会のしわ寄せもあり、どうやって乗り切れるか確信の持てないここ数日でした。授業の準備も手抜けないのです。たとえば、いま大学院の授業でヘーゲルの『美学講義』を取り上げていますので、あらゆる細かい時間を使って、準備しています。何よりも、自分のためになることです。

夜は、ジョルジュ・プレートル指揮のウィーン・フィルへ。86歳の巨匠の生命力に驚嘆し、席を譲られたぐらいで気落ちしてはいかんと思い直しました。明日起きてから、批評を書きます。

年齢も芸のうち2010年11月13日 23時22分55秒

年齢の話が続きましたが、なんとなく思っていて、ここに至り、明確に意識したことがあります。それは、指揮者にとって年齢は大きな価値だ、ということです。

考えてみると、最近、80代の指揮者ばかり聴いている。新聞批評でやったのが、アーノンクールとプレートル。今日やっていた今月のCD選でぶっちぎりなのが、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲と交響曲第3番を指揮している、ブーレーズ。そしてブルックナーがDVDになった、スクロヴァチェフスキー。80代の人たちが、すごい演奏を続けているのです。ギュンター・ヴァントの最晩年も、思い起こされます。

いろいろな理由があると思いますが、主な理由は、2つでしょう。1つは、演奏家と違って指揮者は自分だけでは練習できないので、キャリアを積むことで勉強が加速される。ようやく統率できるようになった、と実感するのも、かなり年が来てからに違いありませんし、その頃にはおのずと、周囲の信頼も増してきています。

もうひとつ、同じぐらいに大きいのではないかと思うのが、高齢になることによって、世俗的な関心から離れるということです。若い人はなかなか喝采とか格好良さから離れられないと思いますが、ある程度高齢になると、本質的なことだけを追求するようになる。結果として、受け狙いの高齢指揮者、というのは存在しません。そんな追求の喜びがあるためでしょうか、80代の指揮者の方々、皆さんお元気ですよね。足元が多少おぼつかなくても、長大な交響曲を精力的に指揮して、危なげがありません。電車で座席を譲られるのかどうかは、存じませんが。

外交2010年11月15日 23時42分16秒

ニュースで外交の話題が中心になってから、かなり過ぎました。中国人船長の扱いが妥当だったかどうかというところから火がついたわけですが、国という相手がある問題のむずかしさを痛感します。しかし、似たようなことは、周囲にもよくあると思うのです。私も長い人生の間に、同じようなことが起こった場合の危機管理マニュアルめいたものをいつしか作っているものですから、今回は、まずいんじゃないの、という思いがあります。

世にあるトラブルの多くは、自分を大きく見せたいと思う人によって引き起こされます。「人」を「国」と読み替え、瀬戸際政策といった言葉を思い出していただいても、かまいません。

自分を大きく見せたい人、あるいは、自分の大きさが認識されていないと考える人は、まず目立つことが必要です。ですから、どぎつい仕掛けをしなくてはならない。それが正当か、不当かは二の次で、不当なぐらいの方が、耳目を引きつける効果があります。それは結局損だ、というのは正論ですが、正論は我慢の根拠にすぎない、ということも起こります。

こういう場合には、挑発に乗らない方がいい、というのが大原則です。同じ土俵に上げられてしまうと、AとBのケンカという形で意識され、先方の思うつぼになってしまいます。放っておくのが上策なのですが、状況によっては、そういかない場合がある。船がぶつかって来て、そのあと日本批判の大合唱、などという場合は、甘受しているだけじゃダメですよね。個人ならともかく、大きな組織を率いている場合は、一定の対応をしなくてはいけません。(続く)

落としどころ2010年11月17日 08時40分05秒

先制攻撃で挑発した人がいるとします。それが耳目を集めたとしても、それでトラブルが解決、というわけにはいきません。一定の効果を上げたところで次に考えるのは、落としどころです。挑発した人は頃合いを見計らい、やあやあこのへんにしませんか、と言って手を差し出してくる。この手を平和主義的に握り返してしまうと、相手の完勝になります。自分が認知された上、うまくいけば、相手のテリトリーに食い込むことも可能になるからです。ですから、先に殴られた場合には差し出された手をうかつに握らないほうがいい、というのが、私の基本的な考えです。

こうした考え方からしますと、衝突した船の船長を帰し、首脳会談にも応じてもらって良かった良かったなどというのは先方の思うつぼだと思うのですが、いかがでしょう。毅然として対処すべき事柄は世の中にいくらでもあり、そうすることが、なかなかむずかしい。この問題などはひとつの参考になると思った次第です。

この問題は最近、ビデオの投稿是か非か、という話にシフトしていますよね。これには守秘義務という観点がからんでくるので、日を改めて論じたいと思います。

11月下旬のイベント2010年11月18日 11時40分53秒

ご案内をしないまま、イベント・ラッシュの時期を迎えてしまいました。その準備もあり、多忙を極めています。簡単にご紹介します。

20日(土)10:00は「楽しいクラシックの会」例会(立川市錦地域学習館)。先月の指揮者論が故人で時間切れになってしまったため、その続編を「現役指揮者は誰がいる?」というタイトルでお話しします。

21日(日)14:00から、私の弟子であるソプラノの山崎法子さんのリサイタルが東京文化会館の小ホールであります。お得意のヴォルフなどドイツ歌曲のプログラムです。応援してあげてください。

23日(火)11:00から、サントリーホールのオルガン・コンサートに出演します。皆川先生のホストによる「アンナ・マクダレーナが愛した夫 J.S.バッハ」と題するコンサートで、オルガニストは椎名雄一郎さん。小林義武さん、樋口隆一さんも出演されますので、限られた時間でのお話となります。

27日(土)13:00から、朝日カルチャーセンター横浜校でバッハ講座です。『魂のエヴァンゲリスト』を使った講座の2回目で、アルンシュタット時代をとりあげます。

30日(火)18:30から、国立音大講堂小ホールで、バッハ演奏研究プロジェクト、ピアノ部門の発表会があります(入場無料)。今年は《ゴルトベルク変奏曲》がテーマでしたので、受講生によるリレー演奏、渡邊順生氏による抜粋演奏、加藤一郎氏による《半音階的幻想曲とフーガ》などを聴いていただきます。私が司会します。以上、どうぞよろしく。