《ローエングリン》讃2013年02月19日 10時26分36秒

「楽しいクラシックの会」の今年のテーマがワーグナーですので、作品をひとつひとつ調べ直しています。

《さまよえるオランダ人》と《タンホイザー》の間にワーグナーの大きな成長があり、《タンホイザー》自体にも幕を追うごとに充実があって、第3幕のすばらしさは格別、という認識を得たのですが、さて、《ローエングリン》はどうか。何となくこの作品は苦手、というのが偽らざるところでした。

しかし第1幕を勉強し直してみて、脱帽の心境です。《タンホイザー》の第1幕と比べても、ワーグナーの世界は格段に深められ、発展しています。ポイントは3つで、玄妙な和声の美、三管編成と弦の分割による多彩をきわめた音色、卓越した劇的構成。その認識は以前からありましたが、今回調べ直し、ここまで進んでいるのかとあらためて驚いた、ということです。

私の尊敬する米沢の友人は、音楽をたいへん広く、深く聴いている人。昨夏訪れたとき、彼があらゆる音楽で一番好きなのは《ローエングリン》の前奏曲だ、と言ったのでびっくりしました。もちろん、聖杯の接近を暗示する第1幕の方です。

そこで、フルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮した1930年の録音を引っ張り出して、聴いてみました。これが、すごい。聖杯の国が少なくとも芸術の中に存在することを確信していなければ、このように生命力のある演奏はできないでしょう。聴く方も、その確信を共有したい。ネズミの走り回るさまを見ながら聴く音楽では、絶対にありません。

こういう勉強ができ、作品に新たに感動できるのは、お仕事の場をいただいているから。「たのくら」に感謝です。